私が新曲に蒔いた5つの"奇妙さ"の種

カテゴリ: 音楽理論

 

ヒエロニムス・ボス「快楽の園 ※中央部の抜粋」(1510-15年頃)

ヒエロニムス・ボス「快楽の園 ※中央部の抜粋」(1510-15年頃)

 
私の愛しいアップルパイへ
 
私にとって最も尊い労働。労働であると同時にそれ自体が目的であるもの。
 
それこそ私にとっての「作曲」です。
 
だからこそ私はこの労働に関するより多くの事を書き記しておきたいのです。
 
私の記憶が薄くなり、作品に対するより多くの”象徴”と”誤謬”が生まれる前に!
 
 
さて、つい先日ようやくお披露目となった新曲「Charles」。今回は私はいかにして”彼”を創り上げたのか、そのアイデアを書き記しておきましょう。

 

 

“奇妙さ”の種

 

Charles。私にとって彼はまさに“奇妙”そのものでした。私が”彼”に蒔いた“奇妙さ”の種は順調に芽を出し、あなたの耳のそのさらに奥にある脳髄に“奇妙さ”の花を咲かせた事でしょう。
 
それらの内、最も主要なる”種”について以下にご紹介しましょう。
 
 
◇複雑ロンド風の楽式
 
ロンドとは一つの主要な楽節を、他の楽節を挟みながら旋回していく楽式です。
 
一つの楽節をアルファベットで表すと、以下の通りになります。
 
A ⇒ B ⇒ A ⇒ C ⇒ A ⇒ D ⇒ A ⇒ E ……
 
この例ではAを主要な旋律として、それがBやCを挟みながら何度も旋回していきます。
 
この楽式により音楽的な構成にする為に、とある繰り返しの規則を与えたもの、それが複雑ロンドです。

 
A ⇒ B ⇒ A ⇒ C ⇒ A ⇒ B ⇒ A
 
最初の例と見比べてみて下さい。主要な旋律Aとは別にBをもう一度再現する事で、「A⇒B⇒A」をCで挟む3部構成が生まれます。こうする事でロンドにより音楽的な構成美が生まれるのです。
 
 
私は新たに楽曲を作る時、例え”彼”が数分の作品であっても、その構成には最新の注意を払います。
 
私が今回”Charles”の為に書いたのはこの複雑ロンド風の楽式でした。2秒51分の小さな作品の中で繰り広げられるせっかちな展開は、実は明確な規則を持って成り立っています。
 
まずは全体を図示してみましょう。

楽式構成

 
これらの内主要な楽節である第Ⅰ、第Ⅱ、第Ⅲ楽節を抽出してみます。
 
第Ⅰ ⇒ 第Ⅱ ⇒ 第Ⅰ ⇒ 第Ⅲ ⇒ 第Ⅰ ⇒ 第Ⅱ ⇒ 第Ⅰ
 
見て下さい!複雑ロンドとぴたり一致するでしょう!!
 
 
◇教会旋法と旋律のルール
 
この曲の大主調にはDを主音としたドリア旋法が使われます。これは過去の遺産である教会旋法の中でもオーソドックスな旋法です。
 
この旋法で旋律を書くにあたって、私は旋律に以下4つのルールを設ける事で、異国的でありながらも自然な響きを”彼”に与えました。
 
・半音は回避する(特に導音⇒主音の進行は!)
・主音での終始は長三和音とする(=Fを#する)
・旋律の下降時はBを♭させる。上向時は♭しない
・FとBの増四度は、Bを♭させる事で避ける
 
 
◇微量な転調を繰り返す
 
この楽曲は大主調であるドリア旋法から始まりますが、仲の良い調を中心に少しずつ転調していきます。
 
各楽節はその出現位置によって都度違う調を持ちます。
 
例えば第Ⅰ楽節はドリア旋法から始まりますが、第Ⅲ楽節を挟んだ後は属調であるト長調に転調され、最終的にはイ短調に転調されます。
 
これらは非常に仲の良い間がらでの転調ではありますが、楽曲全体で10回程度の微量な転調を繰り返す事であなたに不規則で不安定という名の”奇妙さ”を与えるでしょう。
 
そして相反するようにかのビフテキコーラスがあなたの耳に一貫性を持った”ユーモア”を与えるでしょう!
 
 
◇旋律の重心と楽器の重心
 
“彼”は時に酷く優柔不断になります。それはつまり旋律に重心が無くなった状態です。
 
無数の旋律が同時に鳴っていながら、決してどの旋律も中心的な構成要素になろうとしたがらないのです。
 
アタックの強いベース音が鳴ったかと思いきや、その0.5秒後にはやや右から高音の木管楽器が鳴り始めます。
 
そちらに気をとられる前に左から和音の連打が始まります。そして中音域にはかのビフテキコーラスが循環するのです。
 
楽器構成にも”彼”の優柔不断さが表れています。バンスリやシタール等のより古い異国的な弦楽器、管楽器が大々的に使われているのと同時に、より近代的な電子楽器が同じくらい大々的に使われます。
 
このとらえ所の無い矛盾を抱いた構成は”奇妙さ”を演出する事でしょう。
 
 
◇作曲プロセス管理の徹底
 
これは直接耳に聴こえる部分ではありませんが、結果的に”彼”を大きく変えた事でしょう。
 
私は今回、自分の作曲プロセスをじっくりと見つめあい、偏執狂的な程に厳密に作曲プロセスの管理を行いました。
 
この方法論は以下の記事に詳しく記載しています。
作曲での”量か質か”に終止符を!音楽家は”量も質も”取れ!!

作曲での”量か質か”に終止符を!音楽家は”量も質も”取れ!![その2]

作曲での”量か質か”に終止符を!音楽家は”量も質も”取れ!![その3]

作曲での”量か質か”に終止符を!音楽家は”量も質も”取れ!![その4]

 
この管理手法によって、”彼”を作り上げられる過程で多数の設計書が生まれました。
 
以下はそれらのごく一部です。
 

楽器スタック構成

 

楽式構成

 

旋律の組み合わせ

 
これらは”彼”に非常に多くの創造的な変化を与えた事でしょう。
 
 

それでは今一度聴いてみましょう

 

さて、ここまでであなたには存分に”奇妙さ”の種を植え付けられたはずです。
 
今一度”彼”の声に耳を傾けて下さい。
 
そこには刺激に溢れた新たな発見、”奇妙さ”を見出せるでしょう。
 
[soundcloud url=”http://api.soundcloud.com/tracks/25198940″]  
貴下の従順なる下僕 松崎より


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