私の愛しいアップルパイへ
2016年1月10日。この日を私は一生忘れないでしょう。あの偉大なる音楽家David Bowieが逝ってしまった日となったからです。
David Bowieは私にとって最高のアーティストで、憧れの存在でした。彼がいなかった私も音楽をやっていなかったかもしれません。15歳の頃から聴き始め、29歳となった今でも飽きることなく毎日のように聴いています。
今日はDavid Bowieの冥福を祈って、彼の残した偉大なアルバム作品を厳選して紹介していきます。
David Bowieとは?
変化し挑戦しつづけた偉大なアーティスト
David Bowieというアーティストを一言で表現するなら「変化」でしょう。David Bowieといえば1970年台半ばにグラム・ロックというジャンルを確立してブレークしたことで有名ですが、その後は自らの作り上げたキャリアやイメージを壊しつづけることを選び、アルバムごとに作風をガラリと変えるアーティストでした。
グラム・ロックもあれば、プログレもあれば、ソウルもあれば、ダンスもあれば、アンビエントもある。そして、そのほとんどをDavid Bowie自身が作詞作曲しています。アーティストといえばどうしても自分のスタイルに固執しがちなものですが、1967年のデビュー以来、我々をあっと驚かせる変化を遂げつづけた類まれなアーティストでした。
音楽家として、これがどれほどの挑戦の連続であったかは想像することもできません。結果として、彼は人々に飽きられることもなく、他のどんなロックスターよりも自由で、柔軟で、突拍子もなくて、実験的で、刺激的な存在になりました。
David Bowieの49年間を振り返る
David Bowieがデビューしたのは1967年のこと。最初は鳴かず飛ばずでしたが、最初に動きがあったのはデビューから2年後の1969年。
1969年といえば、スタンリー・キューブリックが「2001年宇宙の旅」を公開した翌年であり、人類がはじめて月面着陸した年でもあります。David Bowieは人々の関心が宇宙へと向いていたこの流れをうまくとらえて、地球のまわりを漂う宇宙飛行士の悲哀を歌ったシングル「Space Oddity」(2ndアルバム「Space Oddity」(1969年)に収録)をリリース。
これがイギリスのラジオやニュースで月面着陸のテーマ曲的な扱いをうけて見事にヒット。「Space Oddity」はDavid Bowieの原点といえる楽曲になりました。
その後、David Bowieのスタイルとサウンドは徐々に完成されていき、1972年にリリースした「The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars」は従来のロックサウンドに管弦楽器やシンセや電子音を取り入れた近代的なサウンドに奇抜なメイクや服装といった演出が相まって、グラム・ロックを代表する作品として認知されました。この作品によって、ロックアーティストとしての地位を確固たるものにしました。
しかし、その翌年には早々にグラム・ロックとの決別を宣言。直後にリリースした「Young Americans」(1975年)では黒人音楽を取り入れてソウルフルな音楽に転向しました。この頃、ジョン・レノンとの共演を行っています。
さらにその後は徐々に電子音楽を積極的に取り入れ始め、Brian Enoとともにベルリンで制作した「Low」(1977年)、「Heroes」(1977年)、「Lodger」(1979年)の3作品は”ベルリン三部作”と呼ばれDavid Bowieを代表する傑作と言われています。
ベルリン三部作以降にDavid Bowieが取り組んだのはダンサブルなポップ・ロックでした。それまでの少々難解だったDavid Bowieの音楽から脱却して、David Bowie特有のメロディーセンスを発揮したポップなソングをリリースして爆発的にヒット。一気にメジャーなアーティストとして認知されるようになりました。
この頃に行った世界ツアーである「シリアス・ムーンライトツアー」はショーとして抜群の完成度をもった公演で、伝説のツアーになっています。
ダンス・ポップ以降はエレクトロでオルタナティブな近未来的なロックを展開。歳を重ねても精力的な活動をつづけました。
2003年以降は10年ほど音楽活動から離れていましたが、2013年のDavid Bowieの誕生日に事前予告なしで突如ニューアルバム「The Next Day」をリリースして世間を驚かされました。その2年後、2016年の誕生日に「★[Blackstar]」をリリースした直後、ガンとの闘病の末に69歳でこの世を去りました。
David Bowieのおすすめアルバム7枚
