未来の理想を想像するより、過去を物語形式で思い出す方が課題や問題を解決する役に立つ

私の愛しいアップルパイへ

直面した課題や問題、不安をどう乗り越えるかは私たちのような夢見るリアリストにとって重要な問いです。

自らを鼓舞するようなメッセージを投げかけたり、前向きになれる占いに頼ってみたり、お気に入りのアイリッシュパブでギネスビールを飲んでみたりと、その方法は様々です。

なかでも理想を具体的にイメージして、そのための具体的なプランを組んで、日々のアクションに落とし込んでいく方法はよく知られています。

今日はそれとは違う一風変わった方法をご紹介します。それは物語が持つ素晴らしいパワーを活用する方法です。しかもその物語は、理想の物語ではなく過去の、つまり既に起こったことの物語なんです。

物語が人に与える2つの効能

アイデアをいかにして世に広めていくかを紐解いた名著「アイディアの力」には、物語が人に与える特別な力が解説されています。

本書によれば、物語には「シミュレーション」と「元気づけ」という大きく2つの効能があるそうです。

物語には、シミュレーション(いかに行動すべきかという知識)と元気づけ(行動する意欲)という二段階の効果がある。大事なのは、シミュレーションも元気づけも、行動を生み出す効果があることだ。

「アイデアの力」 by チップ・ハース、ダン・ハース 第六章 物語性より抜粋

シミュレーションと元気づけ!物語には「やるだけやってみよう!」とか「とにかく行動してみよう!」とか「プロセスを楽しもう!」といった抽象的なメッセージとは違って、具体的な文脈によってもたらされる特別なパワーがあるのです。ナイス!

未来の結果をイメージするより、過去の経緯をシミュレーションする

では物語のパワーを日常生活に役立てるにはどうすれば良いでしょうか。同じく「アイデアの力」によれば、日常で物語の力を活用する方法として実に示唆に富んだ実験が紹介されています。

それはカリフォルニア大学ロサンゼルス校の学生グループを対象に行われた実験です。この実験では、学生たちに生活上の悩みを解決する方法を以下3つのグループに分けて取り組んでもらいました。

  • 対照グループ:問題解決に関する簡単な指導を受ける
  • 事象シミュレーショングループ:悩みが生まれた経緯を再現する
  • 結果シミュレーショングループ:悩みが好ましい結果に終わる様子を想像する

この3つのグループのうち、最も問題解決が捗ったのはどのグループだったのでしょうか?本書を引用しましょう。

二つのシミュレーショングループは、シミュレーションを終えてから帰宅した。どちらのグループも、毎日五分ずつシミュレーションを繰り返し、一週間後にまた来るように言われた。ここで読者に問題だ。どのグループが一番うまく悩みに対処できたかを当ててほしい(ヒント――対照グループではない)。正解は事象シミュレーショングループ、つまり問題の経緯を再現したグループだった。彼らはほぼすべての面で、他のグループをリードしていた。つまり、将来の結果を想像するより、過去の出来事を再現する方が、はるかに役立ったのだ。事実、この二つのグループには、実験直後から大きな差が出た。事象シミュレーショングループの学生は、帰宅した夜の段階で既に他のグループより前向きな気分になっていた。一週間後、実験室を再訪した事象シミュレーショングループは、ますます優位に立っていた。問題解決のために具体的な行動をとったり、他人に助言や助けを求めた学生の割合が他グループより高く、何かを学び成長したとする割合も高かった。この結果は、ちょっと意外かもしれない。巷に溢れる一般向けの心理学の本の多くは、成功した自分をイメージしなさいと勧めている。だが実際には、ポジティブ思考だけでは解決にならない。お金持ちになる方法を指南するなら、「リッチになった自分を想像しよう」と勧めるより、「貧乏になった経緯を思い出そう」と勧めるべきかもしれない。

「アイデアの力」 by チップ・ハース、ダン・ハース 第六章 物語性より抜粋

これは意外な結果に思います。ただ単に 問題にぶつかるまでの経緯を具体的に思い出すことが、問題の突破口を開くというのです。

不安や課題を突破するために未来の具体的なイメージを想像する方法が広く知られていますが、それは思ったより効果的でないことも多くあります。それよりも、一見すると無駄で面倒に思われがちだとしても、問題や課題に直面するまでの出来事を物語のように思い出すことができれば、それだけで十分に効果があるようです。

しかも過去の出来事を思い出すことの方が、実際に起きた出来事を整理するだけでよく物語を書く才能に恵まれていなくても実行できます。このことは仕事上の問題であれ、人間関係上の問題であれ、あらゆる問題や課題、不安に応用できるでしょう。

過去の出来事を物語形式で整理して活かす3つの方法

「では、どうやって?」

素晴らしい質問です。

「では、どうやって?」はこの世で最高の質問のうちの1つです。

私自身、過去の自分の人生に起こった出来事を物語形式でまとめることによって多くの素晴らしい効果を得てきた自覚があります。

ここからは私が実際に取り組んでいる過去の出来事を物語形式で整理するための3つの方法をご紹介しましょう。

生まれてから今までの自分史を書いてみる

まずもってオススメしたいのは自分史を書いてみることです。自分史は生まれてから今までの自分の歴史を年表のように書き記すものです。今までの出来事を思い返して重要な出来事を1つ1つ意味付けしていきます。

▼私の自分史については以下に書かれておりますのでご参考にどうぞ。

jMatsuzakiとは誰か?

