SCATTER あなたがここにいてほしいという最高に面白いおすすめヒーロー漫画

 

私の愛しいアップルパイへ

ほとんど漫画を読まない私ですが、唯一、新井英樹さんという漫画家さんの作品だけは欠かさず読んでいます。

▼この方の代表作である「ザ・ワールド・イズ・マイン」に対する私の尽きせざる噴水の如き愛は以下でご披露した通りです。

この新井英樹氏が現在(2016/12/15時点)連載している「SCATTER あなたがここにいてほしい」という新作があるのですが、この漫画が大変ユニークかつユーモラスで、今の私にとっては唯一新刊を楽しみにしている漫画なので、あなたにもご紹介します。

基本的にネタバレはしませんが、事前情報ない方がぶっ飛んだ設定に驚けるので、新鮮な気持ちで読みたい方は先に漫画をお読みください。

もし悪の組織の弱点が男性の精液だったら?

この漫画がぶっ飛んでるのは、とてもシンプルでチャレンジングなテーマ設定によるものです。一言でいうと

「もし悪の組織の弱点が男性の精液だったら、どんなヒーローものができるのか?」

という実験です。実にチャレンジングで反骨精神に満ちています。

本作ではこのシンプルで実験的で冗談かと見まごうような設定に大真面目に取り組んでいます。決してギャグ漫画ではありません。むしろ、他の漫画と比べても飛び抜けてシリアスです。この一見馬鹿げた設定をシリアスに描くことで、実にユニークな作品に仕上がっています。

ストーリーとしては、人間社会に人型のエイリアンが人知れず紛れ込んでおり、人間社会を裏で自分たちのいいように操っています。主人公はひょんなことからこの事実に気づき、エイリアンを打ち倒して人間の自由を取り戻すために立ち上がります。

ジョン・カーペンター監督の「ゼイリブ」を彷彿とさせる古典的な設定です。しかし、エイリアンの弱点が男性の精液であることによって、作品はまったく異色というか異様な展開を見せます

そして、新井英樹氏お得意の緻密かつ綿密で説得力のあるストーリー、濃厚なキャラクター達による濃密な群集劇が極上のスパイスとして機能しています。

既存のヒーローものに対する究極のアンチテーゼ作品

これは既存のヒーローものに対する究極のアンチテーゼでもあります。

スターウォーズやらバットマンやらスパイダーマンやらデッドプールやらターミネーターやらを思い出してみてください。

なぜいままでのヒーローものというのは、あんなにも陳腐で型にはまっているのか?なぜ童謡の域を脱しない古典的な勧善懲悪から抜け出せないのか?

ヒーローの特殊能力は誰もが手に入れたいと思うようなスタイリッシュな能力で、悪役は暗くて陰鬱でおぞましい造形をしていて目的も不可解。このような子供だましには飽き飽きしてしまいます。ジョン・ウェインの西部劇だけで十分です。

新井英樹氏はこのような業界のマンネリと思考停止を、「悪の組織の弱点を精液とし、ヒーローの武器を男性器にする」というアイデアを軸に打破しました。

このような設定ですから、ヒーローものに必須である主人公の師匠(スターウォーズでいうオビ=ワン・ケノービ)は当然ながら年老いたベテランAV男優ということになりますし、ヒーローが武器を取り出すシーン(ウルヴァリンでいう鉤爪を出すシーン)は素早くズボンを下ろすシーンになります。

主人公の能力が目覚めるシーン(スパイダーマンでいう蜘蛛に噛まれて能力を身につけるシーン)は童貞男の性欲が暴走して性犯罪に走るシーンになり、主人公が必殺技を覚えるシーン(孫悟空がかめはめ波を覚えるシーン)は究極のズリネタを見つけるシーンになります。

相棒(バットマンに対するロビン)はあばずれの息子で、ヒーロースーツ(デッドプールでいう赤いスーツ)は下半身が露出した変態的なスーツになります。

そして、それら全てが驚くほど大真面目に描かれているのです。

反骨精神に溢れた会心の作!

なんとも悲しいことに、いままでこの快作を読んでる人には出会ったことがありませんが、なぜこのようなチャレンジングで痛快な作品をみんな読まないのか本当に不思議です。

本当に面白い漫画を探してるなら是非ご一読ください。いま7巻まで出ていて、そろそろクライマックスです。

貴下の従順なる下僕 松崎より

著者画像

システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。