キンプリの応援上映はなにがすごいのか本気で解説してみる

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私の愛しいアップルパイへ

「KING OF PRISM by PrettyRhythm」(通称キンプリ)という劇場版アニメをご存知でしょうか。私のような愛すべき青年が歌って踊るアニメです。

普段アニメはほとんど観ないのですが、多方面の友人から「キンプリの応援上映はすごい!」という発言を何度も聞きました。調べてみるとネット上でもキンプリが大変話題になっていることを知りました。私もバンドを組んでライブをやっている身ですから、キンプリの応援上映とはなんぞや?と思い観に行ってきました。

そして、確かにすごかったです。通常の劇場ではあり得ない光景が広がっていました

キンプリってなに?応援上映ってなに?

そもそもキンプリってなに?応援上映ってなに?と思うでしょう。簡単に解説します。

キンプリってなんなの?

キンプリは「KING OF PRISM by PrettyRhythm」という劇場版アニメのタイトルを省略したものです。

もともとタカラトミー社とシンソフィア社が共同開発したアーゲードゲームに「プリティーリズム」がありました。プリティーリズムはゲームが好評だったこともあって、マンガやアニメなど複数のメディアを使って広まっていきました。なお、現在プリティーリズムは後継タイトルの「プリパラ」に代替わりしています。

プリティーリズムおよびプリパラは女の子の登場キャラクターを着せ替えしたり、ダンスしたりを楽しむゲームでした。ターゲットも主に幼い女の子に向けたタイトルです。このプリティーリズム内に登場するサブキャラクターとして男子キャラクターがいます。

このプリティーリズムでサブキャラーだった男子キャラクターを主役においてスピンオフ作品として制作されたのが今回のキンプリです。プリティーリズムがもともと着せ替えとダンスのゲームだったこともあり、キンプリも男子キャラクターがイカした衣装で歌って踊るシーンがメインのアニメとなっています。

それで、キンプリが本当にすごいのは、こういった事前知識もなく、ストーリーも背景もよく分からずにキンプリを観にいったらハマってしまったという人が多発したことです。思い入れのある作品の劇場版だったらのめり込むのも分かるのですが、知らないキャラクターの知らない物語に急にのめり込めるってすごいことですよね。

応援上映ってなんなの?

応援上映という言葉も私は知らなかったのですが、古くは10年近く前の2007年頃から生まれてきたもののようです。

通常の劇場では観客は静かに映画を観るものですが、応援上映では声出しや歓声、ライブなどで使われるペンライトの使用もOKです。コスプレがOKなところもあります。まるでライブを観ているかのように映像作品を楽しめるということですね。実際、過去の応援上映でも音楽を題材にした作品がほとんどのようです。

生のライブだったら熱狂するのも分かるのですが、ストーリーも毎回同じ、セリフも毎回同じ、歌も毎回同じ映画内のショーでそんなに盛り上がれるのか?と疑問に思うでしょう。しかし、実際キンプリでは普通の音楽ライブよりも観客が盛り上がっているくらいの熱狂ぶりでした。

しかも、一度ハマると何十回も観に行ってしまうというのです。さらには、普段あまりアニメを観ない人でもハマってしまう人が続出とのこと。これも大変すごいことですよね。

キンプリの応援上映はなにがすごいのか本気で解説してみる

それでは、キンプリの応援上映のどのへんがすごいのかを先日観に行った感想をもとに解説してみます。

創り手なら誰もが理想とする空間を実際に実現できてしまった

まずキンプリの話を聞いて私がすごいなと思ったのは、絵画でも音楽でも映画でも小説でもビジネスでも、創り手なら誰もが想像するであろう「受け手がこのくらい熱狂的に盛り上がってくれたらいいな」という想いを、実際に形にできてしまったというところです。

劇場版アニメだけに特別求められるものではなく、あらゆる作品、あらゆる商品、あらゆるサービス、あらゆるビジネスが目指しているものが形になっているのがすごいところなのです。そういう意味では誰もが体験する価値のある作品です。

通常、受け手はまず客観的にものごとを判断しようとするものです。作品からは一歩引いた位置で作品や商品を観察しようとします。本当に信頼して心を許したものでなければ、手放しで熱狂するなんてことはまずありません。

しかし、創り手というのは魂を込めて作品や商品、サービスを作っていますから、その気持ちに呼応するように受け手も熱狂して欲しいと思うのが人情ってものでしょう。とはいえ、なかなかそううまくはいかないのが現実です。だからみんな知恵をしぼって試行錯誤をしています。

しかし、キンプリはそれを見事にやってのけたのです。観た者を釘付けにし、熱狂的に作品にのめり込ませ、作品と観客同士を一体化させ、何度も足を運ばせ、友達を誘ってでも行こうと考えるそれを!

コントロールしようと思ってもコントロールすることのできないそれを!

