私の愛しいアップルパイへ
なんたる幸運!また素晴らしい本に出会ってしまいました。その名も「ビジョナリー・カンパニー」!なんて甘美な響き!
本書は私が会社を立ち上げ、偉大な会社を作ると決意した時に最初に手に取った本なのですが、まったくもって素晴らしい本でした。
経営者の必読書と言われるだけあって、凡庸な会社やただ良好な会社ではなく「偉大」な会社を築くに当たって必要な“たった1つのこと“についてシンプルに分かりやすく、しかしこの上ない説得力をもって解説してくれています。
2001年に書かれた本なのですが、この本時代が過去50年以上の歴史を調査・分析して書かれた本であることもあり、経営理念に関するいつどの時代でも有効な普遍の真理について書かれています。
とはいえ、本書はページ数が少ないわけでもなく、特別安い本でもありません。いまさら「ビジョナリー・カンパニー」と思う気持ちも分かります。ですから、今日は私がこの名著「ビジョナリー・カンパニー」の要約を重要なポイントに絞ってまとめてみますので、まずは我が言を聞いてはくれませんでしょうか!
どうにか3分ほどで分かる分量に抑えて書きましたので、お時間いただければ幸いです。さぁ、砂時計をひっくり返してください。
ビジョナリー・カンパニーとは?
そもそも「ビジョナリー・カンパニー」とは何なのでしょうか?簡単に言うとビジョナリー・カンパニーとは、先見的で卓越した業績を残し、同業他社から尊敬を集めるような時代を象徴する企業といえます。本書ではビジョナリー・カンパニーの条件として以下を挙げています。
- 業界で卓越した企業である。
- 見識ある経営者や企業幹部の間で広く尊敬されている。
- わたしたちが暮らす社会に、消えることのない足跡を残している。
- 最高経営責任者(CEO)が世代交代している。
- 当初の主力商品(またはサービス)のライフ・サイクルを超えて反映している。
- 1950年以前に設立されている(設立後50年以上経過している)
本書では、メインの著者であるジム・コリンズ氏とその師ともいえるジョリー・ポラス氏がスタンフォード大学の調査チームとともに、この条件に合致するアメリカを中心とした会社を慎重に18社選び抜き、数年かけて分析した結果、時代を超えた一貫した経営理念を導き出しました。
その際、単に18社の共通点を探すのではなく、18社を傑出した企業へ押し上げた本質的な要因を探るために各社に対して「比較対象企業」も選んでいます。比較対象企業は参入市場においても設立時期においてもビジョナリー・カンパニーと直接競合する企業だったものの、傑出する企業といえるほど飛躍できなかったか、もしくは飛躍したとしてもそれを維持できなかった企業です。
▼以下がその計36社のリストになります。名だたる会社が揃っています。
ビジョナリー・カンパニー | 比較対象企業 |
---|---|
3M | ノートン |
アメリカン・エキスプレス | ウェルズ・ファーゴ |
ボーイング | マクダネル・ダグラス |
シティコープ | チェース・マンハッタン |
フォード | GM |
GE | ウエスチングハウス |
ヒューレット・パッカード | テキサス・インスツルメンツ |
IBM | バローズ |
ジョンソン&ジョンソン | ブリストル・マイヤーズ |
マリオット | ハワード・ジョンソン |
メルク | ファイザー |
モトローラ | ゼニス |
ノードストローム | メルビル |
プロクター&ギャンブル | コルゲート |
フィリップ・モリス | R・J・レイノルズ |
ソニー | ケンウッド |
ウォルマート | エームズ |
ウォルト・ディズニー | コロンビア |
「時を告げるより、時計を作る」視点に切り替える
ビジョナリー・カンパニーを築く最初の一歩として「時を告げるより、時計を作る」考えに視点を切り替える重要性が語られます。時を告げる人というのはカリスマ的なビジネスセンスを持った経営者の比喩であり、時計とはビジョナリー・カンパニーを指します。
本書によれば(一般的に信じらているような)人を魅了してやまない一人のカリスマ的な指導者や電撃に打たれたような素晴らしい一つのアイデアが、凡庸な会社を一気に傑出した会社に引き上げるという考え方を真っ向から否定します。カリスマ的な指導者や素晴らしいアイデアを元に作られた商品には終わりが来るのが常であり、ビジョナリー・カンパニーを築く上ではむしろ障害になりかねないと言うのです。
ビジョナリー・カンパニーは時代の変化や環境の変化、逆境を退け、むしろそれらをカンフル剤としてスバ抜けた回復力を見せつけ、不死鳥のごとく蘇る能力を持っています。ビジョナリー・カンパニーを築いた指導者たちはそのために、カリスマ的な指導や素晴らしいアイデアに頼らず、建築家のようになって正確な時を告げ続けられる時計を丹念に作り上げたわけです。
では正確な時を告げ続けられる時計に必要なのはなんでしょうか?これがビジョナリー・カンパニーの中心テーマとなります。
ビジョナリー・カンパニーの経営理念は「基本理念を維持し、進歩を促す」
いつの時代でも逆境をはね除け、常に正確な時間を刻み続ける時計に必要なのは何なのでしょうか?そんなことを体系的に整理するなんて可能なのでしょうか?ご安心ください。本書はその奇跡を現実のものとしました。
