▼本記事の動画版もご用意しましたので、私の魂の叫びを聴きたいグルメな方はこちらをご覧ください。
私の愛しいアップルパイへ
モネやルノワールやドガなど近代絵画の巨匠たちが名を連ねる印象派といえば、日本でも馴染みのある絵画ではないでしょうか。
モネの睡蓮などは学校の美術の時間でも取り上げられることが多いですし、日本でもモネの睡蓮をイメージして作られた池が観光地化しています。
また、印象派がジャポニズムを積極的に取り入れていたことからも日本人にとっては心象が良く、日本で印象派の企画展が行われれば大変な賑わいにもなります。
いまや印象派といえば美術史に燦然と輝くダイヤのように鎮座しているわけですが、しかしながら印象派がいかに斬新で革命的であったかの本当の魅力というものはイマイチ伝わっていないように思います。
▼この誤解が広がっている現状に胸を引き裂かれながら手に取った以下の本があまりにSweeeeeet!だったので、この素晴らしい一冊の助力を得ながら印象派の本当の魅力に迫ってみましょう。
印象派はなんの変哲も無い日常を描いた退屈な絵画か?
正直に告白すれば、印象派はかつての私が最も嫌悪する絵画の一つでした。
印象派の企画展が日本で開催されれば、親世代の人々が「まぁ綺麗ね!」なんて言いながら美術館へ足を運ぶのを侮蔑的に眺めていたものでした。
実際のところ、印象派には風俗画や風景画が多く、昔から風俗画や風景画に馴染みのある日本人にとって印象派は受け入れられやすかったのです。
一方、夢と野心と情熱に燃える若者であった私の目にはそれが保守的に移り、「チェッ!なんの変哲も無い日常を描いた退屈な絵に群がる俗人どもめ!なんと惨めで厭らしいことであろうか!」などと分かったつもりで嘆いていたものです。無知とは恐ろしいものです。
いまでこそ印象派というものが、音楽史におけるジャズやロックに劣らないほど革命的で斬新であることを知っていますから、そのような無知からくる批判を持つことはありません。
しかし、印象派の企画展に群がるほとんどの日本人は印象派の斬新さ革新さを理解していないように思います。なんとなく「綺麗な風景が描かれていて癒される」といった程度の印象なのではないでしょうか。
モネやルノワールやドガを筆頭とする印象派たちが、なぜ命がけでこのような絵を描き続けたのかを知ると、印象派の見かたはガラリと変わります。本書にはこんな記述があります。
印象派は、ただ単に、「感性に訴える」とか「キレイ」ですむような芸術運動ではなかったのだ。そこには彼らに向かって怒涛のごとく押し寄せた世間の批判や嘲笑があり、経済的な困窮もあり、人間的な葛藤もあった。
「印象派という革命」P.48
保守的な権威に対してアンチテーゼを突きつけた印象派という革命
19世紀後半のフランスで、貴族社会の崩壊とともに印象派が台頭してくるのですが、当時のフランスの時代背景を知ると印象派のことがもっと生き生きと見えてきます。
印象派が台頭する19世紀後半から200年前、美の規範として17世紀半ばに創立されたのが「王立絵画・彫刻アカデミー」でした。それまで肉体労働者とされていた画家や彫刻家たちの一部が、芸術家としての社会的地位を確立するために作られたアカデミーでした。
アカデミーは「フォルムと構成」を重視したニコラ・プッサンの絵画を美の規範とし、絵画の主題についても「歴史画」「肖像画」「風俗画」「風景画」「静物画」の順に厳格な格付けがされていました。さらに、画家が自分で絵を売ることは”卑しい行為”とされたため、アカデミーは自ら「サロン」と呼ばれる官展をひらき、画家の登竜門としたのでした。当時、画家が避けては通れないアカデミーが極めて保守的な組織だったのです。
フランスではその間200年に渡って古典主義、ロココ主義、新古典主義と様々な芸術運動が生まれるのですが、アカデミーおよびサロンの保守的な考え方は変わりませんでした。
そんな時代背景のなかで現れたのが「印象派」でした。印象派の画家たちは古典主義のように絵の中で三次元の空間を再現しようとするのではなく、主観的に見た世界の第一印象を二次元的に表現したのです。その主題は必然的に当時は卑しいとされていた「風俗画」「風景画」「静物画」が中心となりました。
いうなれば彼らは歴史画や神話など「見たことのない世界を描く」のが高貴とされた時代に、「自分が見たままの世界を描く」ことに専念した画家でした。つまり、伝統的なアカデミーに真っ向からアンチテーゼを突きつけたのです。
そして記念すべき1874年4月、モネやピサロなど官展「サロン」を見限った印象派の画家たちが個展「第1回印象派展」を開催します。印象派の誕生です。
当時、個展を開くためには莫大な資金が必要で、官展「サロン」に入選しなければ世に出られない時代であり、若い画家たちにとってそれは死活問題でした。それでも自らの信念を貫いて、現代絵画の礎を築いた印象派を観ればただ単純に「感性に訴える」とか「キレイ」といった表現はできないのではないでしょうか。
印象派の時代背景と画家の生涯を知ればもっと深く楽しめる
今日お話ししたことは印象派についてのほんのさわりでしかありません。実際には、アカデミーの創立までや印象派に至るまでの経緯にはさらに複雑に絡み合った事情があります。
当時のフランスの時代背景と美術史、そして画家たちの生涯を細部まで知れば、印象派をもっと深く楽しめるようになるでしょう。
これは印象派の絵画に限りませんが、まずは主観的な好き嫌いを横に置いといて芸術作品を読み解こうとすれば、芸術を別次元で楽しめるようになるのです。
▼「印象派という革命」はまさに印象派を別次元で楽しめるようになる珠玉の一冊ですので、オススメです!
貴下の従順なる下僕 松崎より