本人に聴くパワー!~初ライブ直前にバンドメンバーと喧嘩したときの話~

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私の愛しいアップルパイへ

その日、私は怒っていた。あのひよっ子メロスなんぞ足元に及ばないほど怒り狂っていた。初ライブの一週間前だった。

ライブ直前にバンドメンバーと喧嘩したときの話

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ミーティングに積極参加してくれないメンバー

私のような紳士がなにを怒っていたのか説明しましょう。それはバンドのギタリストとの不和についてでした。しかも初ライブは一週間後。とてもピリピリしているときでした。そのギタリストをここでは仮にHenryとしましょう。

ライブに近づくにつれてHenryの態度が目につくようになりました。それは、ミーティングに積極的に参加しないことや、バンドのミーティング中やリハーサル中に関係ない雑談や冗談を言っていることでした。

初ライブに向けて、1つでも多くのアイデアが欲しかった私にとって、これは気に入らないことでした。また、バンドメンバー全員が揃って話せる貴重な機会を無駄にされていることも気に入りませんでした。だからといって、その貴重な時間を口論に費やすことも無駄でしょう。私はHenryにイライラしつつも、ミーティングやリハーサルを前進させることに集中しました。

「なぜHenryはまじめに話してくれないのか?」。この疑問の声は日に日に大きくなっていきました。いつしか声の内容はHenryにはやる気がないのではないか?」に変わっていきました。そして最終的にHenryは私の生きがいである夢を軽視しているのではないか?」に変わりました。

Win-Win or No Deal?

Henryと私は高校時代からの友人です。様々な遊びを一緒にして、前のバンドでもギターを任せていた関係でした。つまり親友と呼べる存在です。しかし、だからこそ慣れ合いで夢をないがしろにされることを恐れていました。

夢!これぞ私の生きがいです。ですから、相手が誰であれ夢を軽視されるのは決定的なできごとでした。

親友と呼べる友人と一緒になにかをやることは、阿吽の呼吸ができているうちは最高のものが作れるのですが、すれ違いが起きると一気に崩壊する危険性もはらんでいます。私はバンドがこの落とし穴にはまり込む前に手を打たねばならないと感じました。

良い人間関係を築くにはどうすればいいのか?そうだ、7つの習慣で習いました。Win-Win or NoDealです。全力でWin-Winを目指した結果、お互い満足できる関係を築けないならば、勇気をもってNo Deal(取引しない)とすること。

NoDealは勇気のある選択です。Win-Winを目指せない関係に固執すれば、結局はどちらかが妥協してWin-LoseかLose-Winに陥ってしまうからです。

私のWinは?音楽家の夢を形にすること。その足を引っ張る関係があるなら?相手が親友でも勇気をだしてNo Dealとする。

答えは出ました。

見落としていた1つのプロセス

No Dealを行動に移すまでのプロセスは正しいように思えましたが、1つ見落としている点があることにも気づきました。それは、本人に直接聴いていなかったことです。

なぜミーティングやリハーサルに積極的な態度で参加してくれないのか?理由など聴くまでもないと思っていました。昔からの親友であることも、この言い訳を助長していました。親友なのだから、聴かなくても分かるんだって。

しかし、なぜ本人に直接聴こうとしなかったのでしょう?普通に考えれば、本人に聴いたほうが早くて確実です。

私は「聴くまでもない」という言葉の裏で、直接聴くのをためらっていた自分に気がつきました。本人に直接聴いて「お前の夢にはウンザリだ」と言われるのが怖かったからです。ですから、聴くまでもないことにしたかったのです。

この歪んだ眼鏡をかけていたことに気づいたのが、ライブの一週間前でした。それから私はすぐに今世紀最大の発明を利用して、Henryに連絡しました。「我、汝に相談したいことあり。本日、赤羽にて待つ」と。

Henryはなにを考えていたのか?

赤羽にて落ち合った私とHenryは、居酒屋に入って対話を始めました。数分間の日常会話をやりとりした後、私はHenryに率直に質問しました。

「おお、愛しいHenryよ、正直に言っておくれ。汝にとって我らがjMatsuzakiバンドはいかほどの価値をもつものであるのか!」

Henryから出た回答は意外なものでした。

「jMatsuzakiよ。私にとってバンドは素晴らしい仕事のうちの1つだ。無論、普段の仕事とのバランスをとるのは難しいのだが、使える時間は責任をもって全力で注ぐつもりだよ。」

バンドに対するネガティブな意見を予想していた私は少し動揺しました。それから、次の本質的な質問をHenryにぶつけました。

「しかし、しかしだHenryよ。ミーティングやリハーサルに集中できない態度はいったいなにを示しているのだ?それはやる気がないことの表明ではないのか!」

少し考えたあとにHenryから出た言葉は、さらに驚くべき回答でした。

「ジーザス!jMatsuzakiよ、君がそんなふうに思っていたとは知らなかった!音楽についてはjMatsuzakiを信頼していたから口出ししないようにしていたところがある。また、私は確かに無自覚に会話の流れを壊すところもある。申し訳ないことをしたな。これからは改善しよう!」

私は驚愕しました。Henryから出てくる言葉は、バンド活動に対する否定的な意見なはずだと思っていたからです。しかし、実際の回答は正反対のものでした。

実際のところHenryは夢とやる気に満ち溢れた男でした。ひょうきんなところも昔から変わっていませんでした。本当の問題は私の認識にあったのです。

それから、私はHenryに謝罪しました。自分がHenryをどう見ていたか。それによって、どんな感情を抱いていたか。どのような誤解をもとに行動していたか。それらを説明して謝罪しました。

そして、これからの二人の関係性をより良くする方法と、お互いの夢についていつになく深く語り合いました。興味深いことに、誤解から生まれたこの時間は、結果的に二人の絆を深めてくれたのです。

本人に聴くパワー!

帰宅後、このような自己正当化と被害妄想からくる人間関係の悩みが、いままでどれほど繰り返されていたのかを考えてゾッとしました。あのまま私が自分の認識を信じて行動していたらどうなっていたでしょうか?

  • 相手:ミーティングに積極的に参加していない
  • 自分:相手の態度からやる気がないと認識する
  • 自分:やる気がないことに苛立ち、相手に冷たい態度をとる
  • 相手:冷たい態度をされることに苛立ち、同じく冷たい態度をとるようになる
  • 自分:開き直ったと感じてさらにコミュニケーションの溝が深まる
  • かくして、二人の関係は崩壊する

今回学んだのは、人の気持ちを推察することはほとんど不可能で、だからこそ本人に直接聴くことにはパワーがあるということでした。

これからは人の気持ちが分かるとか、空気が読めるなんていう都合の良い思い込みに逃げ込まず、勇気をだして人の話を直接聴きにいこうと誓ったできごとでした。

貴下の従順なる下僕 松崎より

著者画像

システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。