私の愛しいアップルパイへ
好きなことなら自然に手をつけられるというのは、根強い誤解です。私たちが自然にやっているのは”見返りのあること”であり、好きなことではありません。好きなことをやろうとするなら、相応の努力が求められます。私たちのようなナチュラル・ボーン・ドリーマーズにとってこの問題は大変現実的な問題です。
かような好きなことに手をつけられないというベーコンエッグのように当たり前に存在する問題について私は強い興味があります。いえ、生まれてからいままで、ずっとこの問題と戦ってきたような気がします。
この問題には様々な切り口があるのですが、今日は「スタンフォードの自分を変える教室」で紹介されている「モラル・ライセンシング」と呼ばれる問題とその対策についてご紹介します。
▼モラル・ライセンシング効果については、こちらの動画で詳しくまとめていますので、こちらもぜひご覧ください。
▼「スタンフォードの自分を変える教室」についての我が感想とまとめはこちら
良いことをすると悪いことをしたくなる
こと善悪の問題に関しては、たいていの人は道徳的に完全でありたいなどとは思っていません。ですから、少し良いことをすると、こんどは自分の好きなように行動してもいいだろうと思ってしまいます。
スタンフォードの自分を変える教室 第4章 罪のライセンス
モラル・ライセンシングは「スタンフォードの自分を変える教室」の中でも飛び切り衝撃を受けた話でした。簡単にいうとモラル・ライセンシングとは「良いことをすると悪いことをしたくなる法則」です。
「ハッハー!何を言い出すかと思えばjMatsuzaki!そんなバカなことがあるわけなかろう!人は良いことをしようと決意するからこそ、それを実行に移せるのではないか!レヒャリッヒ!(お笑いだわ!)」と思うかもしれませんが、よく考えるとこれは実に人間的な反応だと言えます。
思いあたる節はないでしょうか?早起きしようと思うと、もっと寝たくなる。ダイエットしようと思うと、もっと食べたくなる。勉強しなきゃと思うと、もっと遊びたくなる。午前中集中して働いたと思うと、午後はだらけても良いやと思いたくなる。
これがモラル・ライセンシングというものなのです。モラル・ライセンシングに陥ると、一歩進んで二歩退がる結果を引き起こします。
モラル・ライセンシングのトリガーをひくもの
あなたがモラル化するものは何であれ、モラル・ライセンシング効果の格好のえじきになります。たとえば、エクササイズをちゃんと行なったときには自分を「よし」とほめ、サボったときには「ダメ」とけなしていたりすると、今日はトレーニングに行っても、明日はサボる可能性が高くなります。
スタンフォードの自分を変える教室 第4章 罪のライセンス
モラル・ライセンシングのトリガーは常に「良いことをしようとしたとき」です。ここでいう”良いこと”とは、道徳的な善悪を対象としている点が鍵です。
道徳的に善なる行為をしたときには、いい気分になります。そのせいで、悪いことをしたってかまわないと思ってしまうわけです。
たとえば食事を節制してダイエットをすることが社会的に、道徳的に、人間的に善い行いであると考えている場合は、モラル・ライセンシングに陥ることでバカ食いするリスクが高まるため、ダイエットに失敗する可能性が高まります。
自分が道徳的に正しいと信じていること、清く正しいと信じていること、悪いことや恥ずべきことではないと信じていること、これらがモラル・ライセンシングを引き起こします。
早起きが善いことだと思っているなら、勉強することが善いことだと思っているなら、働くことが善いことだと思っているなら、もっと抽象的に成長することや進歩することが善いことだと思っているなら、もれなくモラル・ライセンシングのえじきになってしまうでしょう。
モラル・ライセンシングで先送りしやすくなる
寄付金の依頼を受けたとき、自分が以前に気前よく寄付したことを思い出した人たちは、そのような過去のよい行ないを思い出さなかった人たちに比べ、寄付した金額が6割も低いという結果が出ています。
スタンフォードの自分を変える教室 第4章 罪のライセンス
さらに悪いことに、モラル・ライセンシングの反動で憂さ晴らしをしたくなるだけでなく、モラル・ライセンシングには善い行為を抑止する効果もあります。過去に行った道徳的に善いとされている行いを思い出すと「今日くらいはいいか」と自分を甘やかしたくなるのです。
日常的に先送りが多い場合は、このようなモラル・ライセンシングに陥っている可能性があります。
しようと考えただけで、した気になってしまう
私たちは何かよいことをした気分になって──あるいはよいことをしようと思いついただけで──正しさに対する判断があまく曖昧になってしまうと、衝動に従ってもかまわないと思うようになります。
スタンフォードの自分を変える教室 第4章 罪のライセンス
悪いニュースは続きます。モラル・ライセンシングは実際に善い行いをしたときに陥るのではなく、しようと考えただけでもモラル・ライセンシングに陥ってしまうのです。
私たちは「これだけ善いことをしたなら、ご褒美としてこれをしても問題ないだろう」なんて論理的な判断はしていないのです。なにをどれだけやったらどんなご褒美をもらうべきかについて明確な定義を持ち合わせておらず、とても曖昧です。ですから、しようと考えただけでも直感的に善いことをした気になってしまうのです。
これで、ダイエットしようと思っていたのにいつの間にやら以前より体重が増えていたなんて事態にも合点がいきます。
なぜモラル・ライセンシングに陥ってしまうのか?