変化しつづけた偉大なアーティストDavid Bowieの残した28枚のスタジオアルバムのなかから、David Bowie最もよく味わえるであろう作品をピックアップして紹介します。是非聴いてみてください。
なお、David Bowieは無数のライブ盤とベスト版が出ていますが、今日はスタジオアルバムのみを選定します。彼のアルバムはまるで交響曲のように1枚のアルバムが1つの作品になっているため、アルバム単位で聴くのが良いのです。
The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars(1972年)
まずはなんといってもDavid Bowieの名を確固たるものとしたこのアルバムを紹介せねばならないでしょう。デビューから5年後の1972年にリリースされたスタジオアルバムで、5枚目のスタジオアルバムとなります。Ziggy Stardustという名を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
本作品の特徴は、Ziggy Stardust(ジギー・スターダスト)という架空のロックスターをDavid Bowieが演じるコンセプトアルバムになっている点です。Ziggy StardustがバックバンドのSpiders from Mars(スパイダーズ・フロム・マーズ)を引き連れて、世界を変えていくというストーリーをベースに作られた作品となっています。
アルバムリリース後、David BowieはZiggy Stardust and the Spiders from Marsとして世界ツアーを開催。その奇抜は(つまりグラマラスな)衣装と演出が世界的に評価され、David Bowieはグラム・ロックというジャンルの名とともに広まりました。
前前作である「the Man Who Sold The World」(1971年)と前作の「Hunky Dory」(1971年)の方向性をさらに突き詰めて完成させたサウンドに仕上げたというのが本作の位置づけです。
音楽性はというと、従来のオーソドックスなロックサウンドに管弦楽器やシンセ、ノイズ、デジタル加工を施した近未来的な作品に仕上がっています。そのうえ、David Bowie特有のメロディーセンスを遺憾なく発揮した本作品はロック界の最重要アルバムといっても過言ではないでしょう。初期David Bowieを代表する傑作です。
なお、その次にリリースされたAladdin Sane(1973年)とDiamond Dogs(1974年)を併せた3枚はDavid Bowieのグラム・ロック時代を象徴する名盤です。
Station to Station(1976年)
グラム・ロックと分かれを告げたDavid Bowieが大きく変化を遂げたのがこの作品Station to Stationです。10枚目のスタジオアルバムとなります。
グラム・ロックから脱却してソウル風の音楽へと移った前作「Young Americans」をさらに近代的なサウンドに仕上げた本作は、グラム・ロック、ソウル、電子音楽が絶妙にブレンドされた味わい深い作品となっています。
立ち上がりはノイズと単調なリズムの繰り返し、3部構成で展開する10分を超える前衛的な楽曲「Station to Station」から作品は始まります。まるでQueenの「Bohemian Rhapsody」を前衛的に解釈したような名曲です。
2曲目の「Golden Years」はうって変わってソウル風のソングを聴かせてくれます。そして3曲目は「Word on a Wing」はDavid Bowieのメロディーセンスが光るうっとりするようなソングです。
David Bowieが単に派手でけばけばしくて大げさなグラム・ロック・アーティストではなかったということが証明された名盤です。
Lodger(1979年)
「Station to Station」につづいてDavid Bowieが取り組んだのは電子音楽を取り入れた先鋭的な音楽でした。「Low」(1977年)と「Heroes」(1977年)につづいて作られた「Lodger」はDavid Bowieの新境地を聴かせてくれる名盤です。12枚めのスタジオアルバムです。
アルバムはアンビエント・ミュージックの先駆者でもあるBrian Enoとともに制作されました。ちなみにBrian EnoはあのWindows 95の起動音を制作した人だったりします。
「Lodger」のサウンドは前二作である「Low」と「Heroes」を少しラフにしたような作品で、David BowieとBrian Enoのセンスが光る作品になっています。一聴すると冗談みたいな作品でもありますが、ロックから逸脱したメロディーや楽器構成、展開は何度聴いても飽きの来ない実に奥深い作品に仕上がっています。
