私の愛しいアップルパイへ
私自身はあまり経験したことがないのですが、目標をたてることにワクワクしないという問題は割とよくあることのようです。
私も職業柄、想像力を駆使して目標やヴィジョンを固めることの重要さを人に説くことがありますが、時おり同様の質問を受けることがあります。
目標をたててもすぐに魅力がなくなる。目標を見ると嫌な気分になる。そもそも魅力的な目標が思いつかない。
まさか想像力を駆使するのをやめて、目の前の仕事を場当たり的にこなしましょうなどとは私は言いません。このレンガの壁にどう立ち向かうべきなのか、私の考えるところをお話しましょう。
現実的な目標より実験的な目標をたてる
目標を立てるときに私が肝に命じているのが「実験 > 目標の法則」というものです。というのも、達成を重視するがあまり実験とは対極の目標を立てることで、目標の価値を著しく下げてしまうケースが多く見受けられるからです。
目標を立てるときはまず実験的であることを優先しましょう。実験性の欠いた目標ほど無意味なものもありません。実現できるかどうかわからない、本当に効果的なものかわからない実験にこそ価値があります。
目標を捨てることの大切さを説いた名著「仕事は楽しいかね?」にはこんな一節があります。
試すことを続けなければならないということだ。そして試すこととは、あっちにぶつかりこっちにぶつかり試行錯誤を繰り返しながらそれでもどうにかこうにか、手当たり次第にあれこれやってみるということだ。
(中略)
必要は発明の母かも知れない。だけど、偶然は発明の父なんだ。
仕事は楽しいかね? 第4章
一切の妥協を捨てて自らのフルパワーを解放する素晴らしさについて説いた名著「100%」にはこんな一節があります。
目標を設定するとき、達成方法がわかれば、その目標は小さすぎる!
100% 第2部
実験的でない目標は捨て、「実験的目標」を立てましょう。単に、いつ、なにが達成できるかを予見するためだけの計画は目標とはいえません。それは目標などではなく、電車の時刻表かなにかです。
実際のところ、電車の時刻表のような目標を立ててはウンザリして「目標なんて立てても無駄だ!」とか「自分はなんて駄目なんだ!」と悲観的になるパターンもよく見受けられます。
目標をたててもすぐに魅力がなくなる。目標を見ると嫌な気分になる。そもそも魅力的な目標が思いつかない。その理由がここにあります。
10年後の計画、五カ年計画、年次計画はほとんど無意味
ここで1つ付け加えておきたいのは、段階的な目標はほとんど効果がないということです。段階的な目標とは、10年後の計画、五カ年計画、年次計画という類のものです。
私も以前はこの手の目標計画にかなり力を入れていた口ですが、数年運用してみた結果、あまりに無駄という結論に至りました。どちらかというと、○年後にはこうなっていないと我慢ならないという、現実逃避のためのもっともらしい根拠を作るためだけという側面が強かったように思います。
この結論が不思議であれば、目標をなぜ立てるのか?を考えてみましょう。それは、将来のヴィジョンをイメージして、次に行う実験を明確にするためです。
現実を超えて実現したい将来のヴィジョンを現実化するために、なにが起こるかわからない実験を繰り返すためです。それは今の最優先事項を明確にするためと言い換えることもできます。
ここを履き違えて欲しくないのですが、目標というのは決して未来を予測するためのものではないということです。むしろ予測できない未来を楽しむためのものです。「仕事は楽しいかね?」にも書かれていますが、5年後どうなっていたいか?という質問ほど馬鹿げた質問もありません。
幸せな働き方について説いた名著「夢をかなえるゾウ2」にはこんな一節があります。
人間にとって一番怖いのは、将来が見えないことじゃなくて、将来が見えてしまうことなんだ。
夢をかなえるゾウ2 P.11
ですから、今の最優先事項が明確になったなら、段階的な目標はその段階まででOKということになります。もちろん10年後のイメージを固めなければ最優先事項を見極めることができないという状況もあるでしょう。その場合には10年後の目標を立てる価値があります。
