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私の愛しいアップルパイへ
生活を根底から見直し、より価値の高い仕事に焦点を絞ろうと決めたとき、TVと漫画を辞めました。
本棚に並んでいた漫画を躊躇なく売り飛ばし、その後さっぱり読まなくなったのは、ある漫画に出会ったからでした。
その作品は私が思う漫画というもののほとんど完成形であり、以降このレベルの作品に出会える確率は非常に低いだろうと感じ、漫画というものに心底満足してしまったのです。
その作品は「ザ・ワールド・イズ・マイン」(The World Is Mine)、通称TWIMなる作品です。
TWIMのストーリー
TWIMには様々なストーリーが詰め込まれていますが、大きな流れとしては以下のようになります。
細々と生きるパソコンオタクの「トシ」が、理性の欠如した野獣のような男「モン」と出会います。トシがモンの気を惹くために爆弾を自作できることを告白したことで、至上最悪の犯罪者「トシモン」が生まれるのです。
同じ頃、正体不明の巨大生物が海を渡って日本に上陸します。ヒグマのような風貌をしていたため「ヒグマドン」という冗談のような名前をつけられたこの生物は、徐々に現実世界に牙を剥き始めます。
この2つの怪物が互いに競い合うようにして、日本を中心に世界全体を少しずつ滅茶苦茶にしていくってお話です。
TWIMの最高なところ
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暴力描写があまりに激しく、20世紀最凶とまで呼ばれた本作ですが、実に精巧に細部までとことん作り込まれていて、普通の漫画ではあり得ないほどの熱量を持っています。
災いなる哉!私はもうTWIMに心酔しきってしまったのです。今日はこの私が愛して止まないTWIMの魅力をご紹介しましょう。
リアリティのある壮大なホラ話
上述したストーリーを読んで頂ければわかると思いますが、とても真面目とは思えない突飛な話だと思うでしょう。滑稽なホラ話だと。
しかし、この馬鹿げたホラ話を、リアリティのある壮大なホラ話に仕立て上げたのが本作の魅力です。
妥協なしの市街地の描写や、実際に存在する組織・団体の動きや仕組み、地域ごとの方言の使い分け。実際に起きたらこうなるかもと思わせてくれる現実味が宿っています。
細部まで徹底的にこだわったキャラクター
全てのキャラクターに固有のストーリー性があり、その立ち振る舞いの人間臭さは徹底的で偏執狂的です。
全てと言うのは本当に全てです。数話に渡って登場する人物も、ほんの数コマで出番が終わる人物も、全てに魂が宿っています。
目と鼻とアゴを整形した力士。手帳に猥褻なメモを書き続ける新聞記者。ジェスチャーがオーバー過ぎる警部補。ダジャレ好きの犯罪者。英語がヘタクソ過ぎる自衛官。証券屋のクマ打ち名人。人を動物に例えたがる婦長。潔癖症の秋田県警本部長。
TWIMは主人公だけが魅力的で不自然にひいきされた作品ではありません。実際、誰が主人公か曖昧になるほど手が込んでいるのです。
予測できない上質な群集劇
作り込まれたキャラクターはそれぞれ好き勝手動き回ります。説明的なセリフはほとんどなく、ストーリーとは無意味なやりとりで埋め尽くされています。
TWIMの世界ではまるで現実のように意味があることも無意味なことも均等に存在するんです。キメゼリフの途中で電話が鳴り響くし、たまに言おうとしたことすら忘れます。
同じテーブルの上で生臭い人間同士が生々しいやり取り。体重の乗ったセリフ。予定調和を破る群集劇。これ至高なり。
TWIMを読んでみよう
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全14巻の単行本は発売後すぐに絶版となってしまい、当時は全巻集めるために関東のBOOK OFFをRobertと走り回ったのは良い思い出です。
その後2006年に加筆・修正が施された全5巻の復刻版が発売となり、現在はどこからでも手に入れやすくなりました。
TWIMは熱量がケタ違いの会心の作です。漫画を読む人にも読まない人にもお勧めできる奇跡の名作です。
貴下の従順なる下僕 松崎より