私の愛しいアップルパイへ
2012年9月に6年半の会社員生活を経て26歳でフリーランスとして独立したことはあなたもご存知の通りです。
それからフリーランスとしてトラックの如く突進してきたわけですが、このたびフリーランスとしての働き方を辞める決断をしました。あなたは私の性格をよくご存知なので、これが挫折を意味するのではなく、 超克を意味することは説明するまでもないでしょう。
フリーランスとして6年ほど働いてみて、できることの限界が見えてきたこともありますし、まだまだ先が見えてきたこともありました。去年、主に節税対策としてjMatsuzaki株式会社を設立したときは飽くまでフリーランスの延長としてこれからも働く気持ちでした。フリーランスの働き方は性格的にも私に合っていると感じていました。
しかし、会社設立をきっかけとして自然と組織として働く選択肢について考えることが増え、組織として動くメリットを感じることが増えてきました。そこで4ヶ月ほど前から会社という組織として事業を築いていく面白さと可能性の大きさに惹かれるようになりました。フリーランスは通過点に過ぎなかったと猛烈に感じるようになったのです。
もちろんこれまでも一人で働いていたわけではなく、フリーランスや会社員の方々とプロジェクトごとにチームを組んで、有機的につながり合いながら働いていました。自立した個人がつながりあって、仕事を形にしていく、それでいいではないかと考えていました。あるレベルまではそれでも十分にうまくいっていたのですが、あるレベルに達してからは密に連携していたチーム内で自然と会社として動いた良いのではという結論に至りました。
かくして私は次のステージを案出するに至り、フリーランスとしての働き方から完全に脱却して、jMatsuzaki株式会社の一従業員として働く決意をしました。今日はその辺りのパラダイムシフトについてお話しします。
フリーランスを辞めるために大変だったこと
今から4ヶ月前、会社を設立して一周年を迎えた2018年10月頃にかけて、じわじわと会社として動くメリットについて検討するようになりました。
会社として動くにあたってのメリットについてはおいおい語るとして、大変だったのはフリーランスとして身につけた知識やスキルが会社として動く上ではまったく役に立たなかったり、ときには障害になったことです。それは大きく3つありました。
オクトパスエフェクトの克服
この6年間で私は数々の仕事を手がけました。幸いなことに事業は順調に育ち、フリーランスになった頃には想像もできなかったくらい事業が育ちました。
これらは多くの自由を生んでくれましたが、貪欲なる私にとっては決して最大の可能性を引き出せるといえる状態でもなく、理想的な自由を生んでくれたわけでもありませんでした。仕事が私に依存していたためです。
かような状況をウェルスダイナミクスなどで知られるロジャー・ハミルトン氏の「才能は開ける」(の特典についてくる「ロスト・チャプター」)では「オクトパスエフェクト」として語られています。
多くの人が「アクセルを一杯まで踏み込む」ことで勝利の方程式を見つけます。精進すればするほど、多くのことを達成できると信じます。
その結果、プロジェクトや事業を複数手がけ、そのすべてが前進しますが、プロジェクトや事業の潜在的可能性を最大限まで引き出すことはできません。
理由は、それが1つのもの、つまりあなたに依存しているからです。あなたが止まれば、お金も止まります。
これは「オクトパス・エフェクト(タコの効果)」と呼ばれます。つまりこういうことです。あなたの事業は表面的には成功しているように見えます。お金は入ってくるし、事業に活気があるからです。しかし、水面下には触手がたくさんあり、そのすべてが1つの小さな脳みそに依存しています。そして、触手には吸着力があります。
「才能は開ける」ロスト・チャプター p.2
これまでも決して一人で仕事をしていたわけではありませんでした。仕事の多くをプロジェクト毎のチームで分担していましたし、仕事の多くは委任していました。しかし、本質的に「オクトパスエフェクト」に陥っていたことは否定できません。そして”吸着力がある”の言葉通り、オクトパスエフェクトの限界は決して高くないこともこの6年間で頭ではなく臓腑で理解しました。
私はオクトパスエフェクトを克服する決意を固め、仕事のやり方を根本的に見直すことにしました。これは大変な挑戦でした。事業的にも、精神的にもこれまで築き上げてきた一部を捨てる必要があったからです。
jMatsuzaki事業におけるほとんどの仕事は私が一人で始め、育て、少しずつチームで分担するプロセスを経ていたために、私一人では手が回らなくなるほど事業が大きくなった後も事業のほぼ100%を把握し、管理できていました。
これは確かに私の矜持の一部でもありましたし、基本的な仕事のやり方でもありました。しかし、この細部まで管理したいと欲する「オクトパスエフェクト」は明らかに事業のボトルネックになっていました。
オクトパスエフェクトを概ね克服できたことで、ようやくフリーランスを辞めることができるに至りました。これには振り返ってみれば一年以上かかりました。
