私の愛しいアップルパイへ
20世紀後半にドイツで活躍した社会学者Niklas Luhmann(ニクラス・ルーマン)のノートシステム「Zettelkasten」はノートから永続的に新しいアイデアや洞察を得るための素晴らしい霊感を我々に与えてくれます。
Zettelkastenには既存のノート術と一線を画す斬新なルールをいくつも備えていますが、そのなかでも特に際立っているのは、数万枚にのぼるノートをいかにして整理していたかでしょう。
ルーマンはノート同士のリンクによってこれを実現しました。
カテゴリによるフォルダ分けが機能しない履修
ノートの整理は我々にとって永遠の命題のように思えます。
おそらく最初に思いつくのはフォルダによって複数ノートをカテゴリごとに分類する方法でしょう。もっと簡略化したい人は超整理法よろしく日付によって分類するかもしれませんし、もっと偏執狂的な人は個人的なノートに関してもデューイ十進分類法を適用するかもしれません。
ノートをフォルダによって分類することは、新しい知識をノート化していくプロセスと照らし合わせると致命的な欠点があります。
それは、ノートは作成段階で明確で正確な分類ができることは稀ということです。むしろ、メモを作成しながら、他のメモを追加しながら、メモが完成した後にようやく構造が見えてくることがほとんどです。場合によっては数年経ってようやくしっくりくる分類を見出すこともあるでしょう。
たとえ最初にカテゴリが明確だったとしても(明確であるように錯覚できたとしても)、後から知識が追加され、ノートが追加されていくとともに新たなクラスタを形成し、別のカテゴリーの一部になることもあれば、別のカテゴリーに変容することもあります。
どんなに非の打ち所のないフォルダ分けを案出できたとしても、こうもり問題によって分類の難しいノートによって思考が止まってしまう可能性があります。これではあなたのようなエレガントなお方には相応しくありません。
ノートはフォルダ分けして整理せずリンクによってネットワーク構造を作る
Christian Tietze氏はノートは建築のように事前に設計された構造物ではあり得ず、脳のように有機的に成長していくものだと表現します。ですから、カテゴリ分けによる分類というトップダウンのアプローチではなく、ボトムアップのアプローチを採用すべきだといいます。1
つまり、分類ではなく、既存の知識との結びつきにフォーカスすることです。つまり、ノートをリンクすることです。これは決してあなたにとっては珍しいものではないでしょう。インターネット上のコンテンツは自然とそうなっているからです。それを自分の知識についても行うだけです。
Andy Matuschak氏はノート同士の関係に慎重に配慮ようになれば思考を拡張できると説きます。メモ同士を接続する行為によって、古いノートをインプットし直し、アップデートするトリガーにもなるのです2。他のノートにリンクしようとするその行為自体が知識をアップデートしていきます。階層型で整理されたノートではこういったことは自然には発生しないことです。
ネットワーク型のノートはエントロピーの法則に対応するおそらく最も有効で現実的な手段です。
ノートが増えるとともに階層や構造は有機的に変動していきます。カテゴリによって階層化されたノートは時間とともに役立たなくなります。結局のところ、階層に依存しないネットワーク型のノート群がデータ構造として最適なのです。
ルーマンはノートにリンクを貼るとき、節記号(§)に続いてノートごとに一意に採番されたIDを書くことで、リンクを表現しました。彼はこれをすべて9万枚のノートに対してアナログのカードでやってのけたのです。幸い、現代のテクノロジーによって我々はずっと楽に実現できます。
私自身もはやノートの階層分けは完全に諦めており、知識に関するノートはすべて単一のフォルダ保存するようにしています(ただしInboxはサブフォルダに分けている)。
▼私は[[ノートタイトル]]の形式で他のノートにリンクできるWikilink形式の記述に対応したアプリを使うことで、ネットワーク構造のノート群を生成しています。(愛用しているアプリはObsidian)
他のノートへのリンクを意識してノートを新規作成する
ノートを作成するときの注意点として、ノートには必ず1つ以上のリンクが含まれていることが望ましいでしょう。できれば被リンクもあった方が良いです。さもなくばそのノートへのエントリポイントがなくなり、他のノートから参照されなくなったり、読み直すときに二度とそのノートにたどり着けなくなってしまうためです。
これは先にお話ししたAtomic Notesの原則と極めて相性が良いです。Atomic Notes同士のリンクを次々につなげていって、ネットワーク化された知識のウェブを構築するのです。Sweeeeeet!
では、抽象的に体系化された概念を整理して表現したいときにはどうすればいいのか?さすがです。実に良い質問です。
これをルーマンは”構造ノート”という考え方によって見事に解決しました。これについては次回お話しすることにしましょう。
貴下の従順なる下僕 松崎より