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私の愛しいアップルパイへ
理由は分かりません。最初に音楽家になりたいと思ったのは小学生の高学年の頃でした。ただ、これから思春期に入ろうとしていたためなのか、この夢を人に話すことはほとんどありませんでした。
口に出したら「身の程を知れ!」と罵られるような気がしたのです。いつ覚えたかも分からないこの夢を持つことが恥ずかしいという感覚は、それから事あるごとに私の動きを鈍らせることになりました。
自らの夢を裏切り続けてきた人生
今でもよく思い出すエピソードがあります。
私は20歳で夢を追う覚悟ができずにシステムエンジニアとして就職しました。誰に聞いたか分かりませんが、安定して働けそうだと思ったからです。
その会社に務めていた頃、切っ掛けは様々でしたが先輩から趣味について聞かれることが何回かありました。「休みの日にどんなことをやっているの?」とか、そんな他愛のない雑談だったと思います。
そんなとき私はちょっと得意げに「音楽です」と答えました。そして間髪入れずにニヒルな笑みを浮かべながら防衛戦を張るようにこう続けたんです。「まぁ、趣味の範囲内でですけどね」と。
その度に私は自分のことを裏切っているような感覚がしました。私は小学生の頃から誰にも話せなかったのですが、自分の音楽活動を趣味の延長だなんて、単なる暇つぶしだなんて思ったことは一度たりとも無かったからです。
私は音楽を唯一の生きがいだとすら思っていました。それにも関わらず、実際には自分の音楽活動が趣味に過ぎないと話す自分に心底ガッカリしていました。
いつしか私は私自身がまったく信用ならない人物だと思うようになっていました。ここぞという時には自分の本心を裏切る信用ならない輩なのだと思っていました。なんて惨めなのでしょう。
夢を追うにあたってまずもって必要だったこと
それから何年かして、どうしても夢を諦めきれないと覚悟を決めたときに私が始めたのは自分でも意外なことでした。それは新しいバンドを結成することでも、我武者羅に楽曲を制作することでもありませんでした。
私が始めたのは禁煙することでした。それから、朝起きて慌てて会社に行くのではなく、会社に行く前に自分の時間を作ることでした。そして、週に2回の休みの日に、昼寝で時間を無駄にしないことでした。
私は音楽史に名を残すなんて決意をいきなりするようなことはしませんでした。なぜなら最後の最後でついに理解したからです。今まで胸を張って夢を人に話すことができなかった理由を。自分の夢に自信を持つことができなかった理由を、です。
それは私が私自身を信用に足る人物だと確信できなかったからだったのです。
そのためにまず必要だったのは、自分と小さな約束をして、それを確実に守ることだったのです。そうして自分で自分に対する信用を取り戻すことこそが、夢を追うにあたって小学生の頃から欠けていた根本的な能力だったのです。
夢を追うためにまずもって必要な能力は、自分を信用することなのです。
貴下の従順なる下僕 松崎より