経営戦略のインプットと立案
オクトパスエフェクトの克服が見えてきたところで、次に課題となったのは会社経営に関する知識とスキルの問題でした。これまでフリーランスとして事業を育てる経験は積んできましたが、組織として事業に取り組む会社経営の知識とスキルは皆無だったからです。
組織として事業を育てていく決意をするにあたって、進むべき方向性を定めることが求められましたが、その段階になって足が止まってしまいました。
そこで私は経営に必要と思われる本のインプットを片っ端から始め、必要に応じて今の事業に組み込んで実験してみる必要がありました。例えば経営理念や戦略についての知識や、そのための会計知識、報酬の分配の仕方や昇給制度について、人材の確保方法に関してなど、フリーランス時代では必要とされなかった新しい課題にぶつかりました。
幸い、会社経営においてもサラリーマン時代およびフリーランス時代に培ってきた知識とスキルが活かされるところもあり、また経営について一緒に考えてくれる優秀なカウボーイも居たために、まずは走り始めるための必要となるjMatsuzaki株式会社らしい戦略を無事立てることができました。
社員を迎える手続きの煩雑さ
精神面と体制面を整え、戦略を立案したところで次なるハードルとして立ちふさがったのは手続き面でした。
我々は三人の役員からなる会社であり、日本法人ながら全員ドイツ・ベルリン在住という特殊な状況であったために、新たに社員を迎えるための煩雑な手続きが発生しました。これもフリーランスとしては気軽にできていたことが障害になったケースでした。
煩雑な手続きは本社移転の手続きから始まり、登記簿の変更、新たに社員を迎えるための社会保険の手続きなどでした。これらをドイツの制度と照らし合わせながら検討する必要があり、全体を通して数ヶ月の月日が必要でした。
私たちは優秀は税理士さん、司法書士さん、社労士さんの協力を仰ぎながら、自分たちの特殊な状況に対応した手続きを進めました(実際には現在も手続き中ですが)。
結果として、国をまたいだ制度面でも問題なく新たに社員を迎えていく準備がまもなく整いつつあります。
一緒に働きたいと強く思うカウボーイが増えてきた
我が言を決して取り違えて欲しくないので1つ補足しておくなれば、会社を育てる決意が固まったのはフリーランスの限界について実感したのと同時に、一緒に同じ会社で働きたいと思えるカウボーイが増えてきたことが大きな要素としてありました。この意志がなければこれらのハードルを越えることはできなかったでしょう。
これまでの6年間、数々の方々と仕事を一緒にさせていただき、その中でも一生ものの出会いと呼べる出会いに恵まれました。彼らと同じ会社で一体となって働きたいという強い気持ちが芽生えたことが、会社を育てる強いモチベーションとなりました。
元来より偏執狂じみていて人付き合いが苦手なタイプの私にかような出会いがあったのは素晴らしい幸福であり、これは決して過剰な表現でなく、奇跡なのだと信じています。私はこの奇跡に賭けることにしました。
ジム・コリンズ氏は「ビジョナリー・カンパニー 2」でも、偉大な会社を築くために大切なのは目的地を決めるより先に旅をともにする人々を同じバスに乗せることだと言っています。
偉大な企業への飛躍をもたらした経営者は、まずはじめにバスの目的地を決め 、つぎに目的地までの旅をともにする人びとをバスに乗せる方法をとったわけではない。まずはじめに、適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし、その後にどこに向かうべきかを決めている。要するに、こう言ったのである。「このバスでどこに行くべきかは分からない。しかし、分かっていることもある。適切な人がバスに乗り、適切な人がそれぞれふさわしい席につき、不適切な人がバスから降りれば、素晴らしい場所に行く方法を決められるはずだ」
「ビジョナリー・カンパニー 2」 第三章 だれをバスに乗せるか
この一節を読んだとき“はからずしも追い風“と感じました。実際のところjMatsuzaki株式会社がどこに向かっているかなど私も含めて誰にも分かっていません。ただ、同じバスに乗って欲しい人が居るだけです。我々の誰もが確信しているのは、尊敬できる人と一緒に働けるほどの幸福は他にないということです。
今では同じ会社で一緒に働きたいと強く思える尊敬できるカウボーイが既に10人弱居ます。当面は彼らをどうにかして我が社に迎えることが大きな目標の1つになりそうです。
今月2人のカウボーイを社員として迎えます
実は今月(遅くとも来月)に新たに2人の勇敢なるカウボーイを我が社の社員として迎えます。これまで役員だけだったので記念すべき最初の社員ということになります。
2人ともこの数年間でjMatsuzaki株式会社の事業に深く携わってくれた方々であり、苦楽を共にしてきた心から信頼する方々であり、最初の社員はこの2人を差し置いて他にないと確信している人選です。
今日はその2人を紹介しようと思ったのですが、どうやらそのためのスペースはもう残されていないようで。それは次の記事に譲るとしましょう。
貴下の従順なる下僕 松崎より