新型コロナウイルス後の世界について、サピエンス全史の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏が語ったこと

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イギリスの経済紙「The Financial Times」にて、歴史学者であり、あのサピエンス全史」「ホモ・デウス」「21 Lessons」の著者であるユヴァル・ノア・ハラリ氏がコロナウイルス後の世界について語っていました

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ユヴァル・ノア・ハラリ氏が歴史学者の視点から、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を人類が乗り越えた後にどのような世界の変化が起きて、どのような世界が待っているのかについて、過去の歴史を踏まえて実に鋭い視点で語っています。

内容が大変興味深く、ユヴァル・ノア・ハラリ氏らしい切り口で語られていたので、簡単に概要と解説をあなたにもシェアします。内容は現時点では無料で閲覧できる様ですので、ぜひ元の記事も読んでみてください。

ユヴァル・ノア・ハラリ氏が語る新型コロナウイルス後の世界

今回の危機は一過性のものでは無い

ハラリ氏は今回の危機は今後数年間でまったく違う世界を形成すると予測しています。今後数週間で下される大胆な決断と一時的な措置は危機が去った後も定着し続け、世界を別物にするとハラリ氏は断言します。

この様な状況下では十分なテストが済んでいないテクノロジーや政策が導入されやすくなります。危機が嵐の様に過ぎ去った後にまったく違う世界が広がっているかもしれません。

歴史的に見ても緊急事態に“一時的な“措置として導入されたテクノロジーや政策が、その後に廃止されたケースは稀だそうです。実際のところ、最近の例では、ハラリ氏の母国であるイスラエルで1948年に起こった独立戦争下での一時的な措置はまさにその様な歴史を辿っており、現在進行形で影響を与えているといいます。

皮膚の下(Under the Skin)の監視が進む

今回の危機が世界に与える決定的な要因な要因をハラリ氏は皮膚の下(Under the Skin)の監視と呼びます。

感染を抑えるために各国が急速に取り入れているのは市民を監視するテクノロジーです。国家と企業が結託して市民を監視するテクノロジーと制度は2回の世界大戦を経て着実に進んできているものであり、エドワード・スノーデン氏のリークをはじめ周知の事実になりつつあります。

ただ、これまでの監視は皮膚の上(マウスをクリックしたりスマホ画面をタップすること)に過ぎませんでした。しかし、今回の危機がこれまでと大きく違うのは皮膚の下、つまり体温や健康状態など体内の生理的な反応の一部始終を監視できることです。実際、これを最大限駆使することによって中国は今回の感染をどうにか抑え込みつつあります。

皮膚の下を監視するテクノロジーと環境、制度が整えば、政府は今よりずっと思い通りに市民をコントロールできる可能性が高いです。ハラリ氏によると、咳の様な生理的な反応を監視することができれば、同様に、怒りや愛や友情といった生理的な反応も監視できる様になるためです。

しかも、今や高性能のコンピューターとネットワーク、高度なアルゴリズムが存在するので、これらのデータの追跡と分析は50年前のKGBよりもずっとうまくできます。もはやKGBよりビッグ・ブラザーの方がずっと現状に近いのかもしれません。

全体主義的監視か?市民の自発的協力か?

この様な危機的な状況と世界の変化を前にして、我々は2つの重要な選択に迫られるとハラリ氏は言います。1つ目は全体主義的監視か、市民の自発的協力かの選択です。

これまでも私たちは生体監視とプライバシーについての戦いを繰り広げてきましたが、今回の危機は大きな転換点になる可能性があります。

政府による大々的で執拗な監視体制と刑罰が導入される可能性があり、全体主義的な監視につながる可能性があります。それは歴史的にみて、データは無責任で利己的な政治家によって悪用される可能性があり、市民の自由が致命的に侵害される可能性もあります。

一方で、その様な監視システムに依存するのではなく、市民による自律的で自発的な行動および市民間のエンパワーメントによって今回の危機を乗り越えることもできます。高いテクノロジーは駆使しつつも、全体主義的監視に陥らず、市民の自発的な協力のもとで感染を抑え込むことができれば理想的です。

ハラリ氏によれば、今回の危機をその様な理想的な対処によって成功に達しつつあるのは韓国、台湾、シンガポールの三ヶ国だそうです。これらの国は最新のテクノロジーを利用しつつも、全体主義的な監視に陥らず、市民の自発的な協力によって感染を抑え込んでいます。

ただし、この様な市民の自発的な協力によって危機を乗り越えることは多くの国にとって非常に困難です。

なぜなら、この様な理想的な対応は政府と報道と市民の間に信頼関係が必要不可欠であるにも関わらず、20世紀以降、政府は自らの権力を強めるために意図的にこれらの信頼を希薄にしようと努めてきたためです。信頼は一朝一夕で再構築することはできません。

ナショナリストの孤立か?グローバルな連帯か?

もう1つの重要な選択は、ナショナリストの孤立か、グローバルな連帯かの選択です。

グローバルな連帯が理想的なのは言うまでもありません。しかし、現時点ではこの危機への対処としてナショナリスト(国家主義、民族主義)的な対応が目立ちます。

WHOによるパンデミック宣言後、アメリカが事前通告なしに一方的にEUからの入国を拒否したのは象徴的な出来事でした。現時点では、中国が感染を効果的に抑え込む方法とヒントをアメリカに連携する様子は見られません。

私たちにはいま問題の早期解決として、科学データと専門家の知識をグローバルに共有することが求められています。政治的なイデオロギーや根拠のない陰謀論ではなく。

それは代償を払う必要があるために、ナショナリスト達の手によって実現が困難になっています。科学データと専門家の知識を共有することは、敵対国やライバル国に資金や資源を提供することに繋がり、技術の流出も避けられないからです。

しかし、グローバルな連帯がなければこの危機は長引き、将来的にはさらなる障害を引き起こすかもしれません。

一時的な危機や災害として取り組むのは危険である

今回の件は、一時的な危機や災害として反応するのは真に危険なのだと再確認させられました。もちろん緊急事態をどう乗り越えるかは重要なことではありますが、軽率に急場を凌ぐ感覚や、一時的な緊急事態と捉えて行動するのは危険です。

ハラリ氏は歴史学者の観点から、過去の歴史にどう学べるのか?どの様な未来が予測できるのか?といった観点で実に興味深い考察を展開してくれています。

この記事ではとてもまとめきれないので、ぜひ詳細は原文を読んでみてください。現時点ではこの記事は無料公開の対象となっておりますので、今のうちにどうぞ。

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貴下の従順なる下僕 松崎より

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システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。