私の愛しいアップルパイへ
2017年1月8日から4月9日まで天王洲の寺田倉庫G1ビルで開催されていた「DAVID BOWIE is」(デヴィッド・ボウイ・イズ)展を観てきました。
「DAVID BOWIE is」展は2013年にロンドンから始まり、世界を巡回してきたDavid Bowieの大回顧展です。この展示の最中、2016年にDavid Bowieが他界したこともあり、さらなる注目を浴びていました。
私は日本に来るのが我慢できず、事前に公式図録を入手したくらいです。
この展覧会はDavid Bowie作品のあらゆる側面が詰め込まれていて、David Bowie作品を理解するには欠かせないと思えるほど素晴らしい展覧会でしたので、「DAVID BOWIE is」展を観た感想について今日はお話しようと思います。
David Bowieは全貌を捉えるのがとびきり困難なアーティスト
※以降、画像はデヴィッド・ボウイ・イズ 公式図録より抜粋
David Bowieはアーティストの中でもとびきり多才なアーティストだったので、全貌を捉えるのが大変難しいアーティストの一人だと思います。
全てのアルバムを聴いても、彼の活動について理解するのは難しいでしょう。というのも、David Bowieのアルバムは全てコンセプトだけでなく音楽性が大きく異なるからです。1枚1枚のアルバムは常に変化し続けていて、これこそがDavid Bowieだとは定義できないです。
そういう意味では今回の展示に「DAVID BOWIE is」と名付けたのは絶妙だったと思います。
ある時はグラム・ロック、ある時はソウル、ある時はプログレ、ある時はダンスといったように大変短い周期で変化し続けたので、初めてDavid Bowieを聴く人は戸惑うでしょう。ベスト盤から聴きはじめた人は目まぐるしく変わる捉えどころのない曲調に混乱するでしょう。
それだけでなく、David Bowieは音楽だけに限らず、総合的な表現を追求した人でもありました。ライブ衣装やライブパフォーマンス、映像作品、詩、絵画など、様々な表現を組み合わせたので音楽作品を聴いただけではDavid Bowieが何者か捉えきれないのです。
ミュージック・パフォーマンス・ファッションを通して表現し続けたDavid Bowie
David Bowieは自らの内にある無限のインスピレーションを形にするために、さまざまな表現形式を試行錯誤してきました。その中でも特に大きな軸となったのが「ミュージック」「パフォーマンス」「ファッション」の3つだと私は考えています。
「ミュージック」は彼の音楽作品そのもの。「パフォーマンス」と「ファッション」ではライブだけに限らず、写真や舞台、映像作品においてもその類稀なるセンスを発揮していました。
彼はミュージックを軸としながら、パフォーマンスとファッションを組み合わせて、音楽の表現形式を大きく拡張したアーティストでした。
今回の「DAVID BOWIE is」展では、この音楽作品からだけでは触れることのできない「パフォーマンス」と「ファッション」に網羅的に触れられており、そういう意味でDavid Bowie作品を理解するためには必須の展示だったと思います。
無限のインスピレーションを他人とのコラボによって形にしてきたDavid Bowie
David Bowieは内向的な人間であったことを自ら語っていますが、とにかく彼には無限に湧き出るインスピレーションに従って、表現のアイデアを形にする傑出した才能があったように思います。
彼は表現に関することならどんなことでも取り入れてきたようで、そのインスピレーションの幅広さには感嘆させられます。今回の「DAVID BOWIE is」展では、David Bowieのその無限のインスピレーションのソースになるようなものに触れることができたのも面白い点でした。
インスピレーションの元となった映画作品や、ビートニクの詩人などが好んで使い、David Bowie自身もいくつかの作品に取り入れたカットアップの技法、新しい表現を追求したベルリン時代に用いたシンセサイザーの実物など、David Bowieのアイデアソースとなったものが多く展示されていました。
また、David Bowieはそのような多岐に渡るインスピレーションを数多くの他のアーティストとコラボレーションしながら形にしていきました。David Bowieはミュージック、パフォーマンス、ファッションにおいて、有名か無名かに関わらず、通常のアーティストとは比較にならないほど多くの人と積極的にコラボレーションしていました。
特に今回の展示では、音楽作品を共作する様子、ファッションのデザインを組み立てていく過程、写真や映像の収録風景、実際にコラボレーションした人々のインタビューなどが興味深かったです。
「DAVID BOWIE is」展ではDavid Bowieがどのように時代や他人からインスピレーションを受け、それを形にするために共同作業者を選び、何を委任して、何を自ら決断したのか、その工程の一端を知ることができたのは大きな収穫でした。
変化し続けることで、人は望んだものになれることを体現したDavid Bowie
David Bowieは時代とともに変化し続けたアーティストでした。しかし、彼は決して時代に流されて自分を失っていくタイプの変化はしませんでした。
David Bowieの活動が本当に面白いのは、変化しつづけることで、一貫した自己を確立してしまったことでしょう。
1970年代、最初に「ジギー」というキャラクターを演じることでDavid Bowie演じるジギーとして爆発的に有名になった後もそのキャラクターに固執することなく、アラジン・セインやシン・ホワイト・デュークなど新しいキャラクターをいくつも立て続けに創出しました。
そして、ついには新しいインスピレーションに基づいて変化し続ける「David Bowie」という一人の傑出したアーティストとして認知されるに至ったのです。
彼は一貫した将来像や理想像に向かって活動するようなアーティストではありませんでした。むしろ計画性もなくその時々に降ってくる新しいインスピレーションに従いながら、同時に自らの過去を意味づけし直すこと(実際、新しい作品で過去のキャラクターを定義しなおす取り組みを何度も行っていた)で、変化を恐れることなく、むしろ果敢に挑戦していったのです。
通常、人間にとって変化というのは恐ろしいことです。その姿は変化し続けることで、人は望んだものになれることを体現した模範的な人間として人々に感動を与え続けました。彼がここまで偉大なアーティストになり得たのも納得の回顧展でした。
David Bowieの代表曲である「Heros」の歌詞にはこんな有名な一節があります。
We can be heroes just for one day
(僕たちはヒーローになれる たった一日だけなら)
私はDavid Bowieを象徴するこのフレーズについて、解釈しています。
過去や未来のために今日を売り渡すようなことをしなければ、僕たちは何者にでもなれる
これこそDavid Bowieの活動の多岐にわたる活動を包括的に捉えているように私は思います。
▼PS. David Bowieをこれから聴くなら、こちらに名盤リストをまとめましたのでご参考にどうぞ。
貴下の従順なる下僕 松崎より