私の愛しいアップルパイへ
自分の主張を信頼してもらう方法については誰もが抱えている悩みでしょう。自分の意見がいかに正しくても、人がそれを受け入れて、信じて、行動に移してくれるとは限らないからです。
自分と同じ意見をいっているはずなのに、多くの人々に賛同されたり、多くの人を行動に突き動かしたりしている人を見て歯がゆい気持ちになったことは少なからずあるはずです。良い学校を卒業した人の意見は好意的に受け入れられやすいのは、その最たる例でしょう。
商品やサービスを売るときには特に差し迫った問題になります。自分の商品やサービスがどんなに優れていても、その優れているという主張を信頼してもらわなければ購買にはつながらないからです。
では、人に主張を信頼してもらったり、同意してもらったり、共感してもらったりするときにはどんな手段があるのでしょうか。ハーバード大を卒業するしかないのでしょうか。(否!)
自分の主張を相手に信頼してもらう4つの方法
自分の主張やアイデアを広める方法について書かれた名著に「アイデアの力」があります。
本書では主張やアイデアを広めるために必要な要素を6つに分類して解説してくれる画期的な本です。その6つの要素のなかに「信頼性」があり、ある主張やアイデアに対する信頼性を獲得するためにはなにが必要かを教えてくれます。
ポイントを解説しましょう。
1.信頼性のある人物に推薦してもらう
まずはおよそ誰もが想像し得る最も簡単な方法です。それは信頼性のある人に推薦してもらうことです。日本ではお墨付きなんていわれていますね。本の帯によくある「◯◯推薦!」ってやつです。
では、信頼性のある人物とは誰なのか?まずは権威のある人です。政治家や有名大学の博士、資格の認定など、権威ある人からのお墨付きがあれば、たとえデマでも信頼性を勝ち取ることができます。私がいきなり「モスマンは本当に存在する」といったら病院をすすめられるでしょうが、オバマ大統領の公認をもらうか、国際UMA検証認定試験の資格を所持していれば多くの人が信じてくれるでしょう。
権威だけでなく「憧れの人」も信頼性のある人物です。イチローが野球以外のことに関する話でも支持を集められるのは、多くの人が「あんなふうになりたい」と考えているからです。
ただ、問題もあります。それは、あなたがロスチャイルド家の一員なら話は別ですが、このような信頼性の高い人たちから推薦をもらうのは運の要素が強すぎるということです。
そこで、本書ではもう1つ信頼性のある人物をあげています。それは「反権威者」です。例えば、麻薬の有害性を説きたいなら、麻薬の影響で人生を台無しにしてしまった人に協力してもらいます。その人が麻薬博士でなくとも、人気タレントでなくとも、人々が麻薬の恐怖に目覚めるために大きな影響力を発揮できるでしょう。
無名でも問題の生き証人である半権威者は、権威や憧れの人に勝るほど信頼性のある人物になり得るのです。
とはいえ、このような信頼性を与えてくれる外部の存在がつねにいるとは限りません。そこで、外部の存在に頼らない信頼性の勝ち取り方として、本書でいう「内在的信頼性」が必要になります。それがこれから説明する方法です。
2.現実的な描写を盛り込む
信頼性を感じさせる方法として、現実的な細部を語るという方法があります。現実的な細部を描写するとメッセージに具体性と実感うまれるのです。
例えば、怖い話を披露するときに「ある町で殺人事件が起こった」というよりは「いまから×年前。○○県の△△町の□□湖で殺人事件が起こった」といったほうが恐怖心が増すでしょう。これは細部を描写することで怖い話に現実味が宿り、信頼性が高まったからです。怖い話というのは大抵この手法が使われています。
もう1つ、現実的な描写を取り入れる方法は、数値を現実的で人間的なものに置き換える方法です。例えば面積を縦105m×横68mと表現するよりは、サッカー場と同じくらいと表現する。月5千円払って欲しいというよりは、付き合いで行っている飲み会を毎月1回だけ我慢すればいいと表現する。この商品は700円ですというよりは、この商品は美味しいコーヒー一杯分ですと表現する。
