天才の絶対条件である1万時間の法則とは?

私の愛しいアップルパイへ

「1万時間の法則」というものをご存知でしょうか?これはベトナム戦争帰りの海兵隊がハノイのマイケル・モンローと同じ髪の長さにしようとしたら、最低でも1万時間は髪を切らずに伸ばしておく必要があるという法則のことではありません。

1万時間の法則とは、邦題がダサくて有名なマルコム・グラッドウェルが著書「Outliers」(邦題:天才!成功する人々の法則)で提唱した法則です。

▼なお、こちらの動画でより詳しく解説しましたので、ながら聴きなどこちらをご覧ください。

成功は生まれつきの才能ではなく1万時間のなかに宿る

「Outliers」は実にエキサイティングな本でした。本書は天才というものが一般的に思われているような、生まれつきの才能(例えばIQなど)によって左右されるものでは”ない”ことを徹底的に追求した本でした。

天才と呼ばれる人々が残した桁外れの成功のほとんどが生まれつきの才能によるものではなく、いかに偶然や家庭環境や出身地や文化といった後天的な外部要因によって支えられていたかを教えてくれます。

そして、そんな本書の前半の中心テーマが「1万時間の法則」です。

累積するアドバンテージによって得られる好機が桁外れの才能をつくる

本書で繰り返し強調されるのが才能より機会の重要性です。例えば、本書によればカナダのアイスホッケー選手のなかでもスターと呼ばれる選手たちが圧倒的に1月〜3月生まれが多いことを指摘しています。

学年の変わり目(カナダでは1月1日)の近くに生まれた子供は当然ながら他の同級生よりも身体的な発達がはやいです。特に幼少期は1年での成長スピードがはやいので、1月生まれと12月生まれとでは同級生とはいえ無視できないほど大きな差が生まれます。

すると、身体的な成長スピードがはやい1月〜3月生まれの子供は同級生と比べて身体能力が高くなるので、スポーツの才能に恵まれていると勘違いされます。スポーツの才能に恵まれたと勘違いした親や教師やコーチや子供自身によって、ますますスポーツに没頭する機会が与えられます。

子供の頃からプロリーグへの道が整備されているカナダのアイスホッケー界においては特に、この最初の小さなアドバンテージによって着実に特別な好機が与え続けられます。より激しい練習メニューを組んだり、より優れたコーチをつけたり、より強い対戦相手とぶつかったり。

はじめは単に誕生日がはやいことで生まれるちょっとした身体的なアドバンテージだったものが、数々の好機を経ていつしかスター選手と呼ばれるような桁外れの値(アウトライアー)をもった才能に代わるのです。

そしてこのような現象はカナダのアイスホッケー界に限らず世界の至る所で見られます。

著者は新約聖書のマタイによる福音書の一節を引用します。

誰でも、持っている人はさらに与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる

第一部 好機

桁外れの才能に到達する瞬間はいつなのか?

では、最初はちょっとした身体的な優位点しかなかった子供が、他の選手の追随を許さないスター選手になるのはいったいどの時点なのでしょうか。ここに1つのマジックナンバーがあります。それが1万時間です。

1万時間の法則は1990年代はじめに心理学者のK・アンダース・エリクソンが行った調査に由来しています。

エリクソンは、ベルリン音楽アカデミーで学ぶバイオリニストを3つのグループに分けて調査しました。スターのグループと、”優れた”という評価にとどまるグループと、プロになれそうにないグループの3つです。

結果、スターのなかには短い時間で楽々とトップの座を楽しむといった類の(一般的な天才と呼ばれる人のイメージにあたる)学生は見当たりませんでした。スターとそうでない学生を分けるのは練習量だけだったのです。

スターに属するグループの学生は年々練習量が増えていき、20歳になるころには週に30時間以上も練習していました。

スターに限らずほとんどの学生は5歳ごろから楽器の練習をはじめていましたが、20歳頃のスターの総練習時間は1万時間を超えていました。”優れた”グループは八千時間で、プロになれそうにないグループは四千時間ほどでした。

エリクソンはピアニストについても同様の調査を行いましたが結果は同じでした。学生のなかに生まれつきの天才はおらず、スターかそうでないかを分けたのは総練習時間が1万時間を超えるほど、熱心に練習したかどうかだけだったのです。

1万時間で桁外れの値にたどり着いた天才たちの例

本書では1万時間の法則にのっとって桁外れの結果を残した天才たちの例がいくつも挙げられています。その一部をご紹介しましょう。

天才の代表例であり、神童と呼ばれたモーツァルトは作曲家としては意外にも遅咲きでした。モーツァルトの初期の傑作と呼ばれるピアノ協奏曲第九番変ホ長調(K271)はモーツァルトが21歳のころに書かれました。

これはモーツァルトが協奏曲をつくりはじめて10年が経った頃でした。10年とは、1万時間に及ぶ練習をこなすためにだいたい必要な年月です。

UNIX系OSであるBSDの開発をまとめたり、viテキストエディタを開発したりしたことで知られる世界的に有名なコンピュータ科学者ビル・ジョイは、大学一年生のころに当時最先端だったタイムシェアリング型のコンピュータと大学で出会い、一日に8〜10時間はプログラミングをしていたといいます。大学を卒業するころには1万時間が経過していました。

ザ・ビートルズの四人は売れる前にドイツのハンブルクで毎日8時間もぶっ通しで演奏していたことで知られています。1957年にジョン・レノンとポール・マッカートニーが出会い、1960年にハンブルク行き。1964年で爆発的な成功を収めるまで1,200回もライブをこなしたそうです。

ビル・ゲイツがレイクサイド校で当時最先端だったタイムシェアリング型のコンピュータを使ってプログラミングを学びはじめたのが中学二年生のとき。その日からゲイツはコンピュータ・ルームで暮らし、高校卒業まで1日8時間、週30時間以上もプログラミングをしていました

ハーバード大学を二年で中退して自らのソフトウェア会社に全力を注ぎはじめたときにはとっくに一万時間を超えていたと考えられます。

自らの決意次第で天才になれる希望の物語

彼らは、(私たちと同じく)唯一無二の存在であり、(私たちと同じく)いくつもの幸運に恵まれたに違いありませんが、最終的に桁外れの才能を確固たるものにしたのは一万時間を超えるほど熱心かつ貪欲に練習したかどうかだったのです。

本書の一万時間の法則は、人間離れした生まれつきの才能によって桁外れの成功を収める天才神話を真っ向から徹底的に否定するもので、もしかしたら肩透かしを食らうかもしれません。誰だって自分とはまったく作りの非現実的な才能に天才たる所以を求めたがるでしょう。それが、実はただ熱心に貪欲に練習したかどうかだけだったなんて!

しかし、ここには大きな希望もあります。もし桁外れの結果を残したいと渇望するほどのなにかがあるなら、輪廻転生ギャンブルに賭けるのではなく、一万時間(毎日3時間で約10年)熱心に練習すればいいのですから。それは茨の道に違いありませんが、自らの決意次第で主体的に切り拓いていける道でもあるのです。

▼本書では、今日紹介した1万時間の法則以外にも、生まれた年や家庭環境や出身地や時代背景など、様々な切り口で天才を解体してくれる実にエキサイティングな本です。オススメ!

▼ちなみに「一万時間の法則」には多くの反論があるのも事実です。以下には一万時間の法則に対する反論をまとめましたので、一万時間の法則をもっと深く知るためにこちらもどうぞ。

一万時間の法則が間違っている3つの理由

貴下の従順なる下僕 松崎より

著者画像

システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。