人生を再創造するためにエクスプローラー・ステージ by ライフ・シフトを組み込む

私の愛しいアップルパイへ

先週より1ヶ月間、語学研修に来ています。蜘蛛が紡ぐ糸のように美しく流れる私の文章がいつもより洗練されて響くなら、それは英語を学んだことで新しいインスピレーションを受けたからに違いありません。

私はあと1ヶ月後にドイツ・ベルリンへの移住を控えているのですが、もともと海外移住なんて考えていたわけではなかったので「This is a pen.」からやり直しています。それでフィリピンでの語学留学に来て平日8:00〜17:00までマンツーマン・レッスンを受けているのですが、英語を学べることとはまた違ったある種の格別の快感を味わっています。

それは朝から晩まで勉強だけに没頭できる環境にいることで、とことん知的興奮を刺激され続ける快感です。私はマイホームやマイカーを始めとした所有物や、社会的ステータスや知名度といった承認欲求になんら価値も贅沢も見出せない類の人間なのですが、この知的興奮が刺激される贅沢な快感は心から愛していることを再発見させられました。

いままでも1つの分野の本を立て続けに読む、数日間の講習を受けるといったことには取り組んできましたが、ここまで極端なものはありませんでした。

100年ライフに新しく追加されるエクスプローラー(探検者)のステージ by ライフ・シフト

寿命が100年まで延びることで訪れる変化について述べた名著にリンダ・グラットン氏の「ライフ・シフト」があります。私は語学研修やベルリン移住を考えたときに真っ先に思い出したのはこの本でした。

本書によれば、人類の平均寿命が100年に到達することで(ある研究によれば、いま20代の日本人の平均寿命は100歳まで延びるとおも言われています)、従来の3ステージ型のライフプランは崩壊すると言われています。

3ステージとは「教育→仕事→引退」の3つのステージです。これまでは3つのステージを順番にこなしていくのが当たり前でしたが、長寿化することで(つまり仕事ステージが長期間化することで)単純な3ステージ型のライフプランは現時点ですでに有効に機能しなくなっています。

そこで本書が提唱するのがエイジ(歳)とステージを切り離してマルチステージ型のライフプランを送ることです。人生を教育→仕事→引退という型に嵌った考え方でとらえるのではなく、もっと柔軟に人それぞれ複数のステージに切り分けることで時代の変化に即したライフプランを作ることを推奨しています。

マルチステージには大きく3つのタイプがあり、それぞれ以下のように名付けられています。

  • エクスプローラー
  • インディペンデント・プロデューサー
  • ポートフォリオ・ワーカー

それぞれのステージを3ステージ時代のように単一方向性で考えるのではなく、自分の状況に応じて適切に行き来することで質の高い人生を作り出すのです。そのためには新卒でいきなり独立して働いても構いませんし(インディペンデント・プロデューサー)、本職とは別に十数個の副業を手がけてもいいですし(ポートフォリオ・ワーカー)、50歳で大学に入学(エクスプローラー)してもいいのです。

それぞれの解説は本書を読んでいただければと思いますが、今回私が特に実感したのは「エクスプローラー」ステージの重要性でした。このステージは学習にフォーカスしたステージで、ある程度収入を削ってでも学習に没頭できる環境に身を置くことを指します。

ひたすら勉強に没頭できる投資的な贅沢

私自身、仕事をしながらでも日々勉強はするものですし、仕事自体が良い勉強になっていると思っていたこともあり、いま思えばエクスプローラー・ステージの組み込みはどうも優先度を下げているきらいがありました。

ただ、ベルリンへの移住を決めてから語学留学を始めて二週間が経過しようとしている今、エクスプローラー・ステージのパワフルさを改めて再発見しました。

第一に、やはり日々のメインを仕事にしつつ新しい分野の知識を習得し、文字通りエクスプローラー(探検者)になるには限界があるということです。もちろん語学留学先のフィリピンでも最低限必要な仕事は手がけていますが、あくまで中心には英語の習得を置いています。

こうなってくると知識の入り方が全く違いますし、さらにその知識を生かす方向性の発想が再現なく生まれてきます。他の2つの仕事メインのステージと比べて可能性の広がり方が桁違いで、まさにエクスプローラーとしての役割を実感しています。

第二に、エクスプローラー・ステージによって得られる知的興奮の快感は別次元だということです。私たちはもはや所有物や社会的ステータス、名声によって満足を得るようなタイプではとうにありませんが、その代わりに成長や知的欲求から生まれる快感にとびきり大きな価値をおくタイプでしょう。

エクスプローラー・ステージでは、この幸福の度合いが他2つのステージと比べて別次元です。また、そのあとエクスプローラー・ステージを終えて得られた知見を武器に、再度別ステージに入った場合の興奮は想像以上のものになるでしょう。

本を読んでわかった気になっていましたが、「エクスプローラ・ステージ」は私が思っているよりもずっと大きなものであったと感じています。そして人生を再創造するための要になるステージでもあるのでしょう。

エクスプローラー・ステージを人生に適切に組み込む

難しいのは「エクスプローラー・ステージ」を人生に組み込むには明確な意志と勇気が必要になることです。また、一時的にせよ業務上のパートナーの負荷を上げてしまうため、良好な人間関係とエクスプローラー期間で得られた知見が仕事にも良い影響を与えるという強い確信がないとなかなか踏み出せないでしょう。

私自身「エクスプローラー・ステージ」へ入ることを決めるうえで仕事量を大きく減らさなければなりませんでしたし、それに伴う不安とも戦わなければなりませんでした。また、ステージの移行には明確な期限というものがありませんから、どうしてもズルズル先延ばししがちな傾向があります(私自身、2ヶ月後にはドイツに行くという段階になってようやく語学留学へと踏み出しました)。

「ライフ・シフト」にありますが、効果生の高い人生を構築しようと思ったら自由を追求するだけではいけません。むしろ積極的に不自由を選択することが求められます。心地よい環境を離れなければ新しい知見を得るのが難しいことは多々ありますし、生活レベルを下げなければエクスプローラー・ステージを乗り切れないこともあるでしょう。本質的な問題はいかに自由になるかではなく、いかに選択するかなのです。

エクスプローラー・ステージへの移行にあたってはこの問題は常につきまといます。ベルリンに移住してからも美術史や音楽の大学に入るプランがあるのですが、エクスプローラー・ステージの組み込み方についてはこれからも熟考していきたいところです。

貴下の従順なる下僕 松崎より

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システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。