物語性を犠牲にしてでも観たいシーンの連続にした潔さ

なぜキンプリがそのような奇跡的な空間を作れたのか、考えてみます。まずもってすごいのがその作品の内容の潔さです。

とあるショーに一目惚れした主人公がスターを養成所に入って、スターダムを駆け上がっていく的なプロットは一応あります。また、敵対する学校や組織との確執、先輩や仲間たちとの絆といったパーツもあります。

ただ、実際のところ作品を観てみると物語性は破綻しています。突然登場するキャラクターや、最後まで回収されない伏線、必然性のない展開など、冷静に観るとストーリーはめちゃくちゃです

ただ、よく考えるとストーリーがめちゃくちゃなのではなく、観客が観たいシーンの連続にするために物語性を犠牲にしたのだとわかります。突然木の上から少年が降ってきたり、突然少年同士がぶつかってキスしそうになったり、突然変身して全裸になったり。音楽作品でいうならずっとサビ、映画作品でいうならずっと予告編、といった感じです。

その形式はどちらかというとアニメというよりは、ミュージカルやサーカスに近いかもしれません。そのうえでアニメだけが持っている強みを徹底的に突き詰めたという点で、ストーリーが破綻していても他の作品と一線を画す唯一無二の作品になったのではないでしょうか。

同じセリフ、同じ物語、同じ歌でも熱狂できることを証明した

キンプリの応援上映というのはどういうものかというと、コスプレ、歓声、ペンライトの使用が許可されています。とくにすごいのは歓声とペンライトです。

歓声は字幕が出るようなものではなく(序盤にごく一部そのようなシーンもありますが)、観客は登場キャラクターの一挙手一投足に応じてほぼアドリブ的に自由に歓声をあげています。例えばキャラクターが「場所はここであってるのかな?」と言うと「そうだよー!」と叫んだり、キャラクターの後ろに黒い影が迫ってくると「うしろー!」と叫んだりといった具合です。

それから、ファンはみんな複数の色を切り替えできるデジタル式のペンライトを持っていて、いま写っているキャラクターのテーマカラーに合わせて何本ものペンライトを振っているのです。多い人だと片手に5本ずつで計10本ものペンライトを掲げている人もいました。

▼よく使われているのはこれです。

そして、これらが成り立つということは、ファンはみんなキンプリを何度も観ていて、次にどのカラーのどの人物がどのような動作をするかすべて暗記しているのです。Greeeeeat!

もう1つ私が驚いたのは、同じセリフ、同じ物語、同じ歌でもこのような熱狂的な応援がなされるということです。しかも相手は生身の人間ではなく、デジタル化されたアニメのキャラクターです。

音楽で考えるなら、通常は生身の人間が演奏するライブこそ価値があると考えがちです。コピー不可能なコンテンツだからこそ、熱狂的な応援がなされるなら納得がいきます。ライブDVDを観ても、ライブDVDに写っている観客ほどは熱狂できないのが通常でしょう。

キンプリのすごさは、コピー可能なデジタル化されたコンテンツにも関わらず、音楽ライブのような熱狂的な空間を作れたことです。

劇場を「トキメキ」を発散できる空間に仕上げた

本質的にキンプリがすごいのは、作品を「トキメキ」という感情とひも付けたところだと思います。

私が考えるに、人が映像作品を見続けてしまう大きな理由は好奇心を満たしたいからです。ですから、1度観はじめた映画を途中で止めることがなかなかできません。一方で、原動力として好奇心に頼っていると、1度観たらもう満足してしまうのが普通です。

2回以上観る映画作品が少ないのは、1回目に感じたような好奇心が満たされていく快感が減衰してしまうと分かっているからです。これはとくにサスペンス映画や推理小説などでは顕著でしょう。

しかし、多くのファンが何十回も観に行きたくなるキンプリはそれに当てはまりません。好奇心とは別の原動力が働いているということです。それはトキメキという感情の発散だと私は思います。

私が観に行った劇場の観客は20代~30代の社会人女性が多かった印象です。おそらく全国的にもキンプリのメインターゲットはそうなのでしょう。キンプリの最大の魅力というのは、学校で人気の男子に向けていたような、学生時代に自然に行っていた「トキメキ」という感情が発散できる空間であるということではないでしょうか。

好奇心ではなく、「トキメキ」という感情が原動力にあるからこそ何度行っても飽きないのです。それどころか、何度も通えば通うほど、登場キャラクターに対するトキメキは強まっていくでしょう。先述したような、物語性を放棄してでも見どころのあるシーンを続け、毎回同じセリフ、毎回同じ物語、毎回同じ歌に対してみんなで歓声をあげることは、トキメキの感情を強烈に後押ししているはずです。

キンプリは人々に溜まったトキメキを発散させるという唯一無二の空間をつくるための実にCooooool!な作品だったというのが私の感想です。

キンプリの応援上映は確かにすごかった!

ということでキンプリを観に行って体験したすごさを整理してみました。いろいろと説明してみましたが、このすごさってのはなかなか言葉で説明しづらいものがあります。

もしご興味あるなら、ぜひ一度実際に観に行って空間を体験してみてください。最近は応援上映の回数も減っているようですので、はやめに行くことをおすすめします

▼キンプリの応援上映がやっている劇場とスケジュールは以下が分かりやすいです。

貴下の従順なる下僕 松崎より

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システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。