PTSDではなくPTGを獲得する〜ショッキングな出来事のあとに以前より強く、幸福になる〜

私の愛しいアップルパイへ

先日記した悲劇をはじめ、人生ってやつは、かの非情なる人生ってやつは、死にたいと思えるほどのショッキングな出来事が幾度となく襲ってくるものらしいです。

私は傲慢で貪欲な人間ですから、問題が発生したときにはただ回復するだけでは満足できません。問題が発生する以前よりもっと優れた自分になっていないと気が済まない質です。そのためには状況をじっくりと噛み締めなければならず、ゆえに回復が遅れることすらあるのですが(まさに今がそうなのですが)それでも構わないと思っています。

この私の信念とともによく思い出すのはジェイン・マクゴニガル氏の「スーパーベターになろう!」という本に書かれていた「PTG」という症状でした。我が身に非情なる運命が舞い降りてきたときには必ず思い返すようにしています。

ただ回復するのではなく、以前より強く幸福に!

「スーパーベターになろう!」のジェイン・マクゴニガル氏の物語を簡単にご紹介しましょう。

彼女はある日、頭を打って脳震盪を起こしたそうです。脳震盪後症候群の回復は遅く、1ヶ月が経ってもひどい頭痛や吐き気、めまいに悩まされ、読み書きもままならない状態が続いたそうです。研究職としては致命的な症状です。

「考えることができないなら、わたしは一体何者なのか?」と思うとすべてが嫌になり、さらには日常的に自殺願望に悩まされるようになります。医師の診断にはこう返したそうです。

回復を早めるためにできることがひとつある、と医師は言った。症状を引き起こすような物事はいっさい避けること。読み書きも駄目、ランニングも駄目、ビデオゲームも仕事もゲームも、アルコールもカフェインも駄目。わたしはジョークを返した。

「じゃあ、生きていても仕方ないってことですね」

このジョークには多分に真理が含まれていた。

「スーパーベターになろう!」 はじめに

しかし、その後彼女は勇敢にもこの症状と真っ向から戦うことにしたのです。症状は一年以上続いて人生で一番つらい時期となりましたが、それ自体をゲームと捉えることで自分の運命の手綱を話さないようにしたのです。

本のタイトルにもなった「スーパーベター」について、彼女はこう解説します。

なぜスーパーベターなのか?脳震盪からの回復期間中、誰もが口をそろえて「すぐによくなるよ」と言った。でもわたしはただよくなって、これまでどおりの生活に戻るのは嫌だった。”すごくいい(スーパーベター)”になりたかった。怪我のまえよりずっと幸せで、ずっと健康な人間になりたかったのだ。

「スーパーベターになろう!」 はじめに

ショッキングな出来事が資質を開花させて幸福を運んでくれる“心的外傷後の成長(PTG)”

結果、彼女は苦痛の中においても幸福を感じられるようになり、一年以上続いた症状を克服したときにはその言葉通り「スーパーベター」になっていました。

このような状況を彼女は心的外傷後の成長 (PTG)と名付けられた症状によって説明します。よく似た言葉に心的外傷後ストレス障害(PTSD)がありますが、PTGはそれと似て非なるものです。

PTSDはショッキングな出来事によって不安や憂鬱が付きまとう症状ですが、PTGは逆に非常に困難な試練に挑むことで、最高の資質を開花させ、より幸せな生活が送れるようになることです。つまり、ショッキングな出来事を経て憂鬱になる人もいれば、幸福になる人もいるということになります。

「スーパーベターになろう!」ではPTGを経験した人が口にする代表的な五つの言葉が紹介されています。

1.優先順位が変わった。幸福になるために行動することを恐れなくなった。

2.友人や家族を身近に感じるようになった。

3.自分をもっと理解できるようになった。自分が何者なのかわかった。

4.人生に新しい意義と目的を見出した。

5.目標と夢に集中できるようになった。

「スーパーベターになろう!」 はじめに

本書でも言及されていますが、このPTGの5つの特徴とは人生の最期を迎える患者たちの多くが死ぬ直前に嘆く後悔と本質的に正反対なのです。つまり「働き過ぎたこと」「友人を大切にしなかったこと」「幸せを追求しなかったこと」「勇気を出して自分を表現しなかったこと」「夢を追わなかったこと」。人生に絶望をもたらすショッキングな出来事は、同時に人生を一生の後悔から救ってくれる糧にもなり得るのです。

手に負えない問題やショッキングな出来事が一切自分の人生に舞い降りないようにするのは難しいでしょう。しかし、手に負えない問題やショッキングな出来事によって、不安や憂鬱の泥沼で窒息死するのか、人生を変えるほどの成長を獲得するのか、それは自分の選択によって変えられるということです。

彼女は言います。

ある研究では、PTSDが最終的にはPTGにつながることが示されている。おそらく、人生を変えるほどの成長をするには、非常に困難な状況に対して真剣に、継続的に取り組む必要があるからなのだろう。あっさりと立ち直れるようでは成長のチャンスを逃してしまう。

極めて困難な試練というものは、正しいやり方でそれに望みさえすれば、夢を追求し、後悔とは無縁の人生を送るための能力を開花させてくれる。

「スーパーベターになろう!」 はじめに

この考え方を知っているだけでも、不安や憂鬱、虚無や絶望の渦中にあるときに、そうするだけの価値があることを教えてくれると同時に救いをもたらしてくれるでしょう。

▼ゲームに対する素晴らしい効果を知りたいときは、こちらの動画にまとめましたので、ぜひご覧ください。

貴下の従順なる下僕 松崎より

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システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。