伝説のバンドから学んだ「自由な働き方」を確立するための7法則~書評:グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ~

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photo credit: marfis75 via photopin cc

私の愛しいアップルパイへ

特定の企業や業界にとらわれず、場所や時間にとらわれず、自分の情熱を燃やせる仕事で自由な働き方を求める人が増えています。かくいう私もそういった生活を求め、6年半務めた会社を辞めて個人事業主としてのキャリアをスタートした夢見るリアリストです。

この理想的で情熱的な生き方を、何年も前に実現した伝説的なバンドがあります。1960年台に結成されたアメリカの「グレイトフル・デッド」というバンドです。彼らは特定の企業やレーベルに依存せず、自分たちで熱狂的なファンをまとめあげ、確固たる活動基盤と伝説的バンドとしての地位を確立しました。

彼らは常に業界の常識とは反対のことに取り組み、当時としてはあまりに斬新な手法で活動の幅を広げました。この彼らの手法を、どの業界でも誰にでも応用できるようにまとめた「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」という名著があります。

今日はこの本を読みときながら、私たちの新しい働き方を考えていきましょう。

自分たちの力で大規模なマーケットを築いたグレイトフル・デッド

ロックバンドとレコード会社、その他いろんな取り巻きにとって収入の源になるアルバムの販売を促進するためにライブをするのが基本的な「ビジネスモデル」だった。だが、グレイトフル・デッドは、このモデルを覆した。

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グレイトフル・デッドは単に商品(CDやDVD)を流通に乗せて売るタイプのビジネスをやりませんでした。彼らは自分のビジネスを管理してもらうレーベルのような存在を持たなかったため、自分たちの情熱に忠実に自分たちの大好きなことをやりながら、独創的で相性のいいやり方を発見しました。

特筆すべきは、彼らはファンの口コミによって規格外のファンコミュニティを作り上げ、バントとファンが直接繋がる巨大なマーケットを築き上げたことです。CDの売り上げが低迷する今では自然な流れに見えますが、彼らはCDの売り上げが旺盛だった40年前から既にこのやり方を実行し、そして大成功しました。

ここには自分の大好きなことで活動基盤を築く重要なポイントがいくつも眠っています。

グレイトフル・デッドから学ぶ「自由な働き方」を確立するための7法則

グレイトフル・デッドのやり方は、特定の企業や業界に依存せず、個人の情熱でで事業を築く上で、普遍的なノウハウを私たちに与えてくれます。今日はその中でも特に重要だと感じたものを7つピックアップして紹介します。

1.無料コンテンツを広めよう
2.ファンコミュニティを作ろう
3.異なる才能と出会おう
4.事務的・営業的になるのを止めよう
5.常に新しい実験をしよう
6.忠実なファンを大切にしよう
7.大好きなことをやろう

1.無料コンテンツを広めよう

ライバルのバンドと一線を画すようなサービスをファンへ提供するために、ほかでは絶対にやらないようなことに取り組んだ。例えば、ライブにきたファンに自由に録音させ、手作りのテープをファ同士が交換することを許した。これは、基本的なサービスを無料で提供する「フリーミアム」の先駆けだった。無料の音楽が原動力となり、ファンのパワフルな口コミ・ネットワークができた。

P.37

グレイトフル・デッドのビジネスモデルの最もユニークな点は、ライブの録音を取り締まらなかったことです。これによってインターネットの無い時代でもバンドのライブがより多くの人に無料で広まりました。

コンテンツを無料にすることで、人に「とりあえず試してみよう」と思わせることができます。無料のコンテンツが気に入れば、有料のコンテンツを買ってくれる確率が高まります。データコピーが容易になった今では、フリーコンテンツのパワーを使わない手はありません。

2.ファンコミュニティを作ろう

こうして集まった住所のリストに、バンドのツアー日程や、グレイトフル・デッドの「ファミリー」についての近況(メンバーのソロ活動、ツアーのクルーや事務所の社員などの結婚式や子供の誕生など)を知らせる会報が年に何度か送られた。この会報は、ファンへの単なる近況報告だけでなく、インターネットのソーシャルネットワークがない時代に、何千人もの人々をひとつにまとめたのである。~中略~

デッドヘッズはもちろん音楽が好きだ。けれどもグレイトフル・デッドのコミュニティは、デッドヘッズにとって音楽以上の意味がある。

P.142

文中のデッドヘッズとは、グレイトフル・デッド・ファンの通称です。グレイトフル・デッドは音楽販売ビジネスに注力するのではなく、ファンコミュニティの醸成に注力することで強固な活動基盤を築きました。

