ミッション・ステートメントを作って、抽象的なことを延々と考え込んでしまうことを予防する

カテゴリ: 7つの習慣
ミッション・ステートメントを作って、抽象的なことを延々と考え込んでしまうことを予防する

私の愛しいアップルパイへ

ミッション・ステートメントは個人的な価値観を表明した文書で、個人の憲法とも表現されることもあります。夢見るリアリストにとって永遠のバイブルである7つの習慣でお馴染みです。1

ちなみに、私のミッション・ステートメントはこちらで公開しています。ミッション・ステートメントの作り方はこちら

ミッション・ステートメントはトップダウンのアプローチとして知られていますが、実はボトムアップ的なアプローチとしても一定の効果を発揮すると感じています。

私は10年ほど前にミッション・ステートメントを作成して、今に至るまで小まめに文書を更新しながら運用していますが、ボトムアップ的な意味でたびたび助けられました。

無限推論を中断するツールとしてのミッション・ステートメント

簡単にいえば、それは目の前の仕事を遂行する上での悩みを少なくすること、もしくは悩んだときにその範囲を限定させることです。

カントはある全体性に向かって無限に推論できる能力が理性には備わっていると説いたそうです。具体から抽象へと際限なく思考を展開”できてしまう”のです。これは無限遡行、無限後退(英:Infinite regress)といわれるものです。2

たとえば、仕事とは何か? と考え始めると、続けて幸福とは? 人生とは? 実存とは? 世界とは? 生命とは? 存在とは? と無限に抽象的な思考を展開できてしまう機能です。

はてはカントが唱えた4つのアンチノミーにたどり着きかねません。

抽象的な思考ができることは結構なことですし、実際にこの機能は哲学者や形而上学を学ぶ者にとっては何よりも有用でしょうが、そうでない場合には意図せず行動を抑制する要因になりかねません。

上司への報告メールを一通出そうとしただけのはずが「人間関係とは?」「組織とは?」「仕事とは?」「幸福とは?」「存在とは?」などと考え出してしまい、一文字も書き進まないという事態もあり得るのです。

次のミーティングを日程調整しようとして、「時間と空間は有限か」について延々と頭を悩ませていては無能の烙印を押されても仕方ありません。

きっかけが何であれ「自分の本当に好きなことは何か」「天職と思える仕事とは何か」「命がけでやりたいこととは何か」などと考えている時には意図せずこの無限遡行の罠に嵌っていると言えます。

では、どうすればよいかというと、行動が必要な時に抽象的なことで際限なく悩み込んでしまう前に、早い段階で推論をストップできるフックを持っておくことです。思考の対象にあらかじめ天井を設けておくのです。

天井とはたとえば、決断リストやミッション・ステートメントのような類のもので個人的なドグマがそれにあたります。

定期的にミッション・ステートメントを読んだり更新したりしていると、内容がかなり正確に頭に入っている状態ができます。

すると日中の作業中に「仕事とは?」「幸福とは?」「実存とは?」などとは考えなくなります。たとえ考えたとしても、ミッション・ステートに自分なりの答えが書いてあれば、現実に戻れます。

これは思考が際限なく広がることを抑制し、日々の不安を減らしながら生産性を高め、目の前の仕事に没頭する上で役立ちます。

この方法は、ミッション・ステートメントをトップダウン的アプローチで使い、望ましい行動を選別するために使うやり方とは大きく異なっています。

むしろ、現実的な生活の中で抽象的な悩みや不安に嵌まり込むことを抑制して今の行動を肯定・没頭するためのガードとして、何よりも現実的な行動を進める上で役立つボトムアップ的アプローチとして生かされているのです。

貴下の従順なる下僕 松崎より

参考文献

  1. 完訳 7つの習慣 Location 2320/7817, スティーブン・R・コヴィー, キングベアー出版, 2013/08/30
  2. 新しい哲学の教科書 現代実在論入門 Location 113/3902, 岩内 章太郎, 講談社, 2019/10/12
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