数字の羅列には現実味がありませんが、人間的な尺度に置き換えることで実感がうまれるのです。
自分の主張を語るとき、核となるメッセージに加えて、そのメッセージに至るまでの細かい描写や、現実世界でイメージしやすい表現を混ぜれば、主張の信頼性が高まるのです。
3.シナトラ・テストに合格する
信頼性を高める手法に「シナトラ・テスト」があります。これはフランク・シナトラがニューヨークでの新生活における心境を歌った「ニューヨーク・ニューヨーク」にある歌詞から命名された用語です。その歌詞はこんな内容です。「ここでうまくいけば、どこへ行ってもうまくいくさ」
つまり、特定の場所での成功が、その分野全体に通用することを示せるテストのことをシナトラ・テストといいます。
ある会社にセキュリティ向上を狙った新しいITシステムを売り込むとき、そのシステムが銀行でも使われているなら、機能の説明よりその実績を説明すべきでしょう。IT業界のなかでも銀行は特に高いセキュリティレベルが求められるからです。銀行で実用にたるということは、まさに「ここでうまくいけば、どこへ行ってもうまくいくさ」のシナトラ・テストに合格したことを示します。
新しい極寒地用のコートを作って売り込みたいなら、そのコートを着てエベレストで1年間過ごしてみるのも良いでしょう。エベレストで耐えられるなら、どこでも耐えられるでしょうから。
自分の主張の信頼性を示してくれるシナトラ・テストを考えて実証すれば説明するまでもないかもしれません。
4.相手が信頼性を検証できるようにする
最後は、本書でも「最も信頼性を高められるかもしれない」と書かれている方法です。それは、相手が実際に試してみて、信頼性を検証できるようにすることです。
新しい料理がいかに美味しいかを相手に主張したいなら、権威から推薦してもらったり、料理を作る過程を細かく伝えたりするよりも、実際に食べてもらうのが確実でしょう。その料理がどれほど信頼できるかどうか、実際に相手に判断してもらえばいいのです。
他にも、映画配給会社の行う「つまらなかったら全額返金キャンペーン」などはその一例でしょう。映画がお金を払うほど面白いかどうか、実際に試せる仕組みを用意したということです。
特に面白いのは、インターネットが普及したいまの時代では、この方法に無限の選択肢が生まれたことです。デジタルなら在庫を抱えなくて済むので、気軽に試してもらえる環境が作りやすくなったからです。
一般的に「フリーミアム」といわれるモデルはこの方法をうまく活用しているといえるでしょう。無料で試せる環境を用意しておき、価値を感じたらお金を払ってもらうビジネスモデルだからです。
信頼性を検証可能にすることは、「内在的信頼性」を獲得するうえで大いに役立つでしょう。
権威や有名人のお墨付きをもらう以外にも信頼性を高める方法はある
これらの話を聞いて私が面白いと感じたのは、1番目にお話した権威や有名人からのお墨付きをもらう以外にも選択肢はいくつもあるのだと気づけたからです。
自分の主張やアイデアを信頼してもらいたいとき、通常なら安易に権威に頼りたくなります。例えば、高学歴の友人をその場に呼ぶとか、有名人に取り上げてもらえるようにメッセージを送ってみるとかです。
また、権威のお墨付きがないことを嘆くだけで、自分の主張やアイデアを諦めてしまうケースも少なからず見てきました。なにを隠そう、私が昔に挫折した前バンドがそうでした。「ちぇっ、俺が有名人だったら曲を聴いてもらえるだろうし、評価もされるだろうに…」という具合に。
実際には、権威や有名人の力を借りずとも、自分の主張やアイデアを信頼してもらう方法は無数にあります。これは私に大きな希望を与えてくれました。
▼本書は「信頼性」に関する部分以外でも新しい視点をいくつも与えてくれる名著です。おすすめ!
貴下の従順なる下僕 松崎より