ノートは1枚1アイデアだけ含むように書くAtomic Notesの原則

私の愛しいアップルパイへ

ドイツのとびきり生産的な社会学者Niklas Luhmann(ニクラス・ルーマン)の40年に渡る研究と執筆活動を支えたノートシステムとしてZettelkasten(ツェッテルカステン)をご紹介したのはあなたもご存知の通りです。

このノートシステムは実に画期的で、私も大いに影響を受けました。今回はZettelkastenが他のノートの取り方と違う1つの決定的な要因についてお話しします。それはAtomic Notesと呼ばれる原則です。

1枚1アイデアだけ含むAtomic Notesの原則

Luhmannはカード型のノートを愛用し、9万枚に及ぶノートを残しました。彼の実際のノートと書き起こしはNiklas Luhmann-Archivで閲覧することができます。1

Zettelkastenはいくつかの厳格なルールに基づいて作られており、その中でも特に重要な1つの原則として知られるのが「Atomic Notes」です。

Atomic NoteはZettelkastenが他のノートとは違う主たる要素の一つとされています。2

また、Zettelkastenの考え方を発展させて「Evergreen notes」を考案したAndy Matuschak氏も、Atomic Notesを重要な条件としています。3

ちなみに、京大式カードの考案者である梅棹忠夫氏も知的生産の技術のなかで同じく一枚一項目という言葉を使って、長期に渡って活用できるノートについて同じ原則を述べています。4

Atomic Notesとは何かを端的に説明すると、1枚のノートをこれ以上不可分な単位と考えられる極小のサイズまで削り、原子性(Atomic)を保つことです。

1枚のノートには1つのアイデア、1つのコンセプトだけを含むようにします。これはプログラムの関数を作るときの考え方にも似ていて、Andy Matuschak氏が提案するAPIを作るようにノートを取るというアイデアを私は気に入っています。5

▼例えば、この愛すべき記事の元になったノートは以下のようなノートです。(使っているアプリはObsidianです

ノートは1枚1アイデアだけ含むように書くAtomic Notesの原則

このノートにはAtomic Notesの考え方をまとめるという1つのコンセプトだけが含まれています。関連する知識はリンクによって外だしされていることで、ノートの原子性を保っています。

このようにノートを原子のように不可分な最小単位に保つことは、第二の脳と呼べるような柔軟な思考のネットワークを外部に作り出す鍵になります。

なぜでしょうか?良い質問です。

Atomic Notesはノートを再利用しやすくする

Atomic Notesが重要なのは、ノートを極小に保つことでノートが再利用しやすくなるためです。

ノートに複数のコンセプトが含まれている場合、他のノートからリンクを貼るのが難しくなります。また、その知識をあとから思い出すのが難しくなります。

例えば、大抵の本には複数のアイデア、複数の概念が含まれているものですが、一冊の本を1枚のノートに集約してしまうと、あとから増えた新しい知識がそのノートのどの部分と結びつくのかが曖昧になり、知識をリンクさせるのが難しくなります。時間が経てば経つほど知識を思い出すのは難しくなり、リンクする機会もなくなります。参照されなくなったノートは腐敗していくでしょう。

Atomic Notesは再利用しやすいので、ノート同士のリンクが生まれやすくなります。それはつまり頻繁に参照され、頻繁に読み返され、頻繁に追記されることになります。

1枚のノートをAtomic Notesにしておくことは、生涯に渡って、読み返すことができ、加筆修正し、アップデートできるノートを作ることにつながるのです。

ノートを取るときの文脈や構造とアイデアを切り離す

Atomic Notesの重要な前提は、ノートの分類や構造はその後のインプットによって変容するということです。知識のアップデートと共にノートを書いた時点での文脈や構造は古くなっていきます。

Atomic Notesはメモした時点で考えていた古い文脈および構造と、メモのアイデアを切り離すことを志向します。メモした時点で思い描いていた文脈と構造は、いつしか古くなりもはや使い物にならなくなるかもしれません。古い文脈と構造に組み込まれたノートは、後になって有用であったとしても参照されなくなります。

つまりAtomic Notesの目的は、ノートの構造とアイデアを切り離すことで、ノートを永続的に使える知識に変換することにあります。

ノートの原子性を保って再利用しやすくしておけば、引用しやすくなるだけでなく、他のソースによって新たな情報を追加したいときにもメンテナンスしやすくなります。新たなノート群による新たなクラスタに組み込むことも容易くなります。

LuhmannのZettelkastenは第二の脳と呼ばれることがあります。Atomic Notesはニューロンであり、Atomic Notes同士をなぐリンクはシナプスです。これは一度取ったノートを特定のプロジェクトのため覚書として使うのではなく、生涯にわたって活用できるノートにすることを目指しています。

あなたがZettelkastenを構築するかどうかは別として、ノートをAtomic Notesにしておくことは、ノートを長く使えるようにするために大いに役立つでしょう。

貴下の従順なる下僕 松崎より

参考文献

  1. Niklas Luhmann-Archiv
  2. Why is it different from taking regular notes?, zk.zettel.page, May 14, 2020.
  3. Andy, M. (n.d.). Evergreen notes should be atomic | Evergreen notes
  4. 梅棹忠夫, “知的生産の技術, 3 カードとそのつかいかた” 岩波新書, Jul. 21, 1969.
  5. Andy Matuschak, Evergreen note titles are like APIs | Evergreen notes
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システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。