作曲での”量か質か”に終止符を!音楽家は”量も質も”取れ!![その3]

カテゴリ: 音楽理論
Matthias Stomer 「羊飼いの礼拝」 (1637頃)

Matthias Stomer 「羊飼いの礼拝」 (1637頃)

 

私の愛しいアップルパイへ

 

作曲は量か質か? No!

音楽家は”量も質も”とれ! Yes!!

 

「量も質も!」シリーズ第三段です。

前回の最後に私はこう書きました。

 

ポイントは曲ごとの複雑性と外部環境の変化を加味しつつ、スケジュールの管理負荷を下げ、毎月一曲のペースを守る事。

 

今回はいかにしてこの「量も質も!」というルールを守るかに回答しようと思います。

 

目指すは「毎月一曲」!!

 

「量も質も!」シリーズの過去記事はこちら
・作曲での”量か質か”に終止符を!音楽家は”量も質も”取れ!!

・作曲での”量か質か”に終止符を!音楽家は”量も質も”取れ!![その2]

 

ちなみにこの話は随分と前からシリーズ化しております。初めての方はこちらもどうぞ。

・No1.プロセスをモデル化する作曲術

・No2.作曲プロセスは4つのフェーズに分けられる

・No3.これから新曲を作る人に捧げる!作曲のプロセスを3つにモデル化するアイデア

・No4.作曲での”量か質か”に終止符を!音楽家は”量も質も”取れ!!

・No5.作曲での”量か質か”に終止符を!音楽家は”量も質も”取れ!![その2]

・【コラム】音楽家に必要な能力は2つだけ

 

◇「”量と質のジレンマ”を抜け出す」

 

制作ペースを守る為に曲ごとにスケジュールを見積もるのは、曲ごとの個別性と外部環境の不確実性によって不可能であると、私は前回の記事で書きました。そして、なによりも問題なのは前回の記事で書いた以下の部分です。

 

さらに悪い事に、これら全ての手法のアキレス腱は、時間にプロセスを無理やりはめ込もうとして”質”の低下が発生する事です。

 

しかしそれでも制作ペースを決めたい。習慣化したい。この“量と質のジレンマ”に陥ります。それが今までの私です。

 

で、最近ふと閃きました。「ああ、これ見たことがあるぞ」と。

 

それぞれの複雑性の違い・制作プロセスの違いを前提として、量を保ちながら質を向上させつつ、継続的に成果を出す様に管理する。そんな話聴いた事があるなと。

 

一番気持ちいい瞬間です。夢が現実性を帯びて私の目の前に現れたのです。

 

そうかこれはパイプラインマネジメントとステージゲートプロセスだ!

 

◇「パイプラインマネジメントとステージゲートプロセスとは?」

 

この手法は製造業における研究~新規製品開発の一管理手法として考案されたものです。この考え方を作曲に流用します。

 

パイプラインマネジメントは、作曲活動全体を一つの大きなパイプライン(管路)と考えて、そこに流れる水(=一曲一曲の制作プロジェクト)の量を最適化するように管理する手法です。

 

ステージゲートプロセスは、パイプラインを複数のステージに分割して、それぞれのステージの境界に次のステージに移って良いかのゲートを設ける手法です。

 

簡単に図にしてみましょう。

 

 

ここで言うステージは今まで私が何度も唱えて来た4つのプロセス「構想⇒設計⇒実装⇒検査」です。

 

各ステージに設けられているゲートはステージを越える為の条件です。例えば「構想」から「設計」に移る為のゲートでは、”主題は決まっているか?”とか”曲の速さは決まっているか?”などの条件のリストになります。

 

このゲート条件をクリアできれば次のステージに進める事になります。検査のステージ条件をクリアできればめでたく新曲完成です。

 

ポイントは5つです。
 
1.”質”はゲートで担保する
2.ステージ内での制作プロセスは自由
3.制作ペースを守る為に長期的な見通しが不要
4.パイプライン内に水を絶えず注入してやる事
5.音楽活動全体のバランスが見られる
 
それぞれ見ていきましょう

 

1.”質”はゲートで担保する

 

曲の質はゲートで担保します。この条件をどう設定するか、ここがキモになります。この設定した条件の達成を目標として、各ステージでそれぞれの曲を制作していきます。

 

全ての曲に対して同じゲート条件を適用します。そうする事で、ある曲は細部まで作り込みすぎていて、ある曲はモヤっとしか出来ていない。そういうムラを無くします。ゲートをくぐる時には必ず決められた質を確保できているのです。

