緊張した時の効果的な対処法は「興奮している」と言い聞かせること

カテゴリ: ライフハック

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あなたは以前言いましたね。私が鋼の心臓を持った完全無欠の存在だと。ところがどっこい、私でも緊張によってパフォーマンスが落ちることはよくあります。人前でスピーチするときやライブをするときなんかは、ずぶ濡れのプードルみたいにブルブル震えることもあります。

そんな緊張状態の時に努力して落ち着こうとするのは驚くほど効果がありませんでした。しかし、ある研究結果に出会って以来、私は緊張状態を利用する素晴らしいハックを手に入れました。

それは、緊張を感じたら落ち着こうとはせず、むしろ「自分はいま興奮している!」と声に出して感情を再評価し直すだけで、緊張によって生まれた高覚醒状態を前向きなエネルギーに転化させられるというのです。

▼これはハーバード・ビジネススクール助教授のアリソン・ウッド・ブルックス氏(Alison Wood Brooks氏)による以下の論文「Get Excited: Reappraising Pre-Performance Anxiety as Excitement.」で論じられているものです。

緊張したときに落ち着こうとするのは非効率である

緊張している時の対処方法にはいくつかのパターンがあります。多くの人が取るのは以下3パターンでしょう。

  1. 緊張していることを自覚する
  2. 緊張を落ち着かせようとする
  3. 何も対処しない

ブルックス氏が行ったカラオケや人前でのスピーチなどの実験によれば、これらの対処方法は通常パフォーマンスを下げる傾向にあります。特に、緊張状態のときに緊張を意識的に自覚しようとすることとパフォーマンスを大きく低下させます。

緊張していると自分自身に言い聞かせたり、もしくは善意からであれ悪意からであれ緊張している人に「緊張してない?」と問いかけることは呪いとして機能するってことです。緊張や不安は生理的で自然な反応であり、意識的に別の状態にコントロールすることは極めて難しいからです。

もう少し賢い人は緊張状態の時にリラックスして落ち着こうとします。深呼吸をしたり軽い瞑想をしたりして、緊張や不安を和らげようとするのはよく見られる光景です。しかし、大抵の場合、この手の対処は思ったほどうまくはいきません。

この3つの選択肢に対して、ブルックス氏はもう1つの新しい選択肢を提示します。

それは、不安や緊張を「興奮」という感情で再評価することです。ブルック氏はこう言います。

Individuals often feel anxious in anticipation of tasks such as speaking in public or meeting with a boss. I find that an overwhelming majority of people believe trying to calm down is the best way to cope with pre-performance anxiety. However, across several studies involving karaoke singing, public speaking, and math performance, I investigate an alternative strategy: reappraising anxiety as excitement.

(個人は、しばしば人スピーチや上司との対話などの仕事を見越して不安・緊張を感じることがあります。 多くの人は緊張を落ち着かせようとすることが最善の方法であると信じています。 しかしながら、私はカラオケやスピーチ、数学のテストを含むいくつかの研究を通して、別の戦略を調査します。それは、興奮として不安を再評価することです。)

Alison Wood Brooksの論文「Get Excited: Reappraising Pre-Performance Anxiety as Excitement.」より抜粋

緊張と興奮は同等の覚醒状態でありシフトが容易である

緊張を緊張として自覚しようとすると逆効果なのは経験があるでしょう。とはいえ、緊張時にリラックスしようとしてもなかなかリラックスなどできないものです。

そこで、ブルックス氏が推奨するのは、緊張を同じ高覚醒状態である興奮として再評価することです。緊張と興奮は精神的な状態としてはかなり近い状態あり、緊張のラベルを興奮のラベルに貼り替えるのは比較的容易です。少なくともリラックスしようとするよりは。

不安や緊張は高覚醒状態におけるネガティブな感情の反応ですが、興奮は同じ高覚醒状態におけるポジティブな感情の反応です。同じ高覚醒状態でも、緊張と興奮は真逆の感情といえます。この認識のシフトがパフォーマンスを大きく向上させるのです。

Unlike reappraising anxiety as calmness, which requires a physiological shift from high to low arousal as well as a cognitive shift from negative to positive valence, reappraising anxiety as excitement requires only a cognitive change in valence because anxiety and excitement are arousal congruent. In this way, effective reappraisal may not require a decrease in anxiety in order for an increase in excitement to positively influence cognition and performance. Taken together, I expect that reappraising anxiety as excitement, compared with reappraising anxiety as calmness, is easier and improves performance on important tasks that typically make people very anxious.

