私の愛しいアップルパイへ
過去にフォーカスすべきか?未来にフォーカスすべきか?それとも現在にフォーカスすべきか?
これは我々のような聡明なる人間にとって差し迫った深遠なる問題として目の前に横たわっています。この答えの出ない悩みを前にしてどこからか現れた蟻がいつの間にか胸を這っていた時のように、胸を搔きむしりたくなるような日々もあったでしょう。
過去を見つめ直す必要性はあちらこちらで説かれていますが、未来の希望に向かって突進する人生はいつでも肯定されます。しかしその上でなお「いまここ」に集中することこそが重要なのだと説く人も後を絶えません。
一体何を信じればいいのか?
この問題に素晴らしい光明を与えてくれたTED講演があります。アメリカ合衆国の心理学者であり、スタンフォード大学の名誉教授であるフィリップ・ジンバルド博士による「時間と健全に向き合う処方箋」という講演です。
たった6分ほどの講演の中でジンバルド博士はまさにこの問題に切り込み、このジレンマを解決する処方箋を提供してくれています。
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過去にフォーカスすべきか?未来にフォーカスすべきか?それとも現在にフォーカスすべきか?
フィリップ・ジンバルド博士は人が自分の経験を過去・現在・未来の時間の枠に切り分けて収めようとする自動的・無意識的な能力のことをTIME PERSPECTIVE(時間的展望)と呼びます。
その「時間的展望」能力の働き方は人によって違い、文化や国民性、個人差や社会階層の差や教育レベルの差によって違いが生まれます。人は自身の時間的展望に基づいて意思決定をして行動を決めるとジンバルド博士は言います。
時間的展望は大きく3つに別れます。
- 1.過去志向:昔こういうことを経験した時は、どんな状態だったかを重視する
- 2.現在志向:今この瞬間、他人が何をしているか、自分がどう感じているかを重視する
- 3.未来志向:予想される結果(例えば費用対効果分析)を重視する
この時間的展望は我々の全ての決断に影響します。どれが良いということではなく、問題は人がこの時間的展望のうちの一部の能力を使いすぎたり使いすぎなったりして、思考や行動に偏向性をもたらすことです。それも全くの無意識に。
時間的展望にはそれぞれ違った良い面と悪い面があります。ですから無意識化でどの時間的展望に偏向しているかが、得られる結果を大きく左右してしまうわけです。スケアリー!
ジンバルド博士はこの3つの時間的展望をそれぞれ2つずつに細分化して計6つに分類します。
- 1.過去志向
- 1a.ポジティブ・フォーカス型:過去の良い面にフォーカス
- 1b.ネガティブ・フォーカス型:過去の悪い面にフォーカス
- 2.現在志向
- 2a.快楽型:人生の喜びに集中する
- 2b.運命論型:あらゆる出来事はあらかじめそうなると宿命的に決められていると考える
- 3.未来志向
- 3a.ライフ・ゴール型:人生の目標を志向する
- 3b.超自然型:死後に始まる超自然的な世界を志向する
重要なのはどの時間的展望に偏向するかではなく、状況に応じてこの時間的展望をシフトしていく精神的な柔軟さを習得することです。つまり時間的展望にバランスを取るのです。
どのようなバランスを目指せばいいのでしょうか?適切な時間的展望のバランスは以下の通りです。
- 優先度:高
- 1a.ポジティブ・フォーカス型
- 優先度:やや高
- 3a.ライフ・ゴール型
- 3b.超自然型
- 優先度:中
- 2a.快楽型
- 優先度:低
- 1b.ネガティブ・フォーカス型
- 2b.運命論型
この適切な時間的展望のバランスを習得することによって、1.過去志向、2.現在志向、3.未来志向の3つから以下のような素晴らしい恩恵を得られます。
- 1.過去志向:自らのルーツ、つまり家族やアイデンティティ、自分自身との繋がり
- 2.現在志向:自分自身、場所、人々、官能を探索するエネルギー
- 3.未来志向:新しい目的地や挑戦へと飛び乗る「翼」を得る
逆に、時間的展望のいかなる行き過ぎも悪い方向に働くので注意が必要です。例えば大抵の場合に良い結果をもたらすとされている未来志向でも例外ではありません。
例えば未来志向への偏向は、家族と友人との時間、楽しみや道楽の時間、趣味や睡眠、つまり健康が犠牲となり、仕事と達成と支配のために生きることになります。しかも未来志向は大抵の教育において望ましいこととされているので注意が必要です。
ジンバルド博士によればバランスのとれた時間的展望を習得することは世界の様々な問題を解決することに繋がると言います。学校のドロップアウト、薬物依存やPTSDの治療、環境の持続可能性と自然保護、身体リハビリテーション、テロリズムや家族との衝突に至るまで。
過去と現在と未来のいずれにも偏ることなき人生を
過去にフォーカスすべきか?未来にフォーカスすべきか?それとも現在にフォーカスすべきか?
過去を受け入れることが最善なのか?目的に向かって突進するのが最善なのか?イマココに集中することが最善なのか?
フィリップ・ジンバルド博士は過去と現在と未来のいずれにも過度に偏ることなく、それぞれの美味しい部分をバランスよく扱う方法を教えてくれました。
私は未来に偏りがちな性分なので、ジンバルド博士による6つの分類とそれぞれの扱い方は大変参考になりました。こういった指針があると自分の状態をチェックするときに重宝するので助かります。
▼なお、フィリップ・ジンバルド博士のTEDの講演としてはこちらもオススメなので、併せてどうぞ。
スタンフォード監獄実験の最高責任者フィリップ・ジンバルド氏によるTED講演がよかった!人はいかにして怪物や英雄になるのか?
貴下の従順なる下僕 松崎より