私の愛しいアップルパイへ
時間!ピンク・フロイドを聴くまでもなく、時間は我々が持つうちで最も価値あるものの1つです。
そんな時間の価値を無闇に浪費したりしないように、私が大橋悦夫さんの考案されたタスクシュート時間術を実践していることはあなたもご存知の通りです。
今日はいつもとは少し違う観点でタスクシュート時間術について取り上げてみましょう。それは「ストックデールの逆説」という考え方に基づいたタスクシュート時間術の考察です。
これによってタスクシュート時間術が一見すると堅苦しいように見えつつも、生活に素晴らしく前向きな活力を生み出してくれると分かります。
ストックデールの逆説とは?
「ストックデールの逆説」とは、ジム・コリンズ氏の名著「ビジョナリー・カンパニー 2」で説いた偉大な企業に共通する原則「最後にはかならず勝つという確信を持ちながら、同時に自分がおかれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視すること」をいいます。本書にはこう書かれています。
ストックデ ールの逆説
どれほどの困難にぶつかっても、最後にはかならず勝つという確信を失ってはならない。
そして同時に
それがどんなものであれ、自分がおかれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視しなければならない。
「ビジョナリー・カンパニー 2 – 飛躍の法則」 第四章 最後には必ず勝つ by ジム・コリンズ
ジム・コリンズ氏によれば、凡庸から偉大へと飛躍した企業はみな共通してこの原則に基づいて活動していたと言います。大切なのは理想と現実の二面性を持つことです。成功を確信しながら、同時にそれを実現するのが極めて困難であると示す現実に目を向けるのです。
「ビジョナリー・カンパニー 2」は企業の経営哲学について説いた本ですが、個人の生き方についても大きなヒントになる内容が散りばめられています。そもそもこのストックデールの逆説も、元々は個人の行動指針から生まれたものなのです。
この逆説となったストックデール将軍の物語についても話しておきましょう。最高位のアメリカ軍人だった彼は、ベトナム戦争の最盛期であった1965年から1973年まで実に8年もの間「ハノイ・ヒルトン」と呼ばれる捕虜収容所に収容されていました。
彼は数十回の拷問を受け、捕虜の権利は蔑ろにされ、釈放の目処も立っていませんでした。8年間の地獄のような経験を経て彼が見付け出したのが上述した逆説だったのです。
彼はいつ殺されてもおかしくない先の見えない捕虜生活の中でも、最後には必ず勝利を収めて今の経験をかけがえのない人生の一部にすると確信していたといいます。
一方で、このような残忍な捕虜生活に耐えられずに死んでいった兵士の共通点について聞かれた彼はこう答えたといいます。
「楽観主義者だ。そう、クリスマスまでには出られると考える人たちだ。クリスマスが近づき、終わる。そうすると、復活祭までには出られると考える。そして復活祭が近づき、終わる。つぎは感謝祭、そしてつぎはまたクリスマス。失望が重なって死んでいく
「ビジョナリー・カンパニー 2 – 飛躍の法則」 第四章 最後には必ず勝つ by ジム・コリンズ
1942年から1945年にかけてアウシュビッツを含む数カ所の強制収容所に収容されたヴィクトール・フランクル氏の綴った壮絶な体験記「夜と霧」にも共通することが書いてありました。
大量死の原因は、多くの被収容者が、クリスマスには家に帰れるという、ありきたりの素朴な希望にすがっていたことに求められる、というのだ。クリスマスの季節が近づいても、収容所の新聞はいっこうに元気の出るような記事を載せないので、被収容者たちは一般的な落胆と失望にうちひしがれたのであり、それが抵抗力におよぼす危険な作用が、この時期の大量死となってあらわれたのだ。
「夜と霧」 第二段階 収容所生活 by ヴィクトール・E・フランクル
楽観的な希望は変えて人を絶望に陥れ、生きる気力を無くしてしまうのです。そう考えると、身近な例では毎年「今年こそは…!」と意気揚々と楽観的な目標を立てることは、返って絶望と失望を積み重ねるに至り、生きる気力を奪いかねないとも言えるでしょう。
一見堅苦しそうなタスクシュート時間術が日常に並々ならぬ活力を生む理由
