私の愛しいアップルパイへ
2011年8月、私は苦役を背負ってきた駱駝が自由を求める獅子に変わったが如く立ち上がりました。
「このままではいけない!なんとかしなくては!」
当時、私はシステムエンジニアとして働くサラリーマンでした。5年目となった私は順調に仕事が増えてきており、降ってくる仕事をこなすだけで精一杯でした。
仕事量の増加に反して、私は仕事に対する情熱が急激に冷めていくのを感じていました。同時に、私は自分の人生を取り戻さなければならないことを自覚しました。25歳の頃でした。
しかし、不本意な仕事を続けながら私の手元に残ったのは僅かな時間でした。まずもって私がやらなければならなかったのは、無数のやった方がいいことの中から本当にやるべきことを見極めるタスク管理の仕組みであり、それに没頭するための時間管理の仕組みでした。
あれから6年。私が独自に作り上げたシステムはチューニングされ続け、自分でも満足のいく出来になりました。これはjMatsuzaki生誕とともに作りはじめた秘伝のタレのようなものですから、そう安安と公開するわけにはいきません。ですから、あなたにだけその全体像をお話しさせていただきます。秘密ですよ。
ただ目の前のタスクを効率的にこなすためだけの仕組みなどとことん無意味
私がまず持ってお伝えしたいのは、私がこの6年で取り組んできたのは単に作業を効率化するためのものではないということです。不本意な仕事に就いていた私にとって仕事効率化ほど馬鹿げたものもなかったのでした。
長期的な目的に向かって、自らの深い価値観に沿って、自由で柔軟な選択肢を確保したまま、一歩一歩着実に前進せしめる仕組みが必要だったのです。
この取り組みを始めてからはアドベンチャーでした。私の想像もしなかったようなことの数々が起こりました。
半年で会社を辞めて独立し、今まで出会うことななかった多くのカウボーイ達と出会い、フリーランスとして事業を築き、小学生からの親友と会社を興して社長になったのです。数ヶ月後には新しい音楽を求めてドイツのベルリンへ移住する予定です。
この素晴らしい変化すべての出発点となったのは、自分に最適なタスク管理と時間管理をするための仕組みを作ることから始まったのです。
私が6年間で作り込んだ7階層式タスク管理の仕組み
もったいぶるつもりはありません、まずは全体像を見ていただきましょう。
▼冒頭にも掲載しましたが、これが私の愛用している7階層式タスク管理の全体像です。
それぞれの用語はあくまで概念的な機能名であり、ツールはなんでも構いません。場合によっては1つのツールですべてをこなすこともできるでしょう(私はオススメしませんが)。
汎用性があるので、きっとあなたの環境でもうまく導入できるはずです。それでは、それぞれの階層について解説しましょう。
第一階層:ミッション
梯子を掛け違えていたら、一段登るごとに間違った場所に早く近づいていくだけである。
「完訳 7つの習慣 人格主義の回復」 第2の習慣 終わりを思い描くことから始める
第一階層は「ミッション」です。ミッションとは使命のことですが、こらは端的にいえば自分がなぜ生きるのかを書き表したものになります。
つまり自らが信念としている深い価値観を表明するものです。そして、自分の行動を決定づける最も重要な判断軸としての機能を担います。
ですから「30歳で億万長者になりたい」とか「オリンピックで金メダルをとりたい」といったような「いつか○○したい」という願望を書くものではありません。
あくまで自分が今からどのようにありたいのかを明確するために使います。例えば一般的にミッション・ステートメントやクレドカードと呼ばれるものになるでしょう。これらは「個人的な憲法」と比喩されることもあります。
なぜこのようなことが必要になるかといえば、この世のあらゆる事象には正解どころか意味すら無いからです。無論、画一的な生きる意味なんてものも存在しないのですから、だからこそ自分で決めねばならないのです。さもなくば、不幸の谷へ真っ逆さまです。
▼このあたりの考え方は「7つの習慣」の第2の習慣で謳われている「ミッション・ステートメントなどが参考になるでしょう。
▼私流の「ミッション・ステートメント」の作り方は以下で論じておりますので、ご参考にどうぞ。
第二階層:プラン・イシュー
「もっとも大切なポイントを見きわめる能力」が、あなたが人生においてどれほどのことを達成できるかを決める。
フォーカルポイント P.16
続いての階層は「プラン」と「イシュー」です。これは「ミッション」に基づいて最も重要なポイントを見極めるための階層になります。
「プラン」はその名の通り計画のことで、いま自分が集中すべきことを明確にするために計画を作ります。ここで間違えてはならないのは、プランは将来を見通すために作るものではないってことです。そうではなく、いまの自分にとっての最優先事項(=フォーカルポイント)は何かを決め、忘れないようにするために作ります。
