私の愛しいアップルパイへ
あのクエンティン・タランティーノ監督の最新作で、ただいま劇場公開中の「ヘイトフル・エイト」を観てきました。
感想は文句なしの95点!私的には100点でも良かったのですが前知識がないと最高には楽しめないので、厳しめに-5点しました。
私はこの作品を劇場で観られたことを神に感謝します。
【ネタバレなし】ヘイトフル・エイトを観た感想は最高の一言!95点!
ヘイトフル・エイトはタランティーノ監督ファンにも映画ファンにも最高な作品と言えるでしょう。見なきゃ損ですし、これを楽しめないなら今後映画は観ないほうがよろしいでしょう。それくらい手放しで賞賛できる心躍る映画でした。
そんなヘイトフル・エイトの最高なところをネタバレなしで書いていきます。これを読めばヘイトフル・エイトを100%楽しめるはずです。
現代でも斬新だと思えるマカロニ・ウェスタンを蘇らせたクエンティン・タランティーノ監督
「マカロニ・ウェスタン」というジャンルをご存知でしょうか。イタリア製の西部劇を示すジャンル名です。ちなみに、マカロニ・ウェスタンと呼んでいるのは日本だけで、海外では「スパゲッティ・ウェスタン」と呼ばれています。
ジャンルとしては主に1960年代~1970年代にイタリアで作られた西部劇です。クリント・イーストウッド主演、セルジオ・レオーネ監督のタッグで撮られた「荒野の用心棒」からはじまる3作の「ドル箱三部作」はマカロニ・ウェスタンの代表作であり、誰でも名前くらいはご存知でしょう。
そもそも西部劇というのはアメリカ合衆国の西部開拓時代を描いたものなので、アメリカ製の西部劇が当然主流。イタリア製の西部劇というのは亜流なのです。その亜流の特徴はというと、アメリカ風の気持ちいい西部劇とは打って変わって、一癖も二癖もある登場人物たち、長回しの映像美、ひねくれたストーリーなどが特徴です。
大抵がどこまでも単純なアメリカ製の西部劇とは違って、この一風変わった西部劇が映画マニアの心をとらえたのです。しかし、徐々に西部劇が廃れていくのと同時にこのマカロニ・ウェスタンも1970年代を境に撮られなくなっていきました。斬新だったマカロニ・ウェスタンも、いつしか良くも悪くも古きよき映画として廃れていったのです。
そんなかつて映画マニアの心をとらえたマカロニ・ウェスタンを今になって全力で撮影している監督が一人だけいます。それが、自身も映画マニアであるクエンティン・タランティーノ監督というわけです。
かつてのマカロニ・ウェスタンをベースにしながら、一流の役者に一流のセットに一流の脚本、そしてクエンティン・タランティーノ監督独自のアイデアを重ねあわせて、現代でも斬新だと思えるマカロニ・ウェスタンを蘇らせたわけです。これがクエンティン・タランティーノ監督の前作「ジャンゴ 繋がれざる者」と今作「ヘイトフル・エイト」ってわけです。
そうくるかと思わされる現代ウェスタンの極上の演出
では、アメリカ製ウェスタンの亜流であるイタリア製ウェスタンをさらに現代風にアレンジした「ヘイトフル・エイト」はどこが斬新なのか。設定を1つ1つ見ていきましょう。
まず注目すべきは主人が年老いた黒人である点です。時代的には黒人のカウボーイも存在するのですが、通常映画のウェスタンといえば若々しい白人が主人公というのがセオリーです。そこをヘイトフル・エイトは老人の黒人を主人公に配役しているところがニクイわけです。
ちなみに「許されざる者」や「黒豹のバラード」、そして前作「ジャンゴ 繋がれざる者」など、黒人カウボーイが主人公の名作は数少ないながらもいくつかあります。
さらに、今回の舞台は大雪です。これも通常のウェスタンなら牧歌的な雰囲気が漂う牧場や街を使うのがセオリーですので、非常に斬新な設定といえます。ちなみに、この設定もジョン・ウェイン主演の「捜索者」やセルジオ・コルブッチ監督の「殺しが静かにやって来る」など、知る人ぞ知る名作を踏襲したニクイ設定です。
