シェフのこだわり。私が新曲「Ernest」に仕込んだ3つのアイデアとは?

[soundcloud url=”http://api.soundcloud.com/tracks/20004972″]

私の愛しいアップルパイへ

先日無料配信を始めた我が新曲、我が処女作の「Ernest」ですが、
ここらで一度「Ernest」でこだわった所、取り入れたアイデアなどを整理してみましょう。

どんな楽曲にも作曲者による「新しい角度」からの発想が含まれており、
そこには作曲者の使命に対する固有の洞察力が含まれているのです。
これが芸術において、かけがえの無い価値創造に繋がるわけですから、
今日はその一端に切り込んで、整理・分析・共有してみます。

尚、標題にある通り、料理の一品一品に創意工夫を重ねる”シェフ”を演じながら
面白おかしく紹介しようとおもったのですが、そもそも料理にあまり関心が無く、
技量不足だと思い至ったので、ごく普通に紹介します。

◇「どう認識されたかだけでなく、どう作られたかも重要」

音楽は主観の操作であり、“認識されるもの”です。
音楽が表現であり客観化活動である以上、確かにどう認識されたかが一番重要です。

しかし、それと同じくらい“どう作られたか”も重要なのです。

それは、音楽とは価値の創出であり使命の追求である訳ですから、
結果を生じるまでのプロセスに目を向ける事は必要不可欠といっても過言では無いでしょう。

作曲者が「発想」を直感により「選択」し、「実践」を「検査」した後に「分析」する。
このワーキングプロセスに踏み込む事で新たな発想に繋がるのです。

だからこそ私は臆面も無くここに我が発想と実践を紹介します。

◇「シェフがこだわる3つのポイント」

それではさっそくこだわりポイントを見てみます。今回は3つ用意してきました。

1.無限旋律、循環動機

お気づきかも知れませんが、この楽曲は実にシンプルで強固は骨組みを持っているのです。
それはたった二小節からなる以下の動機が、音色や音高をわずかに変えながらも
最初から最後までの間に54回も途切れる事無く鳴り続けているのです。

主題

主題

※クリックして拡大

これは「無限旋律」「循環動機」などと言われる技法の最も原始的な形態ですが、それを偏執狂的に徹頭徹尾やり遂げているのです。

2.旋法

旋法というとちょっと専門的でとっつきにくいかもしれません。簡単に説明すると、
現在の楽曲では、少なくともポピュラーミュージックであれば”ド”~”シ”までの12個の音を使用します。

しかし、一曲だけで見ると12個の音を全て均等に使うのはまれで、
12の楽音から一定の法則で7つ程度の楽音をピックアップします。それが旋法です。

この7つの音の組み合わせで最も有名なのが「長調」と「短調」というやつですね。
ちなみに十二音技法という「逆に12個全ての楽音を全て均等に使ってやろう」という捻くれた旋法もあるのですが、それはまた別の機会に。

で、我が子「Ernest」ではどんな旋法を使っているかというと、以下の様になります。
旋法

旋法

※クリックして拡大

一見しても何が特殊なのか分かりませんが、まず使う音を7つでは無く5つに減らしています。
この5音の特殊性は、隣り合った音に半音が存在せず、原始的で素朴な印象を与える所にあります。

鍵盤をなぞってみるとさらに面白い事がわかります。それは鍵盤の内、白鍵をまったく使っておらず、5つの黒鍵だけで構成されているということです。

専門用語を使わせて貰ってさらに補足すると、3度の音が欠けていて、七度の音は常に短七度というのが大きな特徴です。
「分からない方は、ああ7つの音の中にもそれぞれ役割があるんだなぁ」なんて事が分かってくれれば十分です。

ダンサンブルでノイジーで軽快なドラムの上にこの旋法が乗っかることで、
“道路のど真ん中をドシンドシンと恥ずかしげも無く歩く、よそ者で粗野な中年男性の様な印象”を与えているのです。

3.題名

音楽家にとって重要なポリシーは、音楽家にとって考えなくて良い事を考えない様にする事です。

自らの領分を出て、画家や文学者がすべき事に手を付けようとする行為は、労力の無駄になるばかりでなく、音楽家としての品位を損なうという事です。
 ※この際ワーグナーの事は一度忘れましょう
これはしばしば「純粋音楽」と「標題音楽」の対立として論じられます。
やらなくて良い事をやらない事は芸術の分野では時に得がたい才能になります。

ご参考としてハンスリックの「音楽美論」をご紹介しておきましょう。

486181121X 音楽美論 (名著/古典籍文庫―岩波文庫復刻版)
ハンスリック 田村 寛貞
一穂社 2006-03by G-Tools

私にとって曲名は考えなくて良い事の内の一つです。とは言え単に連番を振るだけだと何かと不便です。
その為、システム屋が開発ネーム、コードネームなどとして良く使うように無作為に選んだ単語群から一つを割り当てています。

私の場合それは人名であり、パッと閃いた名前が「Ernest」(アーネスト)だったのです。

◇「もう一度聴きなおしてみよう!」

いかがだったでしょうか。”どう作られたか”に目を向けたなら、もう一度スクロールバーを上に戻して「Ernetst」を聴いてみましょう!

そこにはきっと新たな発見があり、その先に新たな発想がある事でしょう。

もちろん私も今一度聴き直しております。

 おっ、ここで右から入ってくるViolinのPizzicatoがなんとも甘美だな・・・
 むぅ、この悪魔の囁きの様なViolaのTremoloがなんとも・・・
 ああ、このドミナントへの転調が気分を盛り上げる・・・

貴下の従順なる下僕 松崎より

著者画像

システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。