マルコム・グラッドウェル氏の天才!成功する人々の法則を読んだ感想とまとめ

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私の愛しいアップルパイへ

天才。夢見るリアリストならば誰もが憧れる響き。天才。

災いなるかな!そんな空中楼閣よろしく天空の遥かかなたに存在するはずの存在に迫ったバベルの塔のごとき一冊がここにあります。

邦題がダサいことで知られるマルコム・グラッドウェル氏のOUTLIERS(邦題:天才!成功する人々の法則)がそれです。

天才は生まれつきの才能に恵まれたというよりは、ただ機会に恵まれたのだ

「成功者」に対するこの手の「努力と個人的資質がすべてを決める」という考え方が間違っていることを伝えたい。何もないところから身を起こした者などいない。誰でも出身と支援者から恩恵を受けている。

第一部 好機

本書は私たちの天才に対する思い込みを根底から覆すために書かれた一冊です。マルコム・グラッドウェル氏は天才をOUTLIERと呼びます。OUTLIERとは、統計的異常値といった意味で、極端な外れ値のことを指します。転じて、傑出した才能、つまり天才を意味するわけです。

平均から著しく逸脱するような、傑出した才能を持った天才はいかにして天才になりえたのか?もっといえば、天才と呼ばれる人々は(我々が普段想像するように)生まれつき才能に恵まれたことによって天才になりえたのか?

本書は豊富な事例を通して、この問いに対して恐れ多くも真正面からNO!を突きつけてくれます。マルコム・グラッドウェル氏の主張はこうです。天才は生まれつきの才能に恵まれたというよりは、ただ機会に恵まれたのだと。

今日はマルコム・グラッドウェル氏のOUTLIERS(邦題:天才!成功する人々の法則)の紹介を兼ねて、私の胸を打った箇所をまとめます。

マルコム・グラッドウェル氏の天才!成功する人々の法則を読んだ感想とまとめ

ごく小さな優位点が大きな成功に導くこともある

本書で最初に語られるのがカナダのアイスホッケー選手のなかでもスターと呼ばれる選手たちが圧倒的に1月〜3月生まれが多いという話です。

カナダの学年の変わり目である1月~3月生まれの子供は同学年のなかで最もはやく生まれた子供であり、身体的な優位性が高まります。そのため、他の子供と比較して運動ができると勘違いした親がアイスホッケーを習わせたり、より激しい練習メニューが組まれたりして、はやく生まれたために身体能力が優れているという当たり前の小さな優位点が、次の好機を招くのです。この循環が延々に重なり、少年はいつしか本物の天才に育ちます。

つまり、成功は累積するアドバンテージの結果もたらされたものだったのです。これはアイスホッケーに限らず、多くの分野で見られる光景でしょう。

才能があるから一流になれたのではなく、機会が与えられたから才能が開花し、一流になれたということです。これは新約聖書のマタイによる福音書の一節を借用して「マタイ効果」と呼ばれます。

誰でも、持っている人はさらに与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる

才能より練習!天才をつくりだす一万時間の法則とは?

本書に書かれた内容で最も有名なものが「一万時間の法則」でしょう。これはモーツァルトやビル・ゲイツをはじめ、どの分野においても桁外れの天才たちは一万時間(約10年)に及ぶ膨大な練習によって才能が開花したと説く法則です。

一万時間の法則の根拠となるものは心理学のK・アンダース・エリクソン氏の実験からきています。ベルリン音楽アカデミーで学ぶバイオリニストを調査した結果、一流の腕を持つ学生とそうでない学生を分けるのは練習時間の差だけであり、一流の腕を持つ学生は成人になるまでに一万時間もの練習を積み重ねていたのだそうです。

つまり、生まれつきの才能より膨大な練習が与える影響のほうがずっと大きいということです。この一万時間の法則については以下の記事でも詳しくまとめましたのでご参考にしてください。

知性(IQ)には人の成功を左右するほどのパワーはない

生まれつきの才能として最もわかりやすい指標がIQでしょう。20世紀のはじめにIQのテストが作成されて以来、IQは人の潜在能力を計る魅力的な指標となり、人を成功ヘ導くパワフルな指針となりました。生まれつき高度な知性を備えた「孤高の天才」というのは実にわかりやすいイメージです。しかし、徐々にIQテストの結果は期待されるほど大きなパワーを持っていないことがわかってきています。

IQはバスケットボールにおける身長のようなもので、確かに著しく低いと障害になりえますが、一定の高さを超えると大きな問題ではなくなるのです。例えばIQの影響が色濃く出そうな科学の分野においても、IQ130とIQ180の科学者がノーベル賞を受賞する可能性は同じくらいだそうです。

実際のところ、スタンフォード大学の心理学の教授であり、IQテストの生みの親であるルイス・ターマン氏の調査によれば、IQが特別高かった子どもたちのうち驚くほど多くの者が高度な知能が求められるとはとても言いがたい期待はずれの職業に就いていたそうです。

