【ネタバレ】1984のビッグ・ブラザーとイングソックはその後どうなったのか?支配は永久に続いたのか?の回答

私の愛しいアップルパイへ

大きな栗の木の下あなたとわたし仲良くジョージ・オーウェルの「1984」について語ったことは、今でもよく覚えています。

この全体主義国家に対する痛烈な批判を込めた一冊は、ヘヴィー級ボクサーの右フックのように我々の脳天に強烈に突き刺さりました。

本書を読んでまず最初に思いを馳せるのは、ビッグ・ブラザーとその党が目論む永久支配は本当に実現されたのかどうか?ではないでしょうか?

今日はこの質問に対する回答をご用意してきました。もちろん壮大なネタバレになりますから、未読の場合にはこの先を読むべきか否か、よく考えてから読まれることをお勧めします。後になって私を二分間憎悪の対象にされたって困りますから。

「1984」のビッグ・ブラザーとイングソックはその後どうなったのか?支配は永久に続いたのか?

七面倒くさい説明を省いて端的に結論から申し上げましょう。

ビッグ・ブラザーとその党による支配は本書の舞台となった1984年からそう遠くない未来、なんらかの要因で崩壊したようです。

その原因は不明です。本当にプロールによる革命が起きたのか?本当にブラザー同盟が存在していて、革命を成功させたのか?はたまたユーラシアかイースタシアに敗北したのか?上位2%とされる党中枢の権力者が裏切ったのか?

理由はいくつか考えられますが、絶対的に見えたビッグ・ブラザーは儚くも消え去ったようです。おっと、これは私の妄想ってわけではありませんよ。

鍵は巻末に収録されている付録「ニュースピークの諸原理」にあります。この付録はビッグ・ブラザーとその党による支配体制における中核となる取り組みであった新言語「ニュースピーク」について、仕組みと構造を解説した付録です。

▼ちなみに、日本語の全文がクリエイティブ・コモンズ・ライセンス下で公開されています。

巻末にあるこの付録、標準英語かつ過去形で書かれているのです。つまり、この付録は、1984年の物語の世界における未来のある時点で書かれた作者不詳の解説文という設定であると考えられます。

例えば、冒頭には以下のような記載があります。

最終的には二〇五〇年ごろにニュースピークがオールドスピーク(つまりは標準英語)に取って代わることが予測されていた。

また、このような言い回しで書かれた記述もあります。

オールドスピークがいまだ通常のコミュニケーション手段であった一九八四年においてはニュースピークの単語の使用時に元の意味を思い出すという危険性が理論的には存在した。しかし実際にはDOUBLETHINK(二重思考)を習得した者であればそんな事態を避けることは容易であり、二、三世代の内にはその可能性さえも消えてしまっただろう。

これは二、三世代も経たないうちに、少なくとも1984年〜2050年の間にはビッグ・ブラザーやイングソックによる体制が崩壊したことを示唆しています。ウィンストン・スミスまだ存命していた可能性も十分にある時期です。

また、この未来の著者が、ビッグ・ブラザーやイングソックが徹底して排除するよう尽くしていた標準英語を用いて書かれていることを考えれば、彼らに極めて反抗的な態度を持った体制によって取って代わられたと考えるのが妥当でしょう。

これが1984のビッグ・ブラザーとイングソックはその後どうなったのか?支配は永久に続いたのか?に対する回答です。

当初ジョージ・オーウェルは出版社からこの付録を削るように要請を受けて、断固拒否したというエピソードもあります。付録も本編の一部になっているのであり、ある種のエピローグとして機能しているのですから。この辺りの抜け目なさも1984の魅力の1つでしょう。

ちなみに、この構成は本書と似たテーマを扱ったホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編小説「Tlön, Uqbar, Orbis Tertius」(1940)に影響を受けたという説もあるそうです(本編の付録によって物語のさらに先の結末が示唆される形式)。

貴下の従順なる下僕 松崎より

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システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。