私の愛しいアップルパイへ
もっと学習や仕事の効率と効果を高めたい。そんな貪欲なところがあなたの良いところです。もっと早起きしたほうがいいのか、もっと長時間頭を使ったほうがいいのか、短時間で集中的に頭を使うべきか。様々なアプローチがあるでしょう。
ここで1つ、少し毛色の違う(そしてものすごく効果的な)もう1つの案をお伝えしたいと思います。それは、ランニングすることです。それも、学習や仕事をはじめる前に。
「脳を鍛えるには運動しかない」では、運動が脳の働きに素晴らしく良い影響を与えることについてこう書かれています。
運動すると気分がすっきりすることは誰でも知っている。けれども、なぜそうなるのかわかっている人はほとんどいない。ストレスが解消されるから、筋肉の緊張がやわらぐから、あるいは、脳内物質のエンドルフィンが増えるから-たいていの人はそんなふうに考えている。でも本当は、運動で爽快な気分になるのは、心臓から血液がさかんに送り出され、脳がベストの状態になるからなのだ。わたしに言わせれば、運動が脳にもたらすそのような効果は、身体への効果よりはるかに重要で、魅力的だ。筋力や心肺機能を高めることは、むしろ運動の副次的効果にすぎない。わたしはよく患者に、運動をするのは、脳を育ててよい状態に保つためだと話している。
「脳を鍛えるには運動しかない」 序文
本書を読み解きながら、朝一のランニングがベスト・プラクティスであることを見ていきましょう。
学習や仕事の効率を高めたければ朝一でランニングしろ!
「0時限体育」で世界一の成績をおさめたアメリカの学校
本書ではアメリカのネーパーヴィル・セントラル高校において、”型破りな”体育の授業が引き起こした奇蹟的な成果が中心的に取り上げられています。
この学校の体育教師が少ない予算で成績向上をはかるために取り入れたのが「0時限体育」です。一時限目の授業が始まる前に運動することで、頭をしっかり目覚めさせてから授業に送り組むのです。
0時限体育で生徒がおこなっているのは、できるだけ速く走ることの他に、高い心拍数を維持して運動することです。
0時限体育を取り入れて以来、生徒たちの成績は17%も伸びたそうです。それよりはるかに多くを語るのが数学と理科における生徒の知識レベルを国際比較するために作られたテスト「TIMSS」(国際数学・理科教育動向調査)の結果です。TIMSSにおいて、ネーパーヴィルは理科のテストで一位、数学のテストでは六位となったのです。
文字通り世界一の結果をおさめたのです。
体にいいことは、脳にもいい
私たちは数学の成績を上げるために体育に一生懸命取り組めとは教わりませんでしたが、実際のところ脳の働きと体の働きは密接に結びついているということです。
近年の研究では、運動が生物学的変化を引き起こし、脳のニューロンを結びつけることがわかっています。
ネーパーヴィルの学校のように、ゲームボーイのかわりにランニングしてみましょう。そうすれば、脳が最高の力を発揮できるようになるのです。人類の進化の過程を考えれば、これは自然なことです。学習と記憶の能力は、祖先たちが食料を見つけるときに頼った運動機能とともに進化したのですから。
運動が三つのレベルで学習を助けていることは十分おわかりいただけたと思う。まず、気持ちがよくなり、頭がすっきりし、注意力が高まり、やる気が出てくる。つぎに、新しい情報を記録する細胞レベルでの基盤としてニューロンどうしの結びつきを準備し、促進する。そして三つ目に、海馬の幹細胞から新しいニューロンが成長するのを促す。
「脳を鍛えるには運動しかない」 第二章 学習
運動を終えたあとが最も脳が働くタイミング
運動が脳に良い影響を与えることについては納得いただけたでしょう。では、いつ運動すればいいのでしょうか。
当たり前ですが、激しく運動しているあいだは難しいことは考えられません。大学生にランニングマシンで走ったりエアロバイクをこいだり激しい運動をさせながら、難しい試験を受けさせたところ、結果はひどいものだったそうです。
ベストなタイミングは、運動し終えた直後です。だから0時限が有効なのです。
運動を終えるとまもなく脳に血が戻ってくる。このときこそ、鋭い思考と複雑な分析を要する課題に取り組む絶好のチャンスなのだ。
「脳を鍛えるには運動しかない」 第二章 学習
有酸素運動と複雑な動きを組み合わせる
どんな運動をどのくらいすればいいかについて最適解はありません。わかっているのは、有酸素運動と複雑な動きをする運動を組み合わせるのがいいということです。それぞれ別の有益な効果をもたらしてくれるので、両方取り組むことが大切です。
有酸素運動で大切なことは、中強度から高強度で運動することです。強度は心拍数ではかります。中強度なら、最大心拍数(220から自分の年齢を引いた値)の65%~75%、高強度なら75%~90%で心拍数を維持することです。これを1日に数十分、週に5日以上おこなうといいとされています。
▼心拍数は以下のような活動量計を使えばランニング中でも簡単に確認できます。
複雑な動きをする運動とは、ロッククライミングやヨガ、空手の型、ダンスなどのように、歩く以上に複雑な運動技能のことです。これらは普段の動きと違って学ばなければ身につかないため脳を刺激します。
他にも、サッカーやテニスなどのように有酸素運動と複雑な動きを同時にできるスポーツも有効です。
脳を育てるために運動するという発想
私はいままで頭と体をまるで別物であるかのように扱ってきたような気がします。日中は頭を酷使する仕事をしながら、運動不足を嘆いていたのです。ですから、運動といえば時間が許すときに軽くランニングしたり、機会があるときに友人とスポーツをする程度でした。
しかし、本当は頭を酷使する仕事や学習をおこなうのであればこそ、運動は欠かせないものなのです。
中学校を卒業して以来、運動を習慣化してこなかったことを後悔しています。遊びといえばテレビゲーム、仕事といえばパソコンという感じでした。本書をもっとはやく読んでいればよかったという気分です。
本書を読んで、学習や仕事を効率的かつ効果的にするためにも、日常生活のなるべくはやい時間対に運動を取り入れるべきだと確信しました。私はさっそく仕事前のランニングをはじめたところです。
貴下の従順なる下僕 松崎より