▼このあたりの考え方については以下の記事でも論じていますのでご参考にどうぞ。
この階層には続いて「イシュー」があります。これも目的は同じですが、「プラン」がポジティブなアプローチだったのに対して、こちらはネガティブなアプローチとなります。イシューとは問題や課題のことですが、具体的に解決の目処が立っていない問題や課題を明確にしておくことは、自分にとってのフォーカルポイントを見極める上で重要な情報になるのです。
▼イシューについての考え方は以下の記事でも論じていますので、ご参考にどうぞ。
第二階層では、「プラン」と「イシュー」を明確にすることでいまの自分にとってのフォーカルポイントを明らかにします。
第三階層:アイデア・タスク・イベント
成功者は、その「嫌いという気持ち」を自分の「目的意識」に服従させて、望む結果の原因をつくるようにしている。
けっきょくのところ、人生の生き方は、ふたつしかない。
好きなことをすべてやって、ほしい結果をひとつも手に入れないという生き方と、必要なことをすべてやって、ほしい結果をすべて手に入れるという生き方のふたつである。
「100%」 たったひとつの原則
第三階層の「アイデア」と「タスク」と「イベント」はいずれも聞き慣れた言葉だと思いますが、私の定義としては以下の通りです。
1. 「イベント」は、やると決めたことであり、かついつやるかも決まっていることです
2. 「タスク」は、やると決めたけど、いつやるかは柔軟に調整できることです
3. 「アイデア」は、やるかやらないかをまだ決断していないことです
それぞれを個別に管理しながらいま自分が実行に移すべき「必要なこと」を整理にします。あなたがどんな人生を歩んでいるのであれ、完全に「フォーカルポイント」だけに集中できることなどあり得ないのですから。
バットマンにブルース・ウェインとしての生活が必要不可欠であったように、あなたにも日々フォーカルポイントとは無関係の雑多で予測不能な仕事が身の回りに溢れているはずです。
あなたの人生の目的が何であれ、歯が痛ければ歯医者に行かなければなりませんし、秘書からの苦情があれば対応しなければならないでしょうし、期末には税金を収めに行かないといけません。何に「Yes」といって何に「No」というのか?せわしない生活の中でもフォーカルポイントを見失わず、バランスを取りながら行動する必要があります。
そのバランスを取るために第三階層があります。ここではフォーカルポイントに直結することもそうでないことも等しく管理し、いま行動に移すべき「必要なこと」を見極めるのです。
▼第二・第三階層については以下の記事でも論じていますので、ご参考にどうぞ。
第四階層:アクション・レシピ・ルーチン
タスクシュート式の基本的なルールは、次のとおりです。
- 「本日1日分の仕事」を1シートで管理する
- 「これからやる仕事のリスト」と「ここまでにやった仕事のリスト」を一元管理する
- 「1分以上時間のかかること」はすべて管理する
- すべての仕事の「見積もり時間」を出しておく
- 「本日1日分の仕事」がすべて終わったら何時になるかの予測を自動算出することで、常に仕事の終わる時間(または就寝時刻)をリアルタイムに把握する
「なぜ,仕事が予定どおりに終わらないのか?」 CHAPTER2
必要なことを明確にすることと、必要なことを実行できるようになることは全く違う能力です。第三階層では必要なことを明確にしましたが、第四階層では必要なことを実行できるようになることを目指します。
「アクション」は今日やることが順番に並んだリストのことです。今日やること”だけ”を実行順に全て並べたリストは時間管理能力を飛躍的に向上させてくれます。
「ルーチン」は繰り返し行っていることのリストです。これによって普段の生活習慣を明らかにします。時間をうまく使おうと思ったら、それは習慣をコントロールすることなしに実現できません。習慣コントロールの第一歩は習慣を可視化することです。つまり、ルーチンのリストを作ることです。
「レシピ」は料理で使うレシピと同義で、手順書のことを指します。作業を効率化し、熟達するために最も効果的な方法は「毎回同じ手順で行うこと」です。レシピを作って1つのことを毎回同じ順番で実行できるようになると、短い時間で作業の完成度を大きくあげることができます。
これらの考え方は全て「タスクシュート時間術」というシゴタノ!の大橋悦夫さんが考案されたメソッドに基づいています。これは時間管理を劇的に向上させてくれる類い稀なるメソッドです。
▼タスクシュート時間術の詳細は以下にありますのでご参考にしてみてください。
第五階層:レコード
半分眠りながら自分の食べたものを全て正確に記録するということはできないのです。それをやろうとしたら目が覚めてしまうでしょう。