(緊張を落ち着きに変えるには、高覚醒状態から低覚醒状態へ生理的なシフトが必要です。対して、緊張を興奮と再評価することは、ただネガティブからポジティブへと認知を変えるだけです。なぜなら、緊張と興奮は生理的には同等の覚醒状態だからです。このように、緊張を興奮として再評価することでパフォーマンスを上げるためには、不安を減少させる必要がありません。まとめると、緊張を興奮として再評価することは、緊張を落ち着きとして再評価することと比較して、より簡単であり、かつ一般的に人を緊張させるような重要な仕事のパフォーマンスを向上させます。)

Alison Wood Brooksの論文「Get Excited: Reappraising Pre-Performance Anxiety as Excitement.」より抜粋

緊張を興奮と再評価することでパフォーマンスを向上できる

感情の再評価によって、ネガティブな感情からポジティブな感情にラベルを貼りかえることで、高覚醒状態を抑止力から推進力に変えられるわけです。しかも、それは簡単な自己説得によって成し得ます。

ブルックス氏によれば、それは「私は興奮している」と口に出したり、そういったシンプルなメッセージを自分自身に投げかけるだけで良いそうです。

Compared with those who attempt to calm down, individuals who reappraise their anxious arousal as excitement feel more excited and perform better. Individuals can reappraise anxiety as excitement using minimal strategies such as self-talk (e.g., saying “I am excited” out loud) or simple messages (e.g., “get excited”), which lead them to feel more excited, adopt an opportunity mind-set (as opposed to a threat mind-set), and improve their subsequent performance. These findings suggest the importance of arousal congruency during the emotional reappraisal process.

(緊張を落ち着かせようとする人と比較して、緊張を興奮と再評価する人はより良いパフォーマンスを発揮できます。セルフトーク(例えば「私は興奮している」と言う)や単純なメッセージ(例えば「興奮している」)などの最小限の戦略を用いて、不安を興奮として再評価することができます。興奮を感じることによって緊張する行為を脅威としてではなく、機会として捉えられるようになると、その後のパフォーマンスを向上させることができます。これらの調査結果は、感情を再評価するプロセスにあたって、覚醒状態を一致させることの重要性を示唆しています。)

Alison Wood Brooksの論文「Get Excited: Reappraising Pre-Performance Anxiety as Excitement.」より抜粋

ですから、もし緊張によって失敗を誘発しそうになったときには落ち着こうとせず、「自分はいま興奮している」言い聞かせたり、鏡に向かってそうメッセージを投げかけるのが効果的です。手にひらに「Get Excited」とマジックで書いておいて、本番前や本番中にそれをいつでも見られるようにしておくのも良いでしょう。もし緊張でパフォーマンスが落ちそうな人が居たら「興奮してきた?」と問いかけてあげましょう。注意してください。「緊張してない?」なんて声をかけるのは最悪です。

ブルックス氏が行なった人前での歌唱の正確さをテストした実験では、不安や緊張を感じていた人に比べて、緊張を興奮であると再評価した人々は1.5倍以上も歌唱の正確さのスコアが高かったそうです。

カラオケであれスピーチであれプレゼンであれ、次に緊張する場面に遭遇したら「興奮してる」と言い聞かせることにしましょう。

▼ブルックス氏の論文「Get Excited: Reappraising Pre-Performance Anxiety as Excitement.」は以下のGoogle Scholarで読むことができます。

貴下の従順なる下僕 松崎より

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