ナレッジノートは自分の言葉で説明し直すこと(情報コレクターにならないために)

私の愛しいアップルパイへ

Zettelkastenをはじめナレッジを蓄積するノートは極力すべての文章を自分の言葉で書くことが重要だと考えています。新しくインプットした知識を自分の言葉で説明し直すのです。

これこそZettelkastenのような第二の脳と言えるシステムを構築する要の習慣です。

エレガントなあなたのデリケートな脳髄にはピッタリな考え方でしょう。

コレクターの誤謬とは

知識は単に情報を集めただけのものとは違います。ただハイライト集を作ったり、リンク集を作ったりしても知識として定着することも活用もできません。

これは学生が読むべきテキストを大量にコピーして満足してしまう状態に似ています。テキストのコピーに躍起となるのは、簡単に「知識をインプットした」と誤解できるためです。

本やオンライントレーニングビデオを買っただけで満足してしまうのも同じ現象と言えるでしょう。

本の引用をノートにコピー&ペーストしたり、メディアを埋め込んだりすることもしばしば同様の事態を引き起こします。買っただけで満足するよりはいくぶんかマシですが、知識の定着という視点では大差はありません。

情報が貴重に思え、収集しただけで満足してしまうのはChristian Tietze氏がThe Collector’s Fallacy(コレクターの誤謬)と呼んだものに等しいです。1

情報が溢れる現代において、「コレクターの誤謬」は無視できない問題でしょう。多くの人は頭で処理できる以上の情報を収集できるだけ収集するにもかかわらず、実際には読まないか、読んだとしても自分の血肉になることなく忘れてしまうのです。

これはベーコンエッグのごとく身近に溢れている問題ではないでしょうか。

無理もありません。アンデシュ・ハンセン氏が指摘したとおり脳は常に“目新しさ“を求めているので、知識に変換する面倒くさいプロセスを経る前に目新しい情報へ惹かれてしまうのです。2

しかし、これではナレッジワーカというより情報コレクターです。

(レヒャリッヒ!)

コレクターの誤謬から抜け出すには

情報と知識は違います。マリリン・モンローとスーザン・グリフィスくらい違います。それぞれの違いは次のように表現できます。3

  • 情報:意味のある形に加工されたデータ
  • 知識:問題解決や意思決定を目的とした情報の個人的な解釈

なお、データは「ある事象に関する一連の離散的で客観的な事実」といえます。

情報を知識に変換するには、自分なりの視点と文脈で情報を解釈したり推論をたてたりすることが求められます。このプロセスを経てはじめて情報が問題解決や意思決定に役立つ知識へと変換できるのです。

簡単に言えば情報は自分なりに咀嚼する必要があるということです。

「コレクターの誤謬」から抜け出すには、情報を知識に変換するプロセスが必要です。それは情報の咀嚼であり、具体的なアクションとしては受け取った情報を自分の言葉で説明し直すことになります。

これによって受け取った情報が脳内で燃えたティッシュのように跡形もなく消え去ることを防げます。

情報を知識に変換するには

上述したとおり、情報を知識に変換するとは、自分の言葉で説明し直すことです。この方針にもとづいてノートを書く際には、具体的にどのような点に気を付ければよいのでしょうか。

まず、引用やメディアの埋め込みを必要最低限にすることです。知識をノートにまとめるときには、ついWebクリップやメディアの埋め込み、引用をそのまま使いたくなります。元の資料が貴重に思えるためです。これも軽度の「コレクターの誤謬」であると言えるでしょう。

ですから、引用や埋め込みはそうするだけの必然性があるときだけに控え、基本的にノートは自分の言葉で書くこととします。

新しいインプットを自分のものにするには、既存の知識と組み合わせながら、それを自分なりの文脈で説明し直すことによって定着します。自分の言葉で説明することは、新しいインプットと既存の知識とが融合するプロセスだからです。

引用や参照が必要な場合にはそれらの文言をそのまま使わずに、参考文献に記述すればよいでしょう。これについてはノートには完全な形で引用を明記するも参照してみてください。

自分の言葉で説明する際には、いつ読み返しても(たとえば10年後に読み返しても)その意図と内容が簡潔に分かるように書くのが望ましいでしょう。未来の自分は他人みたいなものですから。具体的な方法はファインマン・テクニックが参考になります。

自分の言葉で分かりやすく説明し直せば、あとで再利用しやすくもなりますし、そのトピックについて他人に説明するのも容易になります。

これは個人における知識の定着に加えて、PKMからOKMへ発展(個人的知識を組織的知識へ昇華)させるうえでも大いに役立つでしょう。

知識を管理するには

情報を知識に変換することは単一のプロセスではありません。知識とは総合的なもので、それぞれの知識が相互に関連しあっているからです。

そこで知識変換([PK]M)に加えて、知識管理(P[KM])も重要になってきます。4

知識管理、つまりナレッジマネジメントにはPKMや、特に情報の知識化をサポートする第二の脳といったシステムが必要となるでしょう。

貴下の従順なる下僕 松崎より

参考文献

  1. Tietze Christian, The Collector’s Fallacy, Zettelkasten Method, Jan. 20, 2014.
  2. アンデシュ・ハンセン and 久山葉子, スマホ脳, 新潮新書, Nov. 18, 2020.
  3. Razmerita L. ;.,Kirchner K. ;.,and Sudzina F, Personal Knowledge Management: The Role of Web 2.0 Tools for Managing Knowledge at Individual and Organisational Levels, Online Inf. Rev., vol. 33, no. 6, pp. 1021–1039, 2009, doi: 10.1108/14684520911010981
  4. Zhang Zuopeng (Justin), “Personalising organisational knowledge and organisationalising personal knowledge, Online Inf. Rev., vol. 33, no. 2, pp. 237–256, Jan. 2009, doi: 10.1108/14684520910951195
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システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。