Zettelkasten(ツェッテルカステン)に保存する対象は徹底的に絞る

Zettelkasten(ツェッテルカステン)に保存する対象は徹底的に絞る

私の愛しいアップルパイへ

自らの知識をまとめる第二の脳として、Zettelkasten(ツェッテルカステン)メソッドを用いてナレッジを蓄積していくことにしたのはあなたもご存じのとおりです。

今日は1年以上Zettelkastenを構築・運用してきて分かってきたことの1つをあなたに1つご披露したいと思いまして筆を取った次第であります。

さぁ、暖かいコーヒーでも飲みながら話を聞いてください。

Zettelkastenに求められるのは収集より集中

Zettelkastenを構築・運用する中で分かってきたのは、知識をPermanent Notesに変換してZettelkastenへ保存する対象を極力絞ることです。ここでいう絞るとは、ノートの枚数を減らすという意味ではなくZettelkasten全体の意図と方向性を明確にしておくということです。

Permanent Notesとは、永続的に使える知識として誰でも分かるレベルに清書されたノートです。

特定のプロジェクトに対する備忘録的なものや、なんとなく好奇心で調べたことまでZettelkastenに保存しようとすると、Zettelkastenでは公表できるレベルのノートが求められるために負荷が高くなりすぎてしまいます

ここで妥協して、公表できるレベルにないノートや、まったく公表に適さないノートまでZettelkasten本体へ保存されるようになるとZettelkasten全体の質が落ちてしまうでしょう。

私自身、学んだものを何でもかんでもZettelkastenに保存しようとしてZettelkastenの運用が回らなくなる苦い経験をしました。

特定のツールの使い方やマニュアルを読めば分かるハウツー、新しく学んだ英語の文法や生活の知恵など何でもかんでもZettelkastenに書いておこうとすると、Permanent Notesへ清書待ちのノートで溺れることになります。

また、一度清書待ちのノートが溢れかえると今度は新しい知識をインプットすることに抵抗を感じるようになり、知識の収集が停滞する歯がゆい経験もしました。

Zettelkastenを使うかどうかにかかわらず、人間は日々溢れかえるほどの情報を受け取っており、新しい知識を日々学んでいます。そのすべてを漏れなく収集して記録しておくというのは不可能なのです。

新しく学んだ知識を漏れなくPermanent Notesにする必要はない

その結果、Zettelkastenは極力対象を絞ることが重要であることに気がつきました。

Zettelkastenを使った執筆はそれなりの負荷が発生します。対象が増えれば増えるほど、執筆はたいへんになります。どこからどこまでをZettelkastenに保存するか分別することは、質の高いZettelkastenを構築・運用する鍵です。

実際、ニクラス・ルーマンのZettelkastenアーカイブを見てみても、Zettelkastenは新しく得た知識を何でもかんでも保存しておくものとしては使われていないことが分かります。むしろ、かなり明確な意図と方向性を持っていることがインデックスを見るだけでも分かります。1

もしそのように使われていたとしたら、Zettelkastenにはもっと素朴な生活の知恵やツールの使い方などが保存されていたはずです。

ズンク・アーレンス氏によるその解説を読んでみても、Zettelkastenは知識の定着や学習を効率化するものではないことが分かります。ノート作成にはリソースをかけなければならないからです。2

Zettelkastenの効果というのは、何でもかんでも知識をまとめられることではなく、本当にクリティカルなことに効果的に集中できる点にあります。

それは公表できるレベルを目指して自分の言葉で説明し直す(エラボレーション)プロセスによって実現されます。

公表する可能性があるものだけZettelkastenに保存する

大切なのは知識を漏れなく保存しておくことではなく、本当に必要な知識だけを高い水準で保存しておくことです。

では、本当に必要なクリティカルな知識とはなんでしょうか。それは「公表する可能性があるもの」ということになります。

Zettelkastenを構成する最重要ノートであるPermanent Notesは公表できるレベルのノートです。Zettelkastenは公表を前提とした知識を格納することに最適化されています。

とはいえ、現代はニクラス・ルーマンの時代と比べて公表の閾値が下がっており、SNSやブログでの発信を公表に含めると結局は新しく学んだ知識のほとんどが対象となってしまうでしょう。

ですから、公表する可能性があるものとは本や論文として世に出すことを想定している分野をイメージすると良いでしょう。

本や論文を出すつもりがないからイメージしづらいという場合には、独自の理論を構築したいものと考えれば良いです。単にその情報を身につけたいだけでなく、自分なりの理論を確立して世に出したいと思えるものと、実際にそのパーツとして使えそうなものをZettelkastenに保存するのです。

必然的に、Zettelkastenを構築するにあたっては、自分がどのような独自の理論を構築したいと思っていて、どのような分野でスペシャリストになりたいかあらかじめ自問する必要があると言えます。

実際、ニクラス・ルーマンは独自の社会システム理論を世に出すべくZettelkastenを使ったのです。彼のZettelkastenを見ると「アイデンティティ」や「競争」など一見社会システムからは遠いと思われる分野においても、社会学と社会システムの文脈からまとめられていることが分かります。34

後で使える知識はProject Notesに書く

ではPermanent NotesとしてZettelkastenに保存はしないけれども、あとあと使えそうな知識はどこに書けばよいのでしょうか。

こういったものはProject Notesとして、Zettelkasten本体とは分けておくと良いでしょう。

後で使えそうな情報のまとめやプロジェクトの振り返り、ツールの使い方や調べれば分かるハウツー情報など、メモしておくと後で時短につながる使える知識はProject Notesにメモ書きしておきます。

Project Notesであれば公表できるレベルという制約はないので、必要最低限の情報を走り書きしておくだけでもよいでしょう。参考リンクを添えておくだけでもかまいません。

Permanent Notesにするほどではないけれども、残しておけば後で使える知識はProject Notesを使うことでカバーできます。

貴下の従順なる下僕 松崎より

参考文献

  1. Der Zettelkasten Niklas Luhmanns
  2. TAKE NOTES!――メモで、あなただけのアウトプットが自然にできるようになる p.142, Sönke Ahrens, 日経BP, 2021/10/14
  3. ZK I: Zettel 24 (1)
  4. ZK I: Zettel 39 (1)
著者画像

システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。