Brian Enoとともに3枚のアルバム「Low (1977年)」「Heroes(1977年)」「Lodger (1979年)」はベルリンで集中的に作られたため、ベルリン三部作と呼ばれてDavid Bowieの最高傑作ともいわれる作品になりました。
ちなみに「Lodger」が気に入ったならその翌年にリリースされた「Scary Monsters」(1980年)も気に入るはずです。
Let’s Dance(1983年)
これまでの作風からさらに変貌を遂げたのがこのアルバム「Let’s Dance」です。14枚目のスタジオアルバムとなります。
本作品の音楽性を一言で表現すればダンサブルなポップ・ロックといえるでしょう。これまでの少々難解な音楽性とは違って、メロディーラインがはっきりしていて聴きやすい曲が多いのが特徴です。
ポップな楽曲に転向した結果、アルバムもシングルカットされた「レッツ・ダンス」や「チャイナ・ガール」も爆発的な大ヒットとなり、David Bowieを一気にメジャーな存在にした作品でもあります。David Bowieといえばこの頃の「レッツ・ダンス」や「チャイナ・ガール」だという人も多いでしょう。
本作にあわせて行われた「シリアス・ムーンライトツアー」は大変完成度の高いショーで、世界中で大成功を収めました。
また、翌年にリリースされた「Tonight」(1984年)は本作をさらに押し進めたアルバムになっており、名曲も多いです。
Earthling (1997年)
ポップ・ロック以降にDavid Bowieが取り組んだのはエレクトロでオルタナティブな近代的ロックでした。50歳にもなる大御所ロック・スターがそれまでの音楽性をさらに変えて、近代的なロックに挑戦しにきたのです。
そのなかでも19枚目のスタジオアルバムとなる「Earthling」 (1997年)はオルタナティブな音楽にドラムンベースやジャングル風の歯切れの良いデジタルサウンドをのせたDavid Bowieのなかでも一風変わった作品です。
また、この頃のツアーではTrent Reznorと共演するなど、若いアーティストとの積極的にコラボレーションしている点も見逃せません。新しい音楽の探求に熱心に取り組んでいる様子がうかがえます。
Reality (2003年)
ポップ・ロック以降に取り組んできた音楽性をついに完成形として紹介したのが本作「Reality」です。26枚目のスタジオアルバムであり、後期David Bowieの代表作といえるでしょう。
この頃は「1.Outside」(1995年)や「heathen」(2002年)など、難解でノスタルジックな雰囲気の作品がつづいていましたが、本作では良い意味で肩の力が抜けていて、それまでのDavid Bowieの集大成ともとれるようなロックアルバムに仕上がっています。
Bonus Discにはグラム・ロック時代の名曲「Rebel Rebel」のセルフ・カバーが収録されている点も、変化しつづけたDavid Bowieには珍しいことです。
やりきった感があったのか、本作以降は10年間ほど音楽活動は休止状態となります。
★[Blackstar](2016年)
「Reality」から10年後、引退も囁かれていたDavid Bowieですが、事前告知なしで突如ニューアルバム「The Next Day」(2013年)をリリースします。ジャケットは過去の名盤「Heroes」(1977年)のジャケットを挑戦的にコラージュしたもので、新しい音楽の始まりを告げているようでファンを沸かせました。
そして、その2年後に28枚目のスタジオアルバムとなる本作「★[Blackstar]」がDavid Bowieの亡くなる2日前にリリースされます。David Bowie最後のスタジオアルバムです。シングルカットもされた1曲目の「Blackstar」は10分近い楽曲で、旋律、楽器構成、展開など様々な面で前衛的な実験的な楽曲になっています。これはアルバムの序曲ともいえるような楽曲で、アルバム全体を通して実験的な試みが聴いてとれます。
10年間沈黙してきたDavid Bowieが最後に到達したのは脱ロックともいえる音楽でした。安易な原点開始に陥ることなく、最後の最後までこれからの新しい音楽を追求しつづけ実験しつづけたことが分かります。
音楽史に輝く偉大なアーティストDavid Bowie
1967年から2016年まで49年にわたって挑戦と実験をやめず、我々を驚かせつづけてきたDavid Bowieを尊敬してやみません。
公式サイトに訃報が掲載された直後より、音楽に限らない世界中のアーティストから追悼コメントが寄せられていました。David Bowieが現代芸術に残した影響の大きさをあらためて感じました。
今日は音楽史に輝きをもたらしてくれたDavid Bowieの死を偲びながら、彼の作品をもう一度すべて聴き直そうと思います。
貴下の従順なる下僕 松崎より