退屈な苦悩という厄介な現代病について

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私の愛しいアップルパイへ

人間の人生は、だからまるで振子のように、苦悩と退屈の間を往ったり来たりして揺れている。

「意志と表象としての世界」 第四巻 第五十七節

かのドイツの哲人ショーペンハウアーは世界を照らすその鋭い視点によって、人生とは「苦悩と退屈の振子」であると説きました。

しかし、私にすれば、これはまったく受け入れがたい主張でした。私の人生はまったく「苦悩と退屈の振子」と表現しがたい別のなにかだったからです。

小さいころの夢と現実的な就職について

私が音楽家になりたいと思ったのは小学生のころでした。他人の顔色にビクついて窮屈な生活にうんざりしていた私にとって、自分自身を自在に表現するロックスターは憧れであり救いでした。

それから、小学校を卒業して、中学校を卒業して、私のこの夢はどうなっていったでしょうか。私は自分の夢を口に出すことを控えるようになりました。大それた夢を馬鹿にされることも、特殊な道に進んで大失敗することもゴメンだったからです。

私は自分自身を押し殺し、大きな流れに飲み込まれるように学生時代を過ごしました。まるで自分以外の誰かのコピーにでもされているような気がしましたが、そのように勉強して進学していった結果を多くの人が褒めてくれたので、深くは考えないようにしました。

結局、私はシステム系の専門学校を卒業した後に、社員を数千人抱えるシステム会社へシステムエンジニアとして就職しました。音楽以外ではITだけが父親より詳しいと思えたからという程度の理由です。それがいまから10年ほど前のことで、20歳のときでした。

私は機械的に履歴書の欄を埋め、よく知りもしない会社の志望動機をウンウンと捻り出し、ボロを出さないようにビクつきながら面接をくぐり抜けて、どうにか第一志望の会社に就職できました。私はこれが幸せなのだろうと信じて疑いませんでした。

仕事は概ね順調でした。専門学校で資格勉強に励んだこともあり、システムの設計や開発にはすんなり入れて、順調に腕を磨いていきました。

ときにはたった2~3人のチームを組んで数千人が使うシステムを構築することもあれば、億を超える予算の大規模プロジェクトに参入することもあれば、最先端技術の調査と研究をレポートにまとめることもあれば、大手企業のプロジェクトをマネジメントすることもありました。

仕事は忙しく、プロジェクトが架橋に入ったときには朝6時前に家を出て終電で帰る日が続くことも珍しくありませんでした。それでも友人や同級生でそのくらい働いている人は珍しくなかったため、当たり前のことだと思っていました。

働いてからも細々と続けていたバンド活動は、メンバーが一人また一人と社会人になるに連れてペースダウンし、私が社会人3年目になったころについに解散しました。私は仕事のキャリアが積みがっていくことに反して、自分が少しずつ少しずつ小さくなっていくような気がしました。

会社でまだ若手だった私は、日々の仕事をこなすことにヒィヒィ言いながらも、いつも頭のどこかでは空虚さを感じていました。まだ本当に生きていないような、なにか大きなことが起こることを待っているような、自分の人生はまだ本番ではないと言い聞かせているような、いつもそんな気分でした。

退屈な苦悩という現代病

ショーペンハウアーはまったく優れた人間であり偉大なる哲人ですが、それでも人間ですから間違いってのはつきものです。

彼は人生を苦悩と退屈が交互にくる「苦悩と退屈の振子」と説きましたが、私にはそれとはまったく違う、もう一つの状態が見えます。

それは苦悩と退屈が同時にくる「退屈な苦悩」という状態です。私のサラリーマン生活がそうであったように。

苦悩と退屈が交互に来ているうちはまだ幸福です。それよりもっと恐ろしいのがこの苦悩と退屈が同時にくる状態なのです。

日々やることが無数にあり、人間関係的にも地位的にも金銭的にも表面的な満足は得られている。しかし、いつも心の奥底では人生の劇的な変化を渇望していて、時とともに自分が錆び付いていっているような気がするのです。なにかを変えなければと思いながらも、どう変えればいいかも分からず、せめて目の前の仕事に没頭することで虚しさから逃避しようとしているのです。

決して振子が触れることのないこの「退屈な苦悩」は、私だけの問題ではなく、私たちがいま直面している実に厄介な現代病だと確信しています。いま私たちが陥っているのは、物や経済といった”表面的”なだけの豊かさを得た特殊な環境における、差し迫った問題なのです。

この現代病とどう向き合い、治癒していくのかが我が愛すべきブログと我がソングにおける中心テーマでもあります。

さぁさぁ!気むずかしい紳士の皆さま! すれっからしの淑女の皆さま!わんぱく坊主に不良娘たち!
目を凝らしてよく見てみなされ!ここにゃあ我らの大好物が!

(どーどー Hank!どーどーHank!そいつぁ無粋だい!)
(どーどー Hank!どーどーHank!そいつぁハハーッ!)

硝子細工のごとき配慮!賞賛!お涙ちょうだいの努力と絆!薄っぺらな衝動と情熱!
譲り合いと自己犠牲のビッグビシネス!例えるなら

まるでダイエットコーク
まるでダイエットコーク
まるでダイエットコーク

(どーどー Hank!どーどーHank!そいつぁ無粋だい!)
(どーどー Hank!どーどーHank!そいつぁハハーッ!)

もうゲップが出るくらい満腹!親切のためにゃあ自分をも殺せる見上げた根性!
右も左も肥えた畜群のホームパーティー!そう、例えるなら

まるでダイエットコーク
まるでダイエットコーク
まるでダイエットコーク
ダダーンッ!

「おおっと、失礼!お嬢さんに涙の出るような甘いメロディーでもお届けなすって」

ここじゃあ赤は青く、黒は白に染まりやがる!あめ玉もらったって気を許しちゃいけねぇ!
あゝ、この愛すべき一大茶番劇にいったいいかほどの価値を見出そうってんだぁ?

まるでダイエットコーク
まるでダイエットコーク
まるでダイエットコーク
まるでダイエットコーク

強盗が強盗をするように!売春婦が売春をするように!乞食が乞食をするように!自分殺しは自分殺しを!
強盗が強盗をするように!売春婦が売春をするように!乞食が乞食をするように!自分殺しは自分殺しを!

貴下の従順なる下僕 松崎より

著者画像

システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。