研究でも芸術でもビジネスでも、なにかを成し遂げようと思ったなら、IQテストで測定できるような知性だけでなく、ものの新しい使い方や見かたを模索する想像力も必要です。

なにより大切なのはIQテストのように一人で完結するような仕事は現実には一つとしてないということです。ですから、IQのような個人的資質以上に、対話力や共感力や交渉力、それらすべてを総合的に使ってものごとを自分の望ましい方向に進ませる実践力などの対人関係構築力が必要になるのです。そして忘れてはならないのは、これらはIQのように生まれついての能力ではなく、後から身につけられる後天的な能力だという点です。

才能より好機と環境を活かす

本書で繰り返し語られるのが好機の大切さです。どんなに才能に恵まれたとしても、その時代特有の好機や環境によってもたらされる影響はずっと大きいものです。

例えば、当時最先端だったコンピュータの処理方式であるタイムシェアリング・システムを学生時代に使える年代に生まれ、それを使える環境に恵まれた子供はIT業界で大成する可能性がずっと高まります。1950年代なかばに生まれたビル・ゲイツがまさにそうでした。

または、幼いころからの英才教育が与える重要性を理解した親のもとに生まれ、自分より技術的に優れた上の兄弟に恵まれた家庭に生まれた子供は、その後にその分野でエキスパートになれる可能性が高まります。音楽家の父を持ち、姉も優秀なプレイヤーであったモーツァルトがまさにそうでした。

そして我々もなにかしらの好機を得ているはずなのです。膨大な時間の練習をただ重ねるだけでなく、自らに与えられた好機や環境を活かそうとすれば、成功の確率はずっと高まるでしょう。

文化が与える影響の大きさ

生まれ持った才能ではなく、膨大な練習時間や個人に与えられた好機と環境が与える影響の大きさについてはいままでお話したとおりです。

そして、もう1つ本書のメインテーマとなるのが文化の与える影響の大きさです。これは生まれ育った国の文化だけでなく、自分の両親や祖父母などの祖先から受け継いだ文化も含みます。

我々は祖先から受け継いだ伝統や態度など、個人ではどうしようもないと思えるような文化の影響にもさらされています。そしてそれは、練習の量や好機や環境のような優位点と近い役割にもなりえます。無意識のうちに文化は私たちの考え方や生き方に強い影響を与えているからです。

例えば、90年代前半に大韓航空は墜落事故が多すぎて社会問題にまで発展したことがあります。その原因は、韓国の伝統からくる格差意識(格上の相手に対しては控え目になり、格下の相手には横柄になる)によるものでした。

格差意識が高いと、副操縦士や航空機関士が格上となる機長や管制官に対して直接的な指摘や支持ができなくなるため、操縦ミスが発生しやすくなるのです。事故の原因調査を受けて大韓航空は社内の公用語を英語にすることで、この格差意識を縮めることに成功しました。

韓国語にある尊敬語や謙譲語などを使って礼儀を重んじる言語は、真実をオブラートに包んでしまいコクピットでは障害になったのです。公用語を英語に統一したことで、文化的遺産の最たるものである言語から解放された結果、大韓航空はみごとに再生しました。1999年以降、事故は大幅に減り、業界では一流の安全性を備えた航空会社と評価されるまでになりました。

個人的資質を超えて、無意識のうちに自らの考え方や生き方に影響を与えている文化に対して自覚的になり、それを活かしたり改善したりしようとすることは、成功への近道となるかもしれないのです。

天才へと至る可能性の扉を開いてくれる一冊!

本書を読んで「なんだ天才はとびきり運が良かっただけか」とか、「生まれつきの才能に加えて、機会にも恵まれていなければいけないのか」とか、「機会に恵まれていたかどうかは後付の説明でしかないから、結局なにもわかってないのか」とか、「コントロールしようのない文化的遺産に影響を受けるのならジタバタしてもしょうがない」といった感想を持つのは、マルコム・グラッドウェル氏の主張を取り違えています。

本書が豊富な事例とともに教えてくれるのはこういうことです。

  • 天才が天才たる所以は、生まれつきの才能より与えられた機会による影響のほうがずっと大きい
  • 天才になれるかどうかは誰にも分からないし、天才になるために必須の要素や一般的な法則などはない

ここから太陽の光によって明らかになるマルコム・グラッドウェル氏の主張はこうでしょう。

私たちはなんらかの才能に恵まれた唯一無二の存在であり、なんらかの機会に恵まれた幸運な存在である。そして、私たちが私たちの才能と機会を活かそうとするならば、誰もが天才になれるのだ。もちろんその確約はないが、可能性があるのだから自らの手で試してみてはどうだろうか?

本書は私たちに天才へと至る可能性の扉を開き、天才への道へと突き動かす最初の運動になってくれる希望に満ちた一冊なのです。

貴下の従順なる下僕 松崎より

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システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。