芸術を深く理解するにはまず感性と主観を捨てる〜木村泰司さんに学ぶ西洋美術史〜

カテゴリ: 美学

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「芸術」というとどうしても「主観的な感性で捉える説明し難いもの」という勘違いに帰結かねない誤謬については、あなたも私と同じく胸を痛めていることでしょう。

ともすれば芸術を「あら綺麗ね」だとか「なんかカッコイイ」で安易に結論づけてしまいかねない問題についてお話ししようと思います。

感性と主観を捨てて芸術を「読む」

私は木村泰司さんの西洋美術史に関する書籍や講座を受けていますが、彼は芸術を読むものであるといい、芸術を知るにはまず「主観」と「感性」を捨てよと言います。これにはハッとさせられました。

木村泰司の西洋美術史

私は、いつも講演で「美術は見るものではなく読むもの」と伝えています。美術史を振り返っても、西洋美術は伝統的に知性と理性に訴えることを是としてきました。古代から信仰の対象でもあった西洋美術は、見るだけでなく「読む」という、ある一定のメッセージを伝えるための手段として発展してきたのです。つまり、それぞれの時代の政治、宗教、哲学、風習、価値観などが造形的に形になったものが美術品であり建築なのです。

世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」 p.4

芸術は常にその時々の歴史の流れを踏まえた文化的な価値観の表明であり、芸術は観たり聴いたりするよりもまず「読む」のです。

例えばクラシック(=美の規範)として名高いギリシャ美術では男性の彫刻は大抵裸体ですが、これは部族同士の衝突が日常茶飯事であり、徴兵制のあったギリシャでは、肉体的な美を志向するのは自然なことでした。しかも当時は男性同士の恋愛だってよくあることだったのです。

また、ギリシャの価値観の根幹にはホメロスの二大叙事詩で知られるオリュンポスの神話があり、ここでは神々は裸であると信じられていたのです。このような価値観から男性の裸体像は作られ、現代にも通ずる美の規範となっているのです。

この時代の彫刻は死に行く場面でも、古代オリンピックの競技中でも、大抵無表情をしていますが、これは苦しみや悲しみをぐっとこらえて表情に出さないことが美徳とされた時代だからです。

争いが絶えない世界であり、かつソクラテスやプラトンやアリストテレスなどの偉大な哲学者を輩出したギリシャらしい価値観でしょう。

もし感性と主観に偏ったものの見方をしていれば、このような時代の価値観を表明した芸術の美しさを理解するのは難しいでしょう。

我々の感性と主観というサングラスをかけると、男の裸体なんて冗談みたいなものだし、とっくにユニセックスに対する価値観が根付いている我々からしたらマッチョな肉体はどこか時代遅れに感じるし、無表情は単に空気の読めない浮いた奴みたいです。

美は相対的なものである

「美」というと、神の如し絶対不変の存在であるとする勘違いがそもそも存在します。これこそが芸術の理解を感性と主観に委ねようとする誤謬の出発点なのです。

美は絶対的なものではなく、相対的なものです。

「美」とは何かなどと小難しい議論をするまでもありません。2000年前のキリスト像と1000年前のキリスト像と現代のキリスト像がなぜこうも違うのか考えてみればよく分かります。

2000年前の青年像と1000年前の青年像と現代の青年像がなぜこうも違うのか考えてみればよく分かります。

昔のキリスト像はメル・ギブソン監督の「パッション」に出てきたような人物とはかけ離れていましたし、昔の青年像はジェームズ・ディーンが演じる青年のような人物とはかけ離れていました。

もし美が絶対的なら、このような美の変遷の歴史など起こりようもありません。ですから「美」とは常に相対的なものであり、絶対的な美こそが幻想に他ならないのです。論理の話ではなく、すでに今までずっとそうだったのです。

これはウンベルト・エーコ氏が「美の歴史」と「醜の歴史」の中で巧妙に切り込んだことでした。

故に美を描きだす芸術は、歴史におけるその時々の価値観が凝縮されたものであり、常に相対的な関係性のなかでその内容が表れてくるものです。

だからこそ芸術を知るためには歴史を知る必要が不可欠になってきます。

ヒエロニムス・ボスの絵画を「あら可愛いリトル・モンスターズね」で終わらせてしまうのは、あまりに軽率というものでしょう。

同じくロックの本質を「反体制」に帰結させようとするのはあまりにナンセンスでしょう。芸術は常に反体制を糧としてきたのですから。

美術史を知れば見聞が広がる

このような考えは何も創作に取り組んだり、芸術を観賞したりするときにだけ必要なものというわけでもありません。

最近では芸術を鑑賞する方法を社員教育に取り入れている企業も増えているそうです。なぜなら芸術とはその時代の価値観をみごとに捉えることを目的とした仕事であり、答えなきところに答えをだそうとする活動なのです。そして、それは多分にビジネスの世界と共通するものなのです。

特に経営者にはこのような人々の価値観を読み解く「洞察」が必要不可欠でしょうから。

その第一歩として、木村泰司さんの書く美術史は知識のない人でもすんなり入れる良書ばかりなのでオススメです。

▼特に以下が初心者がとっつきやすくておススメです。

▼以下も併せて読むのにオススメです。

貴下の従順なる下僕 松崎より

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