【ネタバレなし】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドを観た感想。まさかタランティーノ監督作品で泣くとは…

私の愛しいアップルパイへ

2019年8月30日はダイハードは映画ファンにとっては記念すべき日となりました。映画監督として卓越した才能を発揮しているクエンティン・タランティーノ監督による長編9作品目となる「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(原題:Once Upon a Time in Hollywood)が日本公開されたためです。

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欧米では1ヵ月前に公開されていたので、私はまだかまだかと餌をお預けされたピットブルのように待ちわびていました。そんなわけで公開されてすぐに鑑賞しに行った次第です。

今日はこの素晴らしい作品を観た感想をお届けします。ネタバレ無しでお届けするので、鑑賞前でも安心してお読みください。

ちなみに、野暮だという批判を恐れずに点数で評価するならば92点です。

まさかタランティーノ監督作品で泣くとは…

濃密な2時間40分。

作品が終わったとき、スタッフロールを眺めながら気づいたら頬を涙が伝っていました。

まさかタランティーノ監督作品で泣くとは思いませんでした。

これまでタランティーノ監督が手がけた作品は脚本だけのものも含めてほぼ全て観ましたが、泣いたのは初めてだと思います。それだけ込み上げてくるものがある一作でした。

タランティーノ監督自身が意識したのかは不明ですが、本作のタイトルの由来ともなったSergio Leone(セルジオ・レオーネ)監督によるマカロニ・ウェスタンの代表作「Once Upon a Time in the West」(邦題:ウエスタン)とほとんど同じ時間となる2時間40分。これは忘れられない経験になりました。

おそらくタランティーノ監督の長編9作品すべてを観た人なら同じく涙が溢れてくるでしょう。逆に、タランティーノ監督作品をさほど観たことがない人であれば、なぜ泣くのかさっぱり意味が分からないどころか、この作品の何がそんなに面白いのかすら分からないかもしれません。

本作はそんなダイハードな映画ファンかどうかを炙り出すリトマス紙的な作品なのかもしれません。

なぜ主人公のモデルがバート・レイノルズなのか?

私は本作のディティールが公開されてからずっと不思議に思っていたことが一つあります。それは、なぜ主人公のモデルがバート・レイノルズなのか?です。しかも、チャールズ・マンソンによるシャロンテート殺害事件という現実に起こった事件を題材にしているにも関わらず、バート・レイノルズはあくまでモデルというのも気になっていました。

最初は単純にスターの栄光と没落、そして時代の転換を描くためのインスピレーションとして採用したのかと思いました。

しかし、スターの栄光と没落、そしてハリウッドの狂騒を描くにしては、失礼ながらバート・レイノルズのキャリアは少々地味に見えます。自他共に認める映画オタクならではのチョイスかなとも思いましたが、本当にそれだけなのかと違和感を覚えていました。

亡くなる直前だったバート・レイノルズ本人に出演をオファーするなど、タランティーノ監督にはバート・レイノルズ対する並々ならぬ情熱を感じました。残念ながら、バート・レイノルズ氏は本作の撮影が始まる直前、台本の読み合わせをした後に亡くなってしまうのですが(後述しますが、これが彼の俳優としての最後の仕事になったことは運命的です)。

あらためてタランティーノ監督とバート・レイノルズとの関係性に注目し、その上で本作を観てやっと本作の主人公のモデルはバート・レイノルズ以外はあり得なかったのだと理解しました。そして、その理由が腹落ちしたとき、つまり本作を観終わったときに自然と涙が溢れました。

アメリカのテネシー州で生まれたタランティーノ監督は、アメリカのテレビ局CBSによる西部劇のTVシリーズ「Gunsmoke」(邦題:ガンスモーク)に登場するQuint Asper(クイント・アスパー)にちなんで、“クエンティン“と名付けられました。このクエンティン・タランティーノ監督の名前の由来となったQuint Asperを演じたのが、他でもないバート・レイノルズだったのです。

タランティーノ監督は両親の意向もあり、数え切れないほどの映画を観ながら、映画と共に育ちます。そんな彼にとって西部劇を舞台に暴れまわる自らの名前の由来となったバート・レイノルズが一番のヒーローだったことは想像に難しくありません。

タランティーノ監督は本作において、自らが生まれたその瞬間からバート・レイノルズに対して抱き育ててきたヒーロー像を形にしたのでしょう。

まさにタランティーノ監督作品9作品目としてベストな一作だった

タランティーノ監督は監督作品を10本撮ったら監督業を引退すると公言しています。それが本当だとすれば、本作は最後から2番目の作品となります。

本作を観て、最後から2番目の作品であることを強烈に意識した作品になっていると確信しました。

10作品のうちで、幼少時より育ててきた自らのルーツであるバート・レイノルズのヒーロー像を形にして描くのはタランティーノ監督にとって必須の仕事だったのでしょう。そして7作目の「ジャンゴ」、8作目の「ヘイトフル・エイト」と西部劇を立て続けに制作してきたタランティーノ監督にとって、バート・レイノルズをモデルとした作品を制作するのは流れとしてもベストだったに違いありません。

最後から2番目となる本作で自らのルーツを徹底的に深掘りし、次回作となるフィナーレへと繋げていくという意味で、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は9作目としてベストな一作だったと思います。

タランティーノ監督の少年時代の夢が詰まった感動作

本作はおそらくキル・ビルの時みたいに、タランティーノ監督の映画オタクが行き過ぎた自己満足作品として批判されるかもしれません。

しかし、本作はただの映画オタクによる自己満足作品ではなく、クエンティン・タランティーノ少年が胸に思い描いてきた夢を現実にした作品といえます。映画監督として順調にキャリアを積み上げてきたタランティーノ監督が50代に入ってついに夢を叶えたのです。

誰もが少年時代に一度は胸に描いたであろう憧れのヒーロー像をこれでもかというほど克明に、丁寧に描いたタランティーノ監督の想いに感動した一作でした。しかも、バート・レイノルズが亡くなったその年にというのは、運命的です。非常にドラマティックで希望の詰まった、涙なしに語れない一作だったと思います。

貴下の従順なる下僕 松崎より

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システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。