私の愛しいアップルパイへ
私がPKMの分野、特にノート術においてZettelkastenを採用していることはあなたもご存知の通りです。今日はZettelkastenの実装におけるマニアックなお話をします。
以前の連載の中では構造ノートを使って階層分けに依存しない形でノートを整理し、文脈を与え、構造化し、”注文”する方法を書いてきました。
実はZettelkastenについて、これまであえて触れてこなかった要素が一つあります。それは、ノートへのユニークIDの付与と並び順の付与です。
Zettelkastenにおいては構造ノートとは別にユニークIDによってカードの並び順を表現するFolgezettelという手法が存在します。というより、Zettelkastenを考案したNiklas Luhmann(ニクラス・ルーマン)はこの方式を採用してノートを管理していました。
つまり、Zettelkastenにおけるノートの構造化についてはFolgezettelとStructure Zettelという2つの大きな手法があるわけです。Folgezettelはノートシーケンスによって文脈を作り出し、Structure Zettelは構造ノートを作ることで文脈を作り出します。
この2つの手法についてはダイハードなZettelkasten実践者の中でも多くの議論があります。1
私自身、Zettelkastenの実装にあたって最初に悩んだのはIDとシーケンスの必要性についてでした。今日はその辺りの議論を整理しつつ、FolgezettelとStructure Zettelのどちらを使うべきか考えていきましょう。
FolgezettelとStructureZettelの違い
前提として、どちらの手法を採用するにせよ、構造化はZettelkastenにおいてさほど重要な意味を持っていません。Niklas Luhmann自身もZettelkastenにおいて構造は重要な意味を持っていないと発言しています。2
Given this technique, it is less important where we place a new note. If there are several possibilities, we can solve the problem as we wish and just record the connection by a link or reference.
(この技術では、新しいノートをどこに置くかはあまり重要ではない。いくつかの可能性がある場合には、好きなように問題を解決して、リンクや参照によって接続を記録するだけでよい。)
FolgezettelはLuhmannのZettelkastenと同じようにノートにシーケンス(並び順)を設けることで文脈を作り出すことができます。カードには一意のIDが割り当てられ、IDによって並び順が分かるようになっています。
対してStructure Zettelでは、カードからIDとシーケンスを取り除き、他のノートへリンクすることを目的とした構造ノートを作ることによってノートに文脈を作り出します。
FolgezettelはLuhmann自身のやり方を踏襲しているが、IDとシーケンスの管理負荷が高まる問題があります。一方で、シーケンスという形でアイデアが展開する新しい文脈をカードに与えてくれます。Structure Zettel比べて、シーケンスは明示せずとも関連ノートを暗示してくれるわけです。これは新しいアイデアの発想や洞察を得るのに役立ちます。
しかし、ここでZettelkastenの基本的な前提事項に立ち戻りましょう。かつてノート同士をリンクしてネットワークを作る重要に言及した通り、ノートを作成した時点での文脈と構造は時間とともに古くなっていくことが常であり、その前提であればノートに文脈と構造をもたらすシーケンスもまた古くなるということです。
結局のところFolgezettelにおける構造化もシーケンスに頼りきることはできず、ノートの増加とともに構造ノートを作る必要性に迫られることになります。IMPROVEISMのAl氏が言うとおり、シーケンスの管理は冗長になるということです。3
Niklas LuhmannがFolgezettelを採用した理由
ここで1つの疑問が湧いてきます。では、なぜLuhmannほどのお方がなぜFolgezettelによるシーケンスを採用したのだろうか?ということです。
これは私見ではありますが、Folgezettelを採用するメリットは主にアナログノートのスペースの問題であったように思います(LuhmannはZettelkastenをすべてアナログのカードを使って実装していました)。
つまり、構造化というよりは、 主にカードに書ききれないアイデアの続きを別のノートに書くためにシーケンスを必要としたのではないだろうか?ということです。実際、Niklas Luhmann-Archivを見れば、LuhmannがIDとシーケンスを使って複数のカードに跨ったノートを作成していることが分かります。
また、Zettelkastenをアナログのカードで実装するしかなかった時代においては、デジタルZettelkastenと違って全文検索が容易にできなかったことも大きな要因ではないでしょうか(IDを辿ることで目的のカードを見つけやすくする)。
私がStructureZettelを採用している理由
結論として、事実上スペースに上限がなく全文検索にも対応しているデジタルZettelkastenの場合、シーケンスはやはり無用になると考えられます。
私はノートへのID付与は行わず、StructureZettelのみを採用しています。
もちろんFolgezettelには特有のメリットがあり、デジタルZettelkasten時代のシーケンスの使い方とその改善については今でも盛んに議論されています。ですから、必要に応じてシーケンスを導入する価値は十分にあることを、最後に付け加えて、この記事の締めとしましょう。4
貴下の従順なる下僕 松崎より
参考文献
- Sascha, “Understanding Hierarchy by Translating Folgezettel and Structure Zettel,” Zettelkasten Method, Apr. 15, 2020.
- Luhmann Niklas and Kuehn Manfred, “Communicating with Slip Boxes by Niklas Luhmann.”
- Al, “The Case Against a Digital Folgezettel,” IMPROVEISM, Apr. 29, 2020.
- improveism, “Fixing the old folgezettel,” Zettelkasten Forum, Apr. 18, 2020.