私の愛しいアップルパイへ
「ゴヤ賞」といえばスペイン版のアカデミー賞です。スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤに由来する通り、本家アカデミー賞では選ばれないような風刺と皮肉のこもった生々しくて意味深な映画が選ばれることもあり、注目しています。
そんなゴヤ賞ですが、2015年には過去最多の10部門を受賞した「マーシュランド」という作品が注目されました。これは期待できると思いすぐにDVDを借りて鑑賞しました。
結論からいって、まさかの地雷映画だったことをここに宣言しておきます。わーわー騒がれているようですが、私としては100点満点中30点程度の映画でした。ちなみに、内容的にネタバレしなければ語りきれない部分があるため、今回はネタバレありで解説させていただきます。
マーシュランドはサスペンスやスリラーに該当する映画ですから、これから観ようと思っているのであれば本記事は読まれないことをオススメします。
【ネタバレあり】ゴヤ賞10部門を受賞した「マーシュランド」は地雷だった。30点
ここからはネタバレ全開で解説していきますので、ご注意ください。マーシュランドが30点だった理由を解説していきます。
スペインの片田舎を舞台に淡々を進むリアリズム
本作はスペインの片田舎で発生した行方不明事件を題材に、二人の刑事による捜査が淡々と進んでいきます。
表面上はのどかな片田舎であるにも関わらず、一皮向けば貧困や窃盗や売春や賄賂がのさばっています。捜査にあたって、ときに住民も同業者の国家権力も、非協力的で排他的な素顔を見せます。そこに見いだされるリアリズムが本作の一番の見どころです。
凄惨な事件が発生しているにも関わらず、街全体にどこかそれを受けていれている雰囲気が蔓延していて、現実を前にしてどうにもならない人間の生死の儚さがカタルシスを感じさせます。
で、逆にいえば、ただそれだけなのです。サスペンス要素やスリラー要素を期待すれば完全に肩透かしをくらいます。
しかも、中途半端に推理要素を入れたりゴア表現を入れたりするので、サスペンスとしてもスリラーとしても不完全、ネオリアリスモとしてもロードムービーとしても不完全な、なんとも中途半端な作品に仕上がっています。
最後まで犯人が分からないうんざりするストーリー
しかも、本作の大きな特徴にして最大の工夫が最後まで犯人が分からないことなのです。
作中には数々の伏線が散りばめられていて、形式上は犯人が捕まるのですが、結局真犯人は別に存在するという空気で終わります。それで真犯人まで特定できればいいのですが、少なくとも主人公のフアン刑事と、コラレスのどちらが黒幕なのかは推理しようがありません。
また、キニやセバスティアンとフアン刑事は昔からの知り合いだったのか、フアン刑事は行方不明の姉妹とどのような関係だったのかもまったく明かされないまま終わります。
結局のところ、真犯人が分からないサスペンスというのが、(寛容な人にとっての)本作のユニークさであり味わい深さであり斬新さなのです。そして上空から映された田舎道という特徴的なカットを定期的に長めに差し込むことで、真実が分からない(あるいは、分からないほうがいい)こともあるのが現実だというメッセージの余韻に視聴者を浸らせて、映画の出来不出来を曖昧にしようとするのです。
しかし、考えてもみてください。真犯人が分からないサスペンスというコンセプト自体、アイズ・ワイド・シャットやツイン・ピークス(劇場版)など過去に作られた名作の二番煎じに過ぎず、結局斬新でもなんでもないのが一番悲しいところなのです。
スペインの片田舎の情景だけが真新しい退屈な映画
結局、本作になにか新鮮で楽しめる要素を求めるとするなれば、スペインの片田舎を舞台にしたというところだけなのです。この点に関してだけいえば、映画としてはなかなか新鮮でしょう。「へぇ、スペインもマドリードを離れたらこんな感じなのかぁ」という発見があります。
しかし、それだけなら「ことりっぷ」でも読んでいたほうがずっと有益じゃありませんか。1時間だか2時間だかかけてスペインの郊外の雰囲気を味わえるだけの映画だなんて、ちゃんちゃらおかしいでしょう。
中途半端に意味深な駄作にご注意
そういうわけで、僭越ながらこのわたくしめがマーシュランドの感想を述べるのであれば、意味深と見せかけて蓋を開けてみれば単に中途半端なだけの凡作というところでしょう。
同じコンセプトならアイズ・ワイド・シャットやツイン・ピークス(劇場版)のほうがずっとぶっ飛んでいて楽しめます。
また、同じゴヤ賞つながりでいうなら「プリズン211」のほうがずっと面白いです。ゴヤ賞10部門に惹かれたのなら「プリズン211」のほうをオススメします。
貴下の従順なる下僕 松崎より