SOLO TIME (ソロタイム) ひとりぼっちこそが最強の生存戦略であるを読んで一人になる時間の大切さを再認識した

私の愛しいアップルパイへ

アリストテレスをひくまでもなく人間は社会的動物であるとはよく知られていますが、良い面と悪い面があるのも確かです。人と繋がれば一人ではできない大きなことが実現できますが、人間関係によって磨耗してしまい幸福度が下がってしまうことだってあります。

アルフレッド・アドラーはすべての問題は人間関係に帰結すると言っていますし、セーレン・キルケゴールは社会という有限な存在の中に身を投げて、みんなと同じになろうとすることで自己を放棄することから生まれる絶望を「有限性の絶望」として「死に至る病」だと表現しました。ジャン=ポール・サルトルはそれを指して「出口なし」だと言いました。

人間関係の泥沼にはまり込んで自らの人生を磨耗してしまうような事態は誰だって避けたいものです。そのためには一切の問題が発生しないように八方美人を極めればいいのでしょうか。いいえ、それじゃあ窮屈すぎるし幸福とは程遠いってものです。

そんな問いに答えてくれる一冊の本があります。精神科医である名越康文さんが著した『SOLO TIME (ソロタイム)「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』です。

ソロタイム、なんて甘美な響き!

24時間つながり合ってソロタイムを失っていないか?

私は自身が経営する会社やオンラインコミュニティ「ライフエンジン」をはじめ、ベルリンの友人や語学学校、地元の友人、家族など複数のコミュニティに所属しています。これは決して多い方ではなく、きっとあなたも望むと望まざるに拘わらず同じくらい多くのコミュニティに所属しているでしょう。

贅沢な悩みではあるのですが、幸いにも私はオンラインでもオフラインでも毎日様々な人と交流しています。おそらくは過去最高に友人の多い生活かもしれません。なんといっても現代は文字通り24時間だれかと繋がっている時代です。

一方で、最近では一人の時間がほとんど確保できていないことに気がつきました。もっといえば人との交流の中で相手に気を使って磨耗してると感じることが増えたなと思うようになっていました。「どんな返信が来るかな?」「相手に嫌われてしまったかな?」「期待に応えるにはどうすればいいのだろう?」などといった類の不安は絶えません。

思い返してみればブログを始める7年前、冴えないサラリーマンだった私は夜な夜な近所を徘徊していたものでした(いまほど友達がいなかったものですし、インターネットもさほど活用してませんでしたから)。何をするでもなく、大抵は好きな音楽を聴きながら夜の街を練り歩いて自分の思索に没頭していたものです。

ある日、このような「ソロタイム」が実は人生の幸福度を上げるのに重要な役割をになっていたのではないかと感じるようになりました。そこで手に取ったのが先ほどの一冊です。

本書は、生活の質を上げるために所属しているコミュニティから離れて一人だけになれる時間(=ソロタイム)を定期的に確保することの重要性を説いた本です。現代は多くの人が社会に「過剰適応」しようとして疲弊してしまっていることから、ソロタイムの大切さが謳われています。

本書を読んでから意識的に自分一人の時間を確保するようにしているのですが、驚くほど精神的なプレッシャーから解放されて生活が整ってくるので不思議な感覚です。

本書は精神科医でもある著者の知恵をもとに、ソロタイムの効用から具体的な実践方法までが平易な言葉で書かれており、実に良い本でした。

ソロタイムを取り戻してプレッシャーから解放される

ソロタイムとは何かについて、本書では以下のように語られています。

他人の声は四六時中、私たちに「こうあるべき」「こうすべき」「これはやってはいけない」といったプレッシャーをかけてきます。群れの中で過ごす時間(=ソーシャルタイム)の間、私たちはこうした「心の中の他人の声」から自由になることはできません。

心の中の他人を追い払い、自分自身に向き合う「ひとりぼっちの時間」(=ソロタイム)を過ごす。そうすることによって、私たちは、日ごろのさまざまなプレッシャーから解放され、初めて、自分自身に向き合うことができるのです。

by SOLO TIME (ソロタイム)「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である 第1講 あなたは群れの中で生きている

本書では他人との時間=ソーシャルを軽視しているわけではありません。むしろソーシャルタイムを重視しているからこそ、ソロタイムのなかでソーシャルタイムの中で生きる自分を見つめ直し、より適切なソーシャルタイムを過ごすことを推奨しています。

それではソロタイムを導入するコツについて簡単に見ていきましょう。

群れの中にいる間は思考の偏重に気が付けない

ソーシャルタイムにどっぷり浸かって「過剰適応」する一番の危険は、思考の偏重に気がつけないことです。

私たちは、自分の感じ方や判断基準が、どれくらい他の群れにいる人々と異なっているかを、正確に把握することができません。なぜなら、群れの中で過ごしている限り、あなたは、あなたと同じように感じ、あなたと同じように行動する人に囲まれているからです。