この自覚が大事なのです。食べることに意識的になれば、無意識のうちに食べていたようなものは、食べなくなっていきます。
それは食べても食べなくてもよかったようなものだからです。
第五階層にあたる「レコード」は記録のことです。特にここでは行動記録のことを指します。
人間という生き物はあまりに完成度が高いがゆえに、自分の行動にしばしば無頓着になることがあります。これは概ねいい方向に働くのですが、負のスパイラルを生んでいることもしばしばあります。
例えばダイエットしているのに間食してしまうのはこの様な無頓着のなせる技です。ですから行動記録を取りましょう。何時から何時まで何をやっていたか?それを手動でログに残していくのです。
上記の本に書かれている通り、無意識に食べることはできても無意識に記録することは困難です。これはあらゆる行動に適用されます。つまり、行動のログをとることで人間に備わる唯一無二の能力である「自覚」の力を駆使すれば、行動の質が上がるのです。
面倒だなんて思うことなかれ。具体的な対策や改善をするでもなく、ただ記録を取るだけで状況が改善するというのなら儲けものではありませんか。
第六階層:レビュー
いかなる経験も、それ自体では成功の原因でも失敗の原因でもない。われわれは自分の経験によるショック−いわゆるトラウマ−に苦しむのではなく、経験の中から自分にかなうものを見つけ出す。自分の経験によって決定されるのではなく、経験に与える意味によって自らを決定するのである
「嫌われる勇気」 第一夜 トラウマを否定せよ
第六階層は「レビュー」です。これは振り返りのことを指しています。日記のような毎日の振り返りをはじめ、一週間の振り返り、一ヶ月や一年の振り返りなども含みます。
レビューの第一の目的は、記録から生活の質を上げるために改善することを見極めることです。記録を振り返って評価する習慣を持てば、現実的に生活の質を高める具体的な方法をいくつも手に入れることができます。
もう一つの奥深い目的の1つは、過去を意味づけし直すことによって再選択できるようになる習慣を作ることです。アドラー心理学にある通り、人は経験によって決定されるのではなく、過去に与える意味によって自らを決定する生き物です。
多くの人は経験したその時々の出来事をそのまま放っておいて望ましい選択をするタイミングを作ろうともしません。レビューの習慣を持つことは、日々自分に降りかかる様々な出来事について、時間を置いて定期的に意味づけし直す習慣を持つことでもあります。
これが自分の行動にどれほどパワフルな効果をもたらしてくれるか、賢いあなたならお分かりでしょう。
第七階層:アーカイブ
ほとんどの人は、脳の短期記憶に抱えきれないぐらいの「気になること」を溜め込んでいる。たとえるならば、メモリの容量ギリギリまで使い切ったパソコンで作業をしているようなものだ。そのため脳に負荷がかかって集中することができない。常に気が散ってしまい、対応能力が落ちてしまうのである。
「はじめてのGTD ストレスフリーの整理術」 P.54
最後となる第七階層は「アーカイブ」です。アーカイブはその名の通り、資料の倉庫です。これは自分の身の回りで大量に発生する自分に関連する情報の渦を整理し、自由に検索でき、いつでも情報にアクセスできる場所のことです。
資料の倉庫とは言いましたが、ここで扱うのはポストに届いた書類だけを扱うわけではありません。自分の思考、自分の軌跡、成果物、アイデア、気になることなど、自分に関連する全ての情報を含みます。
つまり外部の脳に書き出すことで頭を空っぽにして、記憶しておくべきようなことを何1つとして残さないようにするのです。記憶ではなく記録に頼るようにするのです。Googleで情報を検索するように、自分に関する全ての情報を検索できる場所があったとしたらどれほど快感でしょうか。それはいま没頭すべきことに没頭するための強力な推進力となるでしょう。
7階層式タスク管理の仕組みを導入してみよう!
これが私が6年間作り込んできたタスク管理の仕組みの全体像です。いずれも機能ごとに分割されたものですから、ツールは何を選択しても機能するようになっています。単一のツールに集約することもできるでしょうし、いまお使いの環境に適用することもできるはずです。
▼最後にもう一度全体像を掲載しておきましょう。甘美!
もちろん機能ごとに分けて管理することもできます。機能ごとに分けることのメリットは、その機能に特化した最適なツールを選べるということです。個人的にはそうすることをオススメします。
もちろんいきなり全てを実行するのは大変でしょうから、ピンときたものからスモールスタートで取り入れてみてください。
きっと素晴らしい変化に出会えるはずです(私がそうであったように!)。
貴下の従順なる下僕 松崎より