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私の愛しいアップルパイへ
ある経験によって、自分の考えが根底からガラッと変わってしまったという経験を時おりします。
つい最近私が体験した思考の変革もその類のものでした。
どうでも良いと思っていた経験が頭の片隅に居座り続け、無意識のうちに少しずつ少しずつ思考を変革していったのです。
そして、気がついた時には私の考えは根底からガラッと変わっていました。まるでブラックコーヒーに注いだミルクが、徐々にコーヒー全体の色を変えていくが如くです。
聞き上手になる５つの方法
ことの発端はたかだか８分の動画でした。ジュリアン・トレジャーがTEDで披露した「聞き上手になる５つの方法」というプレゼンです。
簡単に解説すると、音の専門家であるジュリアン・トレジャーが、自然な環境音を受け入れることの効果について解説したものです。
ここから得られる教訓は「汝、自然の音を不自然な音で拒絶するな！”拒絶”を欲すれば、”拒絶”に取り憑かれる！幸福になりたくば道は１つ。自然な音を自然に受け入れることだ！」ということです。
私が最初にこの動画を見たときは「hmm、、、まぁ、確かに面白い考え方ではあるな」といった程度の反応でした。何ごとも受け入れようって精神は大事ですが、それが目新しい革新的なアイデアだとは思えませんでしたし、５つの実践方法もどうも現実に即していないと感じたからです。
耳栓を前にしたとき
それから数日後のことです。私は少し前に見た動画のことなんてすっかり忘れ去っていました。
それまで私は、創造的な仕事に集中するためには耳栓が必須でした。耳栓によって静寂に包まれた状態こそ、真にストレスフリーで、没頭すべきことに没頭できる状態だと感じていました。それは「耳栓こそ人類が生み出した最高度の英知だ！」と叫ぶほどでした。
そして、この頃はちょうど耳栓の交換時期で、ネットショップで買った１ダースもの新しい耳栓が到着したのです。
この新しい耳栓を前にして、急に例の動画が思い出されました。「人工的に作られた不自然な静寂に頼るのは、本当に効果的なのだろうか？」と。
何日か耳栓を使ってみましたが、どうも以前の様にしっくりこなくなりました。自然な音を聴いて、自然に音を受け入れ、自然に集中力を上げることができるのでは？という思いが、徐々に芽生えてきたのです。
いつしか、世界に満ち溢れた環境音が、耳栓の外側から美しいシンフォニーのように心地よく迫ってくる情景が浮かび、それを明朗な心で受け入れたいと願うようになりました。
結局のところ、私は新しい耳栓をほんの数回使っただけで、机の引き出しの奥の方に追いやってしまいました。
そして、なるべく聴こえてくる音に愛着を持つように作業する癖をつけ始めました。
それから数ヶ月たった今では、家のすぐ下で行われている道路の工事も、電車の中での他人の話声も、甘美に響く竪琴のように感じ、落ち着いて作業に集中できるようになったのです。
耳栓を外して受け入れよ！
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“自然なことがらを不自然に拒絶するな！”
音に限った話ではありません。あのたった８分の動画による教えは、人間を幸福に導く本質的な考え方として、今でも私の頭の中で少しずつ少しずつ成長しています。“拒絶”するより”受け入れる”ほうが、あらゆる場面でより良い結果を生むものです。
まずは耳栓を外して、自然な音を自然に受け入れる努力をしてみてはいかがでしょう。効果が出るまで時間がかかっても、”拒絶”より大きな可能性を秘めた挑戦です。
貴下の従順なる下僕 松崎より