群れの中で過ごすことによって身についた、無意識の行動や思考の癖を、社会学者のピエール・ブルデューは「ハビトゥス」と呼びました。ハビトゥスは、所属する群れが違うと、微妙に異なります。

by SOLO TIME (ソロタイム)「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である 第2講 本当の自分の人生の見つけ方

良くも悪くも思考はソーシャルタイムの影響をダイレクトに受けます。「世界は信用ならんものだ」と考えるコミュニティに属せば、その思考の癖は感染します。「人生は死へと一歩一歩近づいていく悲劇である」と考えているならそれが、「自分がのし上がらなければ引きずり落とされる」と考えているならそれが、といった具合です。

コミュニティにはそのコミュニティ特有のハビトゥスがあります。これは悪いことではありません。一番の問題は、ソーシャルタイムにどっぷり浸かっていると思考の偏重に気がつかなくなることです。

だからこそ自分を客観的に見つめて、自分の軸となる価値観や行動基準を見直すための時間となる「ソロタイム」が重要になってくるのです。

ソロタイムは目的意識を持たずに過ごす時間

では、そもそも何をもってソロタイムと言えるのでしょうか?それは「目的意識」をできる限り捨てた時間を作ることです。帰りがけに途中下車して寄り道するときのように、特定の目的を持たずに過ごすのがソロタイムです。

単に一人の時間であればすでに多く持っているはずです。しかし、出勤やトイレ、買い物などの特定の目的を一切持たない時間となると話は別ではないでしょうか。そういった時間は1日の中には一切無い人がほとんどだと思います。

目的意識に雁字搦めになっているからこそ、意識的に「目的意識を持たない」時間を確保することが重要なのです。

ソロタイムのオススメは「旅行」「掃除」「瞑想」

ソロタイムとして具体的にオススメされているものは大きく3つあります。「旅行」「掃除」「瞑想」です。

旅行は分かりやすいでしょう。一人旅といった言葉がある通り、一人で三〜四泊以上の旅に出ることは有効なソロタイムになります。旅の際には「今回はここを回ろう」「なるべく多くの観光名所を回ろう」などとは敢えて考えず、気の赴くままに移動してみると良いでしょう。

▼旅に出て感じたソロタイムの効用については以下の記事にもまとめています。

もっと休もう。もっと創造的になるためのゆとりを作ろう

とはいえそう頻繁に一人旅に行くのは難しいでしょうから、日々の生活にソロタイムを導入する方法としてオススメされているのが「掃除」です。これは意外でもあったのですが、片付けや掃除をすると「モノを手放す」意識が強まり、普段の生活を客観的に見直すトリガーになるのだそうです。古くから家事や掃除は「行」とされてきたのも頷けます。

また、瞑想も分かりやすいソロタイムの一つです。昨今ではマインドフルネスという言葉が一般的になりつつありますが、瞑想を通して今この瞬間に集中することは効果的なソロタイムの習慣の1つとなります。

▼「マインドフルネス」とは何かについてはこちらもどうぞ。

最近マインドフルネスってよく聞くから今さらだけど調べてみた

▼「瞑想」のやり方やコツについては以下の記事が参考になるでしょう。

瞑想で頭のなかを空っぽにする3つのコツ

ちなみに、私が実際に行なっているソロタイムはというと、語学学校でのドイツ語の授業が終わった夕方の帰り道に、意識的に寄り道してソロタイムを設けるようにしています。また、本書を読んでから積極的に旅をするようにもなりましたし、一日5分の片付けと瞑想の習慣も日々行なっています。

本書では他にもソロタイム中にオススメの読書や、身体を観察しながら自分をチェックする方法や、怒りを振り払う方法など、ソロタイムをさらに効果的にする幅広いノウハウが本書には詰め込まれています。日常にソロタイムを導入しようと思ったらぜひ本書を一読してみてください。

毎日ソロタイムを導入して生活の質を上げる

本書にはこんな一節があります。

「人間関係が人生のすべて」になることが、現代人特有の不幸を生み出している。 これは、精神科医として多くの人と接する中で得られた、ひとつの結論なのです。

by SOLO TIME (ソロタイム)「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である 第1講 あなたは群れの中で生きている

本書を読んで以来、毎日意識的にソロタイムを設けるようにしたのですが、これが生活を豊かにしてくれて気に入っています。毎日、目的意識のない時間を作り、公園で読もう読もうと思って読めていなかった本を読んでみたり、近所の通ったことのない道を歩いたり、お気に入りの音楽を聴きながら橋の真ん中でゆっくりと日の入りを眺めたりしています。

どうも最近ソワソワして落ち着かないとか、人間関係から来るプレッシャーで視野が狭まっていると感じるところが少しでもある人なら(つまりすべての日本人)、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

▼ソロタイムについては以下のF太さんとのラジオでも取り上げましたので、こちらも併せてどうぞ。




貴下の従順なる下僕 松崎より

著者画像

システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。