まさしく私はクリスマスに出られると安易な楽観主義にすがるタイプの人間でした。毎年1月には「今年ことは決定的な一年にしてやる…!」と意気込み、大げさな目標を2〜3つ立てては玉砕する経験を何年も、いえ生まれてからずっと繰り返してきました。
その度に失望を繰り返した私はもはや自分自身を信じられなくなり、生きる希望を無くしかけてしました。その頃に出会ったのがシゴタノ!の大橋悦夫さんが考案され、佐々木正悟「タスクシュート時間術」でした。
私は夢を安易に放り投げてきた人生を悔やみ、小学生時代からの夢であった音楽家になる夢を本気で実現すると決意しました。つまり最後には必ず勝つという決意を新たにしたのです。
その上で最初に始めたのはタスクシュート時間術を実践することであり、なかでも今のサラリーマン生活の中で夢に貢献する時間がどれだけ捻出できているのかをありのまま記録することでした。振り返ってみれば、これは私のささやかな人生の中でもっとも賢い選択の1つでした。
▼タスクシュート時間術を実践すると以下のように時系列で行動を記録でき、かつその分類を円グラフなどで分析することができます。
結果、私が夢に貢献する時間として使えていたのは5%に満たない数字だったのです。これは週に10時間に満たない数字でした。率直にいって落胆しました。夢を実現すると拳を振り上げたのに、実際には95%はそれに無関係なことに時間を使っていたのですから。
当時、私は最後には必ず勝つという確信を持ってはいましたが、一方でそのために使える時間は現状5%程度であり、週に10時間も無いのだという厳しい現実と向き合うことになりました。
これは私を萎縮させたのではないか?尻尾を巻いて逃げ出そうとしたんじゃないか?と思いましたか?いいえ、実際は逆でした。現実は極めて厳しいと直視できたことになって、より具体的な打開策を探し始めました。たとえ厳しくとも必ず突破口はあるはずだと、片っ端から実験を始めました。現実を直視することは私を萎縮させるどころか、私に素晴らしい活力を与えてくれたのです。これは一見すると矛盾するように感じられます。まさに逆説です。
結果、私は半年で5%を28%まで向上させることができ、しかもその夢に投資した時間の結果が出てサラリーマンを辞めて独立することができました。これによって、さらに自分の夢に向けて重要なことに時間を割けられるようになり、結果もついてくるようになったのです。
私は私の目の前に立ちふさがるかの非情なる現実を突破するために、大声で叫んだり飲み会で体言を吐いたり愛する家族の名前のタトゥーを身体中に入れる必要もありませんでした。もっとも厳しい現実を直視することこそが、私を奮い立たせ、現実的な行動へと駆り立てたのです。
タスクシュート時間術は一見すれば堅苦しそうに見え、人を萎縮させたり時間に追われる焦燥感を掻き立てたりするように勘違いされがちです。私からすればその印象は真逆です。タスクシュートほど人生に「やってやるぞ…!」と活力を生んでくれたメソッドは他にありませんでした。
厳しい現実を直視するからこそ長期的に生産性が高まる
多くの人がモチベーションを高める方法を探し求め、自分や人を奮い立たせるにはどうすればいいかについて悩んでいます。自分を奮い立たせるために大言を吐いてみたり、特別な儀式に時間を割いたり、高額のセミナーに参加したりもする人も多いのでしょう。
ストックデールの逆説によれば、それはあまり効果がないどころか、逆効果になりかねません。この説によれば、勝利を勝ち取るために必要なのは無理矢理に自分を奮い立たせることではなく、目の前の厳しい現実を直視することなのです。そして、目の前の厳しい現実を直視すると、自然と「やってやろう…!」と奮い立つものなのです。そして輪をかけて大切なのは、現実の直視から生まれた活力は楽観視から生まれたそれよりもずっと長く続くということです。
タスクシュート時間術を実践すると当たり前のことしか起こらないのだという当たり前のことをあらためて自覚できます。これは安易な楽観主義に陥ることなく、厳しい現実を見つめることで底力を発揮する「ストックデールの逆説」に基づいて生きることを可能とします。それは人生に対して消えることなき情熱を生み出します。
タスクシュート時間術によるストックデールの逆説の確立は、「今年こそは!」と意気込んだり、「やってやるぞ!」と奮い立たせたりするより、ずっと強力なモチベーションを作ってくれるでしょう。
おっと、時間は過ぎ、この記事ももう終わりです。言いたいことはもっとあるのですけど。
貴下の従順なる下僕 松崎より