私の愛しいアップルパイへ
私が2012年9月に会社を辞めてフリーランスとして独立したことは、あなたもご存知の通りです。これは私の中ではとびきり大きな決断の1つで、大きな期待と不安に飲み込まれて金魚みたいに口をパクパクしていたものです。
会社の退社日が近づいたある日、ある人にこう言われました。
「うまくいかないでしょ。だって見切り発車じゃないか」って。
私はいつもの意味深な含み笑いを返すことだけで精一杯で、何も言い返せませんでした。当時は確かにうまくいく確証もありませんでしたし、この言葉を聞いて、自分がなにか大きな失敗をしでかしてしまったのではないかと随分と弱気になりました。勝ち目のない戦いを挑んでしまったんじゃないかって、ひどく弱気になったことを今でも思い出します。
見切り発車でいいじゃないか
結局、紆余曲折あったもののいま振り返ってみると当時自分が考えていたよりもずっと順調に仕事は軌道に乗りました。最初こそ以下のようにうまくいかない部分もありましたが、それはたったの半年の出来事でした。
私はいつも思うのですが、現実的にいつまでに何が実現できるか計算するために鉛筆を舐めて計画ばかりしているような人生のなにが面白いというのでしょうか。未来が分かってしまうことほどの退屈を私は知りません。
本当に面白いのは、何が起こるか分からないことのために命を燃やしているときなのです。見切り発車こそ、人生の醍醐味というものでしょう。それによって起こる良いことと悪いことを極上のワインのように楽しむのが乙ってものでしょう。
私たちは長らく計画信奉者として育つように調教されてきたので、計画のない見切り発車には根拠のない嫌悪感を抱きがちなのです。しかし、整然とした計画というものは予想以上に使い物にならないだけでなく、計画信奉者ほど視野が狭くなりがちで、「どうせうまくいかないから」と行動しない現実逃避の中で燻り続ける傾向があるのは賢いあなたならもうお分かりでしょう。
当時の私は「見切り発車じゃないか」と皮肉を言われて落ち込みましたが、あれは結果から言っても、落ち込むようなことではありませんでした。むしろ歓迎すべきことだったのです。ゴルディアスの結び目を断ち切ったアレクサンドロス大王の如く、賞賛されたって良いくらいです。
あなたがもし“見切り発車“をしようってんなら、私は心の底から賛辞を送ります。見切り発車でいいじゃないですか。見切り発車だからいいんですよ。
貴下の従順なる下僕 松崎より