 

最初の内は条件設定が難しいと思います。ですので、何曲も作っていく中で最適なゲート条件を作り上げて行く必要があります。

 

 

2.ステージ内での制作プロセスは自由

 

これがこの手法の良い所です。ゲート条件さえクリアできれば、各ステージの中でどういう手順で作り込むかは自由なのです。私は以前作曲プロセスは3つにモデル化できると書きました。

 

これから新曲を作る人に捧げる!作曲のプロセスを3つにモデル化するアイデア

 

この3モデルの内どれを使ってもこの一つのパイプラインで管理できます。各ステージの中で、一枚一枚楽譜から作っていこうが、実際にレコーディングしながら作っていこうが自由なのです。

 

ある曲がどういうプロセスで作り込まれていて、どこまで作っていようが、ステージを移動するときには関係ありません。飽くまで現在の状態をゲート条件で見るだけです。

 

3.制作ペースを守る為に長期的な見通しが不要

 

これもこの手法の素晴らしい所です。この手法ではそれぞれの曲が今後どの様なプロセスを経て、あとどのくらいで完成するのか。2週間後なのか2ヶ月後なのか。そんな情報は不要です。

 

今この瞬間に、全体で何曲がパイプラインの中にあって、それぞれのステージにどう分散しているのか。それさえ解れば良いのです。来月の時点でどうなるか。再来月はどうか。そんな先の事は考えなくて良いのです。

 

ハンフリー・ボガードの如く「昨日?そんな昔のことは忘れてしまった。明日?そんな先のことはわからない」てな具合です。これは極端ですが。。

 

ではなぜこれで制作ペースが守れるか?目標が毎月一曲だとして、ペースを守る為に必要なのはスケジュールでは無く”選択と集中”です。

 

ある時点で全体を見渡した時、毎月一曲を達成する為には今どの曲に注力すれば良いのかを適切に”選択”して”集中”できれば良いのです。意志決定の基準を作るという事です。

 

その為にこの手法は最適です。今日が月の初めだとして、毎月一曲を達成する為にはどうすれば良いですか?「検査」ステージにある内の少なくとも一曲に注力すれば良いのです。

 

それだけでは時間が余るのであれば、余裕がある分だけステージ内で数が不足しそうな所に適切に”集中”してやれば良いのです。

 

 

4.パイプライン内に水を絶えず注入してやる事

 

勿論良い事ばかりではありません。欠点もあります。それは、パイプラインの中に常に適切な量の水を張って、プールにしなければならない事です。このプールの水位が少なければこの手法は破綻します。

 

しかし安心して下さい。これは実はさほど大きな問題ではありません。

 

プールの水位を上げる必要があるという事は、もっと勉強してインプットを増やせという事です。つまり、制作ペースを守る為には絶えず勉強して、新しいアイデアを創出し続けなければいけないのです。

 

これは大きなメリットです。“量”によって自身の成長を助長する素晴らしいシナジー効果が生まれます。

 

5.音楽活動全体のバランスが見られる

 

このパイプラインとステージゲートによる素晴らしい効果は、曲の制作を促進してペースを守る事だけに留まりません。

 

パイプラインの全体を眺めれば、今自分の音楽活動でどんな能力が不足しているのか一目でわかります。

 

例えばパイプラインが以下の様なバランスだったとしましょう。

 

 

この場合は、情報のインプットが多すぎて、制作活動が追いついて無い状態を示しています。

 

こんな状態ではどうでしょう

 

 

これは逆に制作に注力しすぎてインプットが足りていない状態です。

 

最適な形は徐々に数が減っていく状態です。

 

 

この形を保てるように日々心がけ、生活をコントロールすれば良いのです。

 

◇「これはもの作りに対する汎用的なアイデア」

 

とりあえず基本概念は理解頂けましたでしょうか。

 

ああそうです、言い忘れました。私のこれら一連の話は、音楽だけに限った話ではありません。

 

当然私は音楽家ですから、作曲を念頭にはおいております。しかし、どの様な業種であろうがもの作りに関連するものであれば適用できるはずです。

 

それが美術でも絵画でも映画でも文学でも音楽でも、もっと言えば芸術に関わらず個人の創造的な活動の全てに適用できると考えています。

 

さて、まだ続きます。次はより具体的な実践方法を見ていきましょう。

 

貴下の従順なる下僕 松崎より

 

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