私たちはいくら自分のためになることでも、他人からそれを押しつけられるのには抵抗を覚えます。それと同じで、正しいことや自己改善を行なうために自分自身にルールを課そうとすると、コントロールされたくないと思っている自分がただちに抗議の声を上げます。
スタンフォードの自分を変える教室 第4章 罪のライセンス
モラル・ライセンシングが引き起こす状況は端から見るとひどく馬鹿げた行為に見えるかもしれません。しかし元来人は道徳的に善い人間でありたいと願う一方で、道徳や常識や社会なんぞに縛られず自由に生きたいというニーズが強いのです。
ですから、このモラル・ライセンシングは自由でありたいと願う人間的な欲求からくる抵抗といえるかもしれません。あるときは道徳を優先し、あるときは自由を優先し、結果的に相反する行動をとってしまっているのです。
無意識のうちに悪いことを行ってしまっているのではなく、自由を優先するという名目の上で理性的に自己正当化しているので、よりたちが悪いのです。
モラル・ライセンシングの突破口は道徳上の問題を切り分けること
モラル・ライセンシングのワナを避けるには、道徳上の問題と、たんにするのが難しいことを区別するのが重要です。税金をごまかしたり浮気をしたりするのは道徳的に悪いことですが、ダイエットをサボるのは道徳的に悪いことでも何でもありません。それなのに、多くの人はあらゆる種類の自己コントロールを道徳のテストのように考えています。
スタンフォードの自分を変える教室 第4章 罪のライセンス
では、どうすればこのようなモラル・ライセンシングのワナから抜け出せるのでしょうか。それはもちろん良いことを辞めることではありません。
問題の本質は、私たちが自らの目標達成に活きることを”道徳的に正しいかどうか”で判断してしまっていることです。一般的にダイエットをサボることや寝坊したこと、勉強を疎かにしたり、自己成長をないがしろにしたりすることをいちいち道徳的な天秤にかけて裁いてしまっているのです。
しかし、ダイエットも早寝早起きも勉強も自己成長も決して善悪の問題ではないのです。この自覚がモラル・ライセンシングの突破口になります。
「なぜやるか?」を考えればモラル・ライセンシングを回避できる
モラル・ライセンシングのワナにはまらないようにするには、「ありのままの自分が最高の自分になることを望んでいる」のだと、そして、「自分自身の価値観に従って生きていきたい」のだと、しっかり自覚する必要があります。
スタンフォードの自分を変える教室 第4章 罪のライセンス
具体的な方法について整理していきましょう。まずもって有効なのは「なぜそれをやるのか?」を思い出すことです。モラル・ライセンシングのトリガーとなるのは、うまくいった結果にフォーカスしたときです。今日は間食しなかったとか、今日は早起きできたといった結果にフォーカスするとモラル・ライセンシングに陥りやすくなります。
うまくいった結果ではなく、努力する姿勢にフォーカスすると、このモラル・ライセンシングを回避できる可能性があがります。早起きできたかどうかではなく、なぜ早起きしたいのかを思い出せば、相反する衝動を抑えやすくなるのです。
実際、誘惑に負けなかったときのことを思い出してもらった人はそのあと自分を甘やかす行動をとり、”なぜ”誘惑に負けなかったかを考えてもらった人は誘惑に負けなかったそうです。
「なぜそれをやるのか?」を文章に整理しておいて、定期的に読み返すのも良いでしょう。そういった文章を作るのが苦手なら、「ありのままの自分が最高の自分になることを望んでいる」ってことを、「自分自身の価値観に従って生きていきたい」ってことを思い出せば、誘惑に抵抗できるようになるはずです。
本当にあとで挽回できたかをチェックする
「あとで挽回できる」と思ってしまうと、自分に甘い選択をしても気がとがめなくなってしまうのです。
スタンフォードの自分を変える教室 第4章 罪のライセンス
モラル・ライセンシングに陥って自己正当化するときの基本的な言い訳は「次こそは挽回するぞ!」です。私たちは先のことを楽観視しやすく、今回は誘惑に負けてしまったとしても次は取り返せるだろうと思ってしまいます。挽回のチャンスがはやくやってくる場合にはこの傾向はより高まります。
「なぜそれをやるのか?」に加えてモラル・ライセンシングを回避する方法の1つは、「次は本当に挽回できたのか?」をチェックすることです。モラル・ライセンシングのワナに落っているときには次は挽回できるから問題ないと考えています。それが自己正当化の嘘であることが分かれば安易にモラル・ライセンシングに陥ることを防げます。
モラル・ライセンシングによく陥るパターンが見えているならば、それをカウントするのが良いでしょう。間食の回数や寝坊した回数などを記録しておけば、モラル・ライセンシングに陥る回数を減らせるでしょう。
よくあるパターンが明確でないならば、日記を書くのもオススメです。1日を振り返って日記を書けば誘惑に負けたかどうか、そのときの状況、モラル・ライセンシングのパターンが見えてきます。
今日は「スタンフォードの自分を変える教室」のなかでもとりわけ衝撃を受けた「モラル・ライセンシング」を取り上げました。この本は章ごとにテーマが変わるのですが、モラル・ライセンシングについて書かれた4章以降の章で目から鱗の発見が多数あって感動した一冊です(10章まであります)。
▼気になったなら手にとってみてください。特に4章以降がとってもオススメです。
▼本書についての我が感想とまとめはこちら
貴下の従順なる下僕 松崎より