私の愛しいアップルパイへ
前回の「タスク管理マニア」で鉄人佐々木正悟さんと語り合って激しく納得したことがあります。人は緊急なこと以外は手につかないということです。
もし行動に移していることがあるなら、それは何らかの理由で緊急性があったということです。もしやりたいのにやれないことがあるなら、自分を動かすほど十分な緊急性がなかったということです。
第二領域(緊急ではないが重要なこと)という幻想
名著「7つの習慣」に四つの領域というあまりに有名な時間管理の考え方が取り上げられています。
行動は緊急度の高低と重要度の高低を掛け合わせて4つに分類できるという考え方です。その中でもとりわけ重要なのは、緊急ではないが重要なこと(いわゆる第二領域)にどう手をつけるかが成功の鍵であるとする考え方です。
これは人生の方向性を決めるうえでのコンパスとしては有効に機能するものの、実際のアクションとして額面通りに受け取ろうとすると、あまりうまく機能しなくなります。
なぜなら、実際に行動に移されるのは緊急なことだけであり、緊急でないことは行動に移されないからです。
最初こそ「馬鹿め!それでも緊急性に振り回されないのがCoooooolな紳士の生き様であろう!」と否定しかけたのですが、確かに納得してしまいました。さらに、その納得感は日に日に高まるばかりです。
私は日々、1分単位で自分の行動ログをとっています。その中のどの行動ログを取り上げてみても、緊急性のなかった行動などなかったのです。つまり、第二領域というものは実際の行動の中にはあり得ない、空中に咲く花のごとき非現実のものだったのです。
緊急でないことを淡々と続けるという幻想
緊急ではない事項を日々淡々と続けるという幻想は根強いです。
人知れず緊急ではないが重要なことに取り組み続け、ある日それが認められて大成するという物語には希望がありますし、そういった幻想を美化してすがりつきたくなるのもよくわかります。かくいう私がそうでしたから。
ただ、日々淡々とこなせるようなことは、いえ、そういうものこそ緊急性が必要なのだと思い至りました。
それを行う必然性があるからこそ日々飽きもせず淡々と行動に移せるわけで、その必然性とは緊急性に他ならないのです。もっと言えば淡々と続けているように見えるのは傍目にそう見えるだけで、本人としては淡々と行っているなんて意識はないのでしょう。
もし一夜漬けでどうにかなるようなものでなく、習慣化して長期的に取り組む必要があるものを実行に移そうとしたなら、それを毎日持続するだけの緊急性なしには成り立たないものです。
ここで「緊急ではないけど重要なことを続けられない自分はなんて駄目なんだ」と自己否定するのは、まったく無意味どころか現実逃避ともいえる反応のしかたです。しかし、第二領域を実行したいと欲する夢想家ほどこの罠に陥りやすい気がします。
第二領域に集中するとは、第二領域に主体的に緊急性を作り出すこと
結局のところ第二領域を実行する力とはなんなのでしょうか?それは決して「緊急ではないことでも時間を確保して実行できる意志力」という類のものではないってことです。
私の今の結論はこうです。第二領域を実行する力とは「第二領域を第一領域に変換する力である」。つまり主体的に緊急性を作り出す力のことであり、緊急でもないことをやる力ではないということです。
ここでいう緊急性には大きく2種類あります。1つ目は恐怖や焦り、渇望などの内的な緊急性です。「最近できてないからさすがにそろそろやらないと…!」。なんとなく第二領域を実行したほうが良さそうだと考えているうちはこのような内的な緊急性に頼りがちになります。
そこで2つ目の緊急性となるのが、期限や約束ごと、金銭の授受や契約など外的な緊急性です。対外的な責任を作り出すことで、自分以外の人を巻き込みながら緊急性を作り出すことです。
当然、2つ目の外的な緊急性の方が緊急の度合いが高まります。「あまり手をつけられていないからそろそろやらないとな…」といった焦りよりは、「明日は取引先への提出期限だから間に合わせないと…」といった約束事の方が自分を動かす力は強いでしょう。前者であれば容易に「明日でいっか」と先送りできてしまいます。ただし、外的な緊急性を作ることにはどんな小さなことであれある程度の勇気が必要になります。
つまり第二領域を実行する力が強い人、第二領域を日々淡々と続けられる人というのは、緊急性のないことに主体的に外的な緊急性を作り出せる勇気を持った人ということでしょう。もし第二領域にもっと時間を費やしたいと考えているなら、この能力を開発する必要があります。
▼ちなみに、今週土曜日開催の「タスク管理マニア」ではこのあたりの第二領域とタスク管理をどう組み合わせていくかについて、より具体的かつ実践的な方法を取り上げます。ご興味あればいらして下さい。
貴下の従順なる下僕 松崎より