jMatsuzakiの新曲「Portrait of Pope Innocent X」公開と作品解説



私の愛しいアップルパイへ

素晴らしいことが起こった!

私はそう叫ばずにはいられません。素晴らしいことが起こった!私のデリケートな脳髄にそう響き渡ります。

何が起こったのかって、そう、我が子である我がソングがまた一つ産声を上げたのです。

題して「Portrait of Pope Innocent X」!なんて甘美な響き!

「Portrait of Pope Innocent X」の聴きどころ

本作の聴きどころについて、いくつか解説しましょう。

jMatsuzakiとしては初の共作

私にとって私のソングというものはいつだって極めて個人的な現象でございまして、その現象というものがまた極めて偏執狂的なものですから、それゆえに大抵は自分一人で制作しています。

私は芸術表現においては「純粋さ」というものを最も重要視しているが故です。(だいたい承認欲求に汚されて純粋さを欠いた芸術なんて、「鉄の木」というほどに無意味で、不毛で、矛盾しているってものでしょう)

とはいえ、共作について後ろ向きというわけではなく、私の考えを真の意味で共有でき、理解し合える間柄であれば共に作品を作ることにも前向きです。

そういうわけで、小・中学生時代からの盟友であり、ボーカリストとして活動するHirokiとは、精神的な面において実に深いレベルで共有しあっていましたから、これは共作すれば面白いことが起きそうだと確信したわけです。

▼Hirokiの個人ブログはこちら。

かくしてこのソング 「Portrait of Pope Innocent X」は私とHirokiによる初の共作となりました。私自身、ここまで他人と深く連携して作品を作ったのは初めてです。

主に主題と歌詞、ボーカルをHirokiが、それを元にイメージを膨らまして形にしていくのを私が行う形で制作を進めました。

Francis Baconの「Study after Velázquez’s Portrait of Pope Innocent X」にインスピレーションを受けて

本作のタイトルは「Portrait of Pope Innocent X」となっておりますが、これは同名の絵画作品からインスピレーションを受けたイメージを丹念に練り上げたためです。

もともと「Portrait of Pope Innocent X」は17世紀の画家であり、スペインを代表する画家であるベラスケスの作品でした。

▼作品については以下をご参照ください。

Portrait of Innocent X – Wikipedia

これにインスピレーションを受けた20世紀イギリスの現代画家であるFrancis Bacon(フランシス・ベーコン)が制作したのが「Study after Velázquez’s Portrait of Pope Innocent X」です。

▼作品については以下をご覧ください。

Study after Velázquez’s Portrait of Pope Innocent X – Wikipedia

私たちはこの2枚の絵、特に後者であるフランシス・ベーコン版の「Portrait of Pope Innocent X」にえらく感銘を受け、本作の土台とすることにしました。フランシス・ベーコンは、無限に広がる歪な精神世界を具象画で表現した画家でした。

特にフランシス・ベーコンが偏執狂的に執着したのは、人間の「絶望」「不安」「虚栄心」「葛藤」「苦悩」「嫉妬」「孤独」「不道徳」といった、精神的な脆さと歪さでした。

これは生涯を通して2つの世界大戦という激動の時代において、若い頃に女装趣味によって家を勘当され、極貧の中で盗みに手を出し、酒やギャンブルに溺れ、果ては愛人の自殺を経験したベーコン自身のポートレートだったのでしょう。「Portrait of Pope Innocent X」をはじめ、ベーコンの絵画の主要なテーマが「叫び」だったのも頷けます。

しかし、だからといってベーコンが人間の負の側面を暴こうとしたと考えるのは少々軽率というものかもしれません。私が思うに、彼はそのような暗黒の世界の絶望を暴こうとしたのではなく、むしろそのような汚れた世界に入り浸りたいという欲望を抑えきれなかったのではないでしょうか。

ホモセクシャルだったベーコンにとって「Portrait of Pope Innocent X」というのは教会の欺瞞を暴くというよりは、しばしば普通の男性が密かに抱えている「綺麗な女をめちゃくちゃにしたい」という衝動を吐き出したような作品だったのではないでしょうか。

つまり、ベーコンの絵画というのは嫌悪よりも羨望が強く、リアリズムというよりはロマン主義めいたものを感じずにいられないのです。

それは犯罪や種々の無価値性を美徳としたフランスの作家、ジャン・ジュネの「泥棒日記」を彷彿とさせますし、それにオマージュを捧げた三島由紀夫の「金閣寺」にある屈折した愛情を彷彿とさせるものがあります。

いずれにせよ、このベーコンが抱えていた危険なバランスには、なんともいえない蠱惑的な魅力があり、ベーコンの作品は同世代のシュルレアリスムともまた違った形で私たちに肉薄してくるのです。

「Portrait of Pope Innocent X」の構造

私たちの作品である「Portrait of Pope Innocent X」は、このようなベーコンの解釈を丹念に音楽に投影する作業の繰り返しでした。

例えば、歌詞はいくつかの矛盾した欲望が脈絡もなくぶつかり合うようにできています。

楽式は3つの大楽節によって成り立つシンプルなものですが、これはベーコンが得意としたトリプティック(1つのモチーフに変化を与えて作る3つの連作)に合致します。

それぞれの楽節はベラスケスの作品とベーコンの作品のようにまったく別の地層を持つように作られていて、楽節ごとに別のテンポを割り当たり、遠い調への転調を使うことによってそれを表現しています。

本作は全体を通して偶数小節ではなく3,5,7,9,13といった奇数小節によって展開するようにできていますが、これはベーコンらしい「不安」を引き立てるのに一役買っています。また、第二、第三楽節が決して陰鬱な曲調でない点には、ベーコンらしい不道徳と悪趣味を感じ取ってもらいたいところです。

それでは「Portrait of Pope Innocent X」をお聴きください

ここまでで我が子「Portrait of Pope Innocent X」の生い立ちについてご理解いただけたでしょうか。それではお聴きいただきましょう。

リッスン!

(静かになる)



貴下の従順なる下僕 松崎より

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システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。