このことから分かるのは、たとえ世界中の人に知られなくとも、自らのファンコミュニティを大切にすれば長期的な活動基盤を築けるということです。

3.異なる才能と出会おう

ロックバンドは通常、同じような音楽の経歴を持つ人が集まって結成する。そして、メンバーが死んだり、脱退したりした場合には、バンドのサウンドにすぐなじめそうな後任を見つけるために残りのメンバーがオーディションをする。

ところが、グレイトフル・デッドの場合は、幅広い経歴を持つミュージシャンたちが引き寄せられて集まった。

P.82

真の意味で自分を成長させたり、仕事のレベルを向上させられるのは、自分以外の人と相乗効果を発揮できたときです。決して「自分でやった方がはやい」などと思わす、自分の知見を広げてくれる異なる才能との出会いを積極的に増やすことが大切です。

4.事務的・営業的になるのを止めよう

グレイトフル・デッドにもPR担当者やマネジャーたちがいたが、メンバーはファンとの親密さを保ち続けた。お金をかけて広告を打ったり宣伝文句ばかり並ぶダイレクトメールを送ったりせずに、メンバーの近況や心境を語る会報をファンに郵送した。たとえば1972年の春の号を読むと、まるで友達に出す手紙のような純朴な告白である。

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過度に事務的になったり営業的になったりするのも、ときには考えものです。個人で活動するのであれば、飾らない態度、透明性のある態度を取るほうが、好印象につながることが多いです。

特にSNSが旺盛な今では、人間味が信頼性につながります。プレスリリースのような「企業っぽさ」ではなく、自分がどんなことに情熱を感じるか熱っぽく語れる人間でありたいものです。

5.常に新しい実験をしよう

即興と実験を繰り返し、しかもすべてのライブが異なった内容だったので、グレイトフル・デッドはほかのロックバンドよりも多く失敗をした。ジェリー・ガルシアはそれについてこう語った。「毎晩真珠を獲りに潜るのだが、ときにはアサリを獲って来てしまうこともある」。5つくらいのライブのうち、ひとつかふたつは演奏的には失敗だったが、出来の悪いライブの翌日がとても素晴らしいということもまれではなかった。

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グレイトフル・デッドの独創的な音楽はもちろん、彼らの独創的なビジネスモデルもまた、度重なる実験の賜物でしょう。

自分に最適なやり方がすぐに見つかることはありません。数々の実験を繰り返し、失敗を噛みしめて初めて、自分にとっての最高のやり方が見つかるものです。

6.忠実なファンを大切にしよう

グレイトフル・デッドは、ツアーの情報をファンに真っ先に知らせ、最も良い席を取れるようにし、その忠誠心を駆り立てた

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ファンコミュニティの大切さは2でも説いたとおりです。コアなファンを第一に扱うことももちろん大切なのですが、それをきちんと行動に移すのは意外なほど難しいです。

私たちは新規顧客を獲得するために、どうしても安易に「今なら○○円割引!」といったことをやってしまいがちです。しかしそれは同時に、通常価格で買った昔ながらのファンを軽視する行為でもあるのです。

7.大好きなことをやろう

情熱を追い求めて仕事を選んだ人にはよくあることだが、グレイトフル・デッドの何人かは最初ものすごく質素な生活をしていた。たとえば、ガルシアは音楽とギターの演奏に情熱を抱くあまりギター中心の生活だった。バンドを結成する前にはギターを教えていたのだが、スズメの涙ほどの収入しかなかったので、なんとクルマのなかで寝起きしていた。ガルシアは割りのいい「仕事」を得るのではなく、それをやり通し、その情熱が最終的な成功に貢献した。

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やはり一番の武器は、自分の大好きなことをやることであり、自分の大好きなことに100%没頭することです。そのときにだけ人は、最高の幸せを得られると同時に秘められたる力の全てを発揮できるのだと私は信じています。

自分の大好きなことを仕事にするための一冊

この本は、自分の大好きなことを仕事にするために価値ある気づきを与えてくれる一冊です。グレイトフル・デッドがそうしたように、私たちも特定の企業や業界にとらわれず、場所や時間にもとらわれず、自分の情熱を燃やせる仕事で自由に働くことができます。

題材はグレイトフル・デッドというバンドですが、音楽業界に限らず使えるノウハウが詰まっているので、ご興味があれば是非読んでみてください。

▼ちなみに、私が開発に携わったWebサービスで、本書に書かれているような手法を発展させて、しかもオンラインで実行できるようにしたFrekulという日本発のWebサービスがあります。音楽が好きな方、音楽活動に携わっている方は是非こちらもご覧になってみてください。
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貴下の従順なる下僕 松崎より

著者画像

システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。