しかし、今の最優先事項が明確になっているにも関わらず、1年後、5年後、10年後、50年後の目標やヴィジョンを立てようとするのは完璧主義の罠です。つまり、なにが本質的に重要かわからないからとりあえず細部まで完璧に仕上げようとするダサいやり方です。
大抵の場合、1ヶ月もしくは1週間の目標さえあれば事足ります。私はいま目標という類のものは一週間後のものしかありません。ミッション・ステートメントと今週の目標さえあれば今の最優先事項が明確になるからです。
長期的で段階的な計画を立てるときの大きな欠点の1つは、作成だけでなく運用にも大きな負荷がかかることです。自分が前進するたびに状況は変わるので、計画も都度変えないといけなくなります。最優先事項が明確なら、これは控えめに言っても時間の無駄です。
さらにいうと、実験的な目標と段階的な計画は相性が悪いのです。なにが起こるかわからない実験ですから、1年後にどうなっているか?5年後にどうなっているか?など分かりようがないのです。
もっといえば、1年後にどうなっているか分からないからこそ面白いのです。
社会的な評価を意識すると実験性を損なう
「実験 > 目標の法則」を理解していても、そもそも実験的な目標なんて思いつかないという場合もあるでしょう。
それには大きく2つの原因があると考えます。1つ目は社会的な評価によって目標を設定しようとしている場合です。
特に承認欲求と実験的目標は相性が最悪です。承認欲求にとらわれれば自在さを失い、まっさきに実験性を失ってしまうからです。
社会的に評価の高い目標を掲げてみても、そこに実験性がなければ、ワクワクすることのできないウンザリするような目標にしかならないでしょう。そして、社会的に評価の高いものというのは、過去に誰かが実現したことでしかなく、実験性などほとんどないのです。
例えば、多くの学生にとって受験は実験性を失った退屈な目標の代表です。かくいう私もそうでした。高い学歴を得ることにフォースした目標は確かに社会的評価としては申し分ないでしょうが、そこに至るルートは分かりきっており、実験性が大きく損なわれます。
結果、掲げた目標はワクワクしない目標となり、ワクワクしない目標を実現することは一層難しくなります。目標を掲げるときは承認欲求を一度振り払って、心から好きだといえることや、人から嫌われたとしてもそれでもなおやりたいと思えることを考えた方がいいでしょう。
自信が欠けているときは実験的な目標をたてるのが困難になる
実験的目標がたてられない第2の理由は、自信が欠けているときです。自信が欠けていると、実現できるかどうかも、うまくいくかどうかも分からないような実験を目標にすることに恐怖を感じるからです。実験的目標を立てるのは「なにが起きても対処できる」という自信のもとでのみ可能になるものだからです。
自信がなければ実現可能で無難な目標をたてるしかなくなりますが、それでは完全に実験性が失われてしまいます。もしくは、無意識のうちに思考にブレーキをかけてしまって目標を書き出せなくなるか、限られた分野の目標しか思い付かなくなります。
もし実現可能か分からないことを目標とすることに抵抗を感じるのなら、まずは自信をつけるための実験的目標に取り組んだ方が良いでしょう。
自信をつける方法はとてもシンプルです。自信は言ったこととやったことを一致させることで積み重なっていきます。言動と行動を一致させるともいえますし、自分と約束をしてそれを守ることだともいえます。
その場合は、なるべく小さなことから始めましょう。1ヶ月間24時前に寝るとか、半年間スクワットを毎日するとか、毎日欠かさず日記を書くとか、そういった基本的なところから始めるのです。特に、健康に関することは何をするにも必要になってくる分野なので、入り口としてオススメです。
そんなことをやって何になるんだ?と思ったでしょうか?しかし、私は何度も言いますが、何が起こるか分からないからこそ面白いのです。
目標の小ささを恥じることはありません。先述した通り、社会的な評価はもちろん、作業の複雑さや創造性についての考慮も不要です。まずは自分と約束をして、それを守る量を増やしていきましょう。
十分に自信がつけば、自然とより複雑でより創造的な目標を生み出せるようになります。
貴下の従順なる下僕 松崎より