電子書籍より紙の本で読書した方が知識は定着しやすい!電子書籍と紙の本の使い分けについて

私の愛しいアップルパイへ

なんとなくそうなんだろうなと感じてたことについて、論理的かつ明快に答えを出してもらえると、朝のバルコニーで太陽をいっぱい吸い込んだときみたいにスッキリした気分になりますよね。

最近このような爽快感を覚えたのは、電子書籍より紙の本で読書した方が知識は定着しやすい理由を解明してくれた一冊「続・インターフェースデザインの心理学」です。

本書はWebサービスやWebメディアに対して人々は無意識でどのように反応し、サービス提供側は今後それらにどう取り組んでいくかを分かりやすくまとめてくれている素晴らしい一冊です。さすがはオライリー!

本書の一部で、電子書籍と紙の本との読書体験の違いと記憶方法の違いがまとめられているのですが、これが素晴らしかったので紹介します。

電子書籍と紙の本との読書体験の違い

電子書籍と紙の本で書いてある内容がまったく同じであったとしても、読書体験はまったく異なるものになります。これは安易に電子書籍を手に取るときに見落としがちなところです。紙の本を読む行為のなかで重要なのは多感覚な体験です。

人は紙の本の内容を思い出すとき、紙の手触りや匂い、ページをめくる音、ページの厚みなど触覚、嗅覚、視覚、聴覚といった多感覚を使って思い出します。このようなナビゲーションのやり方は紙の本ならではの機能です。詳しく説明していきましょう。

人は重量の重い物の方が重要だと感じる傾向があります。ですから、ページ数の多い本など重量のある本は重要性が高いと認識し、熟読しようとします。

それ以外にも、本は一冊一冊で紙の手触りが大きく違います。紙の匂いも違います。ページをめくるときにはそれぞれ違った音がなります。残りのページ数などは厚みを感じながら読み進めます

これらの読書体験は本一冊一冊でまったく異なるものになります。そして、そのまったく異なる読書体験と本の内容がリンクし合いながら知識に定着するのです。本の内容を思い出すというより、本という物体とともに思い出すのです。

ある本のある一節を探そうとして、棚から目的の本を取り出して目的のページを即座に正確に言い当てることができるのはこのおかげなのです。

電子書籍より紙の本で読書した方が知識は定着しやすい

一方で電子書籍はすべての本が同じ重さです。もちろん肌触りも匂いもページをめくる音も、厚みも同じです。紙の本と比べると、本ごとに読書体験があまりに似通っているのです。

ノルウェーの研究者であるアン・マンゲンによる研究によれば、高校1年生を2つのグループに分け、それぞれ紙の教科書とPDFファイルの教科書を使ってもらったところ、PDFファイルの教科書を使ったグループの方がテストの結果が悪かったという研究結果もあります。紙の本を使った生徒は文章を見返す際、紙のページを素早くめくり、目的の情報を簡単に見つけ出していたそうです。

そのため五感とともに内容を記憶する紙の本と比べて、電子書籍では記憶の定着が悪くなります

本書の調査によれば、人はオンラインでは記事の6割しか読んでいないことを指摘しています。知識の定着を考えれば、デジタル環境での読書はむしろ非効率なのです。現時点では。

電子書籍を選ぶ価値と、今後デジタルメディアに求められること

とはいえ、電子書籍やWebメディアを選択する意味がないわけでは当然ないでしょう。

やはり持ち歩きの便利さや、読むハードルの低さなどは電子書籍などのデジタルメディアの方が優れています。

ですから、読もう読もうと思ってなかなか手がつかない長編や、ざっと読んで概要を把握できればいい本などはデジタルメディアを積極的に採用した方がいいでしょう。

また、すでに身につけた知識で、必要に応じて参照したい情報や折に触れて必要なる情報などはやはり電子書籍などのデジタルメディアとして保有しておいた方が利便性が高いです。

また、別の切り口として、デジタルメディアを紙の本と同じくらい知識が定着できるものに仕上げる方法も模索されています。

デジタルメディアでは紙の質感やめくる動作などで多感覚を使わせることはできませんが、一方でテキストだけでなく音声やアニメーションやプログラムや動画などのマルチメディアを組み合わせやすい強みがあります。

現在はAmazon EchoやGoogle Homeなど音声によるインターフェースも注目されているように、紙の本では使えないテクノロジーを導入することで、紙の本以上に記憶に定着するメディアを作れるようになるかもしれません。この辺りは作り手側の努力次第でいくらでも伸びしろのあるところです。

こう考えていくと、便利だからといって必ずしも電子書籍を選択したほうが良いわけではなく、目的によっては紙の本を選択したほうがずっと効果的な場合もあります。

用途に応じてそれらを使いこなせば、もっと読書の質を上げていけるでしょう。

ちなみに「続・インターフェースデザインの心理学」では、情報の理解の仕方や創造性を発揮する方法、人の決断のプロセスやテクノロジーとの付き合い方など、幅広い分野でハッとする視点をもたらしてくれます。先入観の数々が誤っていたことが分かって楽しいですし、さすがオライリーだけあって視点が鋭く内容も濃いです。オススメです。

貴下の従順なる下僕 松崎より

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システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。