そして、ストーリーは吹雪に囲まれた小屋、つまり密室での群集劇という設定です。通常のウェスタンなら街中でドンパチやるのを楽しむものですが、「ヘイトフル・エイト」は逆に密室での登場人物間の駆け引きに重きを置くことで斬新なマカロニ・ウェスタンに仕上がっています。
しかも登場人物はみんなオヤジか姉御ばかりのむさ苦しい8人。通常のウェスタンならヒロインが必ず一人いて華をそえるものですが、「ヘイトフル・エイト」はそんなラブロマンスへの脱線を徹底的に排除しています。
そのうえ、マカロニ・ウェスタンにサスペンス要素をブレンドする実験的な試みによって、息をのむほどの緊張感を生み出すまったく新しい形のマカロニ・ウェスタンを作り上げたのです。
映画マニアの心を震わせる配役
映画マニアなら心を震わさずにはいられない配役も最高です。
まず、主人公の年老いた黒人カウボーイを演じるのはサミュエル・L・ジャクソン!サミュエル・L・ジャクソンはクエンティン・タランティーノ監督作品の常連ですが、やっぱり相性が最高です。
そして、カート・ラッセル。カート・ラッセル+大雪といえば、映画マニアなら同じく雪山の基地に取り残された男達との駆け引きを描いた傑作「遊星からの物体X」をまず思い出すでしょう。まったくニクイ配役です。
ちなみにカート・ラッセルは2007年のクエンティン・タランティーノ監督作品「デス・プルーフ in グラインドハウス」で主役を演じています。
さらには、クエンティン・タランティーノ監督作品の常連である名優ティム・ロスとマイケル・マドセンまで出てきます。
それから、前作「ジャンゴ 繋がれざる者」にも出演していたウォルトン・ゴギンズに、本作でアカデミー助演女優賞にノミネートされたジェニファー・ジェイソン・リー、「11人のカウボーイ」でジョン・ウェインを殺した男として有名な西部劇の名優ブルース・ダーンまで出演しています。
密室を舞台にした映画としては、誰が生き残るかさっぱり読めない最強といえる配役です。もしこの映画の主人公がジョン・ウェインだったら、展開がすぐに分かってしまいますからヘイトフル・エイトにはならないわけです。みごとの一言でしょう。
しかも劇中の音楽はまだ生きていて現役なことが不思議なマカロニ・ウェスタンの伝説の巨匠エンリオ・モリコーネ!そして、ナレーションはクエンティン・タランティーノ監督自身!私はもう見る前から興奮しっぱなしでした。
脚本の出来はさすがの一言!
密室に訳ありのアウトロー8人が取り残されるというプロットを聞けば、誰もが思い出すのがクエンティン・タランティーノ監督の長編一作目にして出世作「レザボア・ドッグス」でしょう。映画史に名を残すギャング映画の名作です。
つまり、密室に集まったアウトローたちの駆け引きというのは、クエンティン・タランティーノ監督にとって大得意な設定なのです。クエンティン・タランティーノ監督といえば、映画界を見渡しても脚本の良さは折り紙つきです。そんなクエンティン・タランティーノ監督が自ら大得意なプロットで映画を撮るわけですから、面白くないわけがないでしょう!
ちなみに、本作はゴールデングローブ賞の脚本賞にもノミネートされました。
古いのに新しいマカロニ・ウェスタン!
そういうわけで「ヘイトフル・エイト」は古いのに新しい素晴らしい名作でした。これこそクエンティン・タランティーノ監督でなければ絶対に撮ることのできない一本でしょう。
限りなく100点に近い映画でしたが、ウェスタンおよびマカロニ・ウェスタンを知らないと100%楽しめない部分があるので、泣く泣く95点にしました。でも今日私の話を聞いてくれたあなたなら100点満点で観られるはずです。ナイス!
そんな伝説的な作品をリアルタイムに劇場で観ることができたことを心から嬉しく思います。そして、まだ見ていないのであればすぐに劇場のチケットを予約することをオススメします。見逃したら後悔しますよ。
▼タランティーノ監督作品をすべてまとめた記事も書きました。タランティーノ監督に興味を持ったなら、こちらもどうぞ。
貴下の従順なる下僕 松崎より