私は自分史を年に一度のペースで更新し、過去の出来事の物語を整理し直す習慣にしています。自分史に立ち戻ることで、人生の新たな突破口が見えてくることもよくあります。自分史はまさにシミュレーションと元気づけの両方の効果を引き出してくれます。

▼自分史については以下でも取り上げておりますので、こちらもご参考にどうぞ。

これからの方向性を考えるときはまず自分史に立ちかえる

ネクストッ!

定期的に過去の物語をブログにアウトプットする

もう一つ圧倒的にオススメしたいのは、自らの過去の物語をブログにアウトプットすることです。あなたもご存知でしょうけれど、私はこの愛すべきブログに過去の物語をアウトプットしてきました。

ブログに情報やニュースを書き溜めるのではなく、挑戦と体験と発見をアウトプットするドキュメンタリーブログを書くことで、物語のパワーを受け取ることができます。

先に紹介した自分史がこれまでの人生のまとめなら、こちらのブログへのアウトプットは特定の出来事にフォーカスした物語です。実験の事象シミュレーションはこちらに近いでしょう。

▼例えば、以下の記事ではまさに問題に直面した経緯を“事象シュミレーション“しながら物語に整理し直すことで、突破口を見出しました。

脱サラして半年で貯金が0円になったときの話

実際のところ、このように過去の事象シミュレーションによって新たな突破口が見え、半年ほどで問題の突破口が開けたのです。

▼ブログにドキュメンタリーとして自らの人生の物語をアウトプットしていくことについては、以下の記事でも論じておりますのでこちらもご参考にどうぞ。

あなたがブログに自分のドキュメンタリーを書き残していくべき3つの理由

ネクストッ!

タスクシュート時間術で行動と感情のログを残す

さらにオススメしたいのは、タスクシュート時間術によって行動と感情のログを残すようにすることです。

自らの物語を整理し直す上で、行動や感情のログほど役立つ情報は他にありません。日々タスクシュート時間術を実践し、行動と感情のログを残すようにすれば、物語が必要な時にそれらを最大限活用することができます。もっと言えば、日々行動ログを残すことによって自らの行動や感情に対して敏感になり、自然といま整理し直すべき物語が見えてくるようになる効能もあります。

そのうえタスクシュート時間術ですから、さらには時間の使い方が上手くなる効果もありますので、得られる効果は大きいです。

▼以下の記事ではTaskChute Cloudを使った行動ログの記録方法が掲載されていますので、こちらもご参考にどうぞ。

「TaskChute Cloud」で「マニャーナの法則」に徹底的に基づいてタスクを処理した1分単位の行動ログを晒す

ネクストッ!

過去の物語を編纂し直してセルフストーリーを書き換えるパワー

この一連の情報とその実践を通して私が感じたのは、自らが自分の人生に対して思い描いているセルフストーリーを書き換える事のパワフルさです。

よく痛感するのですが、人は自らが自分の人生に対して思い描いているセルフストーリーに基づいて生きているように思われます。

▼それは以下の記事でも書いたことです。

自己肯定感を高めるためにできるオススメのこと8選

過去の出来事を物語形式で整理するパワーは、自らの思い描いているセルフストーリーを思い出したりまたはそれを適切に書き換えたりするために役立ちます。

過去の出来事を物語形式で整理する習慣は自分の人生を主体的に築く突破口になるかもしれません。

少なくとも私は以前、未来の理想を描いてぐずぐずと行動できずに鬱屈と生活しているタイプの人間でした。そんな私にとって有効だったのは未来の理想を具体的に思い浮かべることではなく、むしろ過去の出来事を物語として事細かに整理し直す習慣だったのです。それは「面倒だから」「もう分かっていることだから」と蔑ろにしていたことでした。

私のように未来のイメージを原動力にするタイプの人は、過去をおろそかにしがちかもしれません。そんな人こそ過去の物語を整理して自らのセルフイメージを書き換えることを試してみるといいのかもしれません。たとえそれが面倒そうに見えたとしてもきっと取り組んでみる価値はあるはずです。

▼なお、以下のラジオ放送では今日お話ししたような物語の力についてひらめきメモのF太さんと対談しています。この記事が役立ったようでしたらきっと以下のラジオもお気に召すと思いますので、ご視聴してみてください。

貴下の従順なる下僕 松崎より

著者画像

システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。