本書によれば、ビジョナリー・カンパニーに共通する経営理念はたったの一文で表現できるといいきます。それが以下です。
「基本理念を維持し、進歩を促す」
ビジョナリー・カンパニーは皆自社の基本理念という一貫性を維持しながら、しかし同時に常に変化し続けて進歩し続けるという、ある意味では矛盾する二面性を備えているのです。
▼本書の中では以下の図を使ってその二面性が表現されています。
ビジョナリー・カンパニーはこの一貫した経営理念である「基本理念を維持し、進歩を促す」に基づいてあらゆることをやっているだけなのです。それだけ?と思ったかもしれませんが、そうなのです。ただ、この簡潔な一文の中には素晴らしい深淵が含まれています。
「基本理念を維持し、進歩を促す」とはどう言うことか、重要な部分をピックアップして解説しましょう。
BHAGやカルトのような文化で基本理念を維持する
利益を超えた基本理念を制定することはビジョナリー・カンパニーの特徴ですが、それ自体はビジョナリー・カンパニーの「ビ」の字にもあたりません。
ビジョナリー・カンパニーの凄さは基本理念を原動力とし、その基本理念を「維持」するためならどんな些細なことでも何でもやる徹底的な姿勢がずば抜けていることです。
その一手法としてよく使われるのが「BHAG」(Big Hairy Audacious Goals) = 「社運を賭けた大胆な目標」です。基本理念を具体的な目標に転換することで、自社の基本理念を維持するための具体的な行動指針を社員の誰もが即座にイメージできるようにするのです。
例えば、ジェット旅客機市場への参入を決めたボーイングや、「Made in Japan」を低品質ではなく高品質の意味にするという目標を掲げたソニーなどがその一例として挙げられています。BHAGは適切にアップデートされ続け、社内の誰もがいつでも基本理念を維持するための具体的な行動をイメージできるようになっています。
また、カルトと変わらないように見えるほど社内に独自文化を形成する傾向があるのもビジョナリー・カンパニーの特徴です。
例えば、スタッフのことを「キャスト」を呼び、徹底的な社員教育に力を割く「ウォルト・ディズニー」や皆でウォルマート体操をやる文化を持っている「ウォルマート」などがその一例として挙げられています。社員の同質性を追求することで、自社の原動力となる基本理念を社員の記憶だけでなく全身にインストールしているのです。
それ以外にも、あまりにも有名なGEの幹部教育をはじめとし、CEOを社内から排出する確率が比較対象企業より段違いに高いことも、ビジョナリー・カンパニーが社内で醸成された基本理念の維持に対して徹底した姿勢をとっていることを示しています。
このようにほとんどのビジョナリー・カンパニーは比較対象企業よりも戦略、戦術、組織体系、構造、報奨制度、オフィス・レイアウト、職務計画など会社を構成するあらゆる面で、基本理念の維持に(時には馬鹿馬鹿しいと思えるほど)多大な労力をかけるのです。
大量のものを試して進化を促す
「基本理念を維持」はビジョナリー・カンパニーに共通する経営理念の前半でしかありません。これを土台として「進歩を促す」ことが重要なもう1つの面です。
ビジョナリー・カンパニーの成功は綿密な計画よりも、偶然や試行錯誤によってもたらされることが多いです。例えば、ポストイットの偶然の発明で知られる3Mや、ある社員が妻の小さな怪我を治療するために使ったアイデアをバンドエイドとして製品化したことで知られるジョンソン&ジョンソンなどが挙げられています。ビジョナリー・カンパニーは偶然を活かす必然的な仕組みが洗練されているわけです。
また、社内に不安感を生み出すのが上手いのもビジョナリー・カンパニーの特徴です。例えば、社内にライバル機関を作って社内で競争させることで進歩を促すP&Gや、顧客からのアンケートをボーナスや昇進に直結させる顧客サービス指数(GSI)を取り入れたマリオットなどが例として挙げられています。ビジョナリー・カンパニーは決して現状に満足することなく、進歩せずにはいられない仕組みを作るのが上手いのです。
こうして「基本理念を維持し、進歩を促す」経営理念を形にし続けているのがビジョナリー・カンパニーを傑出した組織にしています。「基本理念を維持し、進歩を促す」ために何をすればいいという正解はありません。なんでもやることです。ですから、形にするには途方もない忍耐と努力と規律が必要です。ビジョナリー・カンパニーを読んだ人は無数に居るのに、ビジョナリー・カンパニーは数える程しかないのは当然と言えるでしょう。
誰でもどこでも応用できる普遍の法則
本書は偉大な会社を築くために不可欠な経営理念の凝縮された果汁のような本ですが、賢いあなたなら既にお気付きの通り会社以外のどんな組織にも応用できます。経営者や組織のトップでなくても応用できるものが多く、本書の内容を使えば偉大な会社を築くためにどんな立場の人でも主役になれるとも語られています。
そういう意味では起業家や経営者に限らずあらゆる人にとって有効となる名著と言えるでしょう。名著中の名著なので、是非実際に本書を手に取ってみてください。おっと、ちょうど3分ですね。今日はこのくらいにしておきましょう。
▼ちなみに以下ラジオでもビジョナリー・カンパニーを解説していますので、こちらも参考にどうぞ。
貴下の従順なる下僕 松崎より