行動記録とレビュー習慣で自分を深く知れることが時間管理の最大の収穫

私の愛しいアップルパイへ

私が山の上で蛇と鷲を連れて生活しているとして、突然現れた道化師に「かの素晴らしき愛おしき『夢』へと向かうために必要不可欠な習慣とは何か?」と問われたのなら、私は行動記録とそのレビューだと答えるでしょう。

しかし、行動記録とレビューというのは、どうも地味ですし人によってはしばしば取り組み難く、継続が難しいように思われるようです。そのうえ行動記録とレビューは継続してこそパワフルな効果を発揮するのですから困ったものです。

ですから、行動記録とレビューの意義について今日はお話しましょう。私は駱駝から獅子に生まれ変わって以来、長らくこの2つのことについて語ってきたつもりですが、我が言を聞いたカウボーイの中にはそれらがどうしても続かない、効果を感じられないといった人も居るのが実情です。

そこで今日は8年以上に渡って行動記録とレビューを継続してきた私が、その動機と目的、そして報酬についてお話しします。きっと行動記録とレビューを継続する助けになるはずです。

行動記録とレビューの目的と動機を持てば習慣化できる

まずもってお伝えしておきたいのは、習慣というのはなんでもそうでしょうが、その習慣に取り組む目的、意義、効果、報酬についての知識をどれだけもっているかが、習慣化の成否に大きく影響するってことです。

なぜそれをやるのか?動機はなんなのか?それをやるとどんな効果があるのか?それをやることで得られる報酬はなんなのか?

といった疑問にいつでも答えられるようにすることは実に大切です。なぜなら、習慣を続けることが辛く大変だと感じた時(必ずその時は来るものでしょう!)、それらの質問に明確に答えられなければ容易に挫折してしまうからです。

一点大切なのは、レビューによって大きな成果や成功、評価が得られるというような外発的な動機づけに依存しないようにすることです。レビューするたびにチョコレートを食べるとか、レビューするたびにSNSで「いいね」を得られるとか、外発的な動機づけに依存すると習慣を継続するのは難しくなります。

そうではなく、その習慣を実行すること自体から得られ新しいひらめきとか心理的な変化のような、内発的な動機づけを原動力にすることで習慣は継続しやすくかり、また習慣から得られる効果も大きくなるでしょう。

では、行動記録とレビューの内発的動機とは何なのでしょうか?それをこの記事では深掘りしていきます。

厳しい現実を直視すれば自分が奮い立つ

行動記録とレビューの内発的な動機づけとなる第一の要因は、現実を直視することで現実を突破しようと自分自身を奮い立たせることができることです。

このことをビジョナリー・カンパニー 2のなかでジム・コリンズ氏は「ストックデールの逆説」と説きます。

ストックデ ールの逆説

どれほどの困難にぶつかっても、最後にはかならず勝つという確信を失ってはならない。

そして同時に

それがどんなものであれ、自分がおかれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視しなければならない。

「ビジョナリー・カンパニー 2 – 飛躍の法則」 第四章 最後には必ず勝つ by ジム・コリンズ

▼「ストックデ ールの逆説」と時間管理の関係については以下でも詳しく論じていますので、こちらも参考にどうぞ。

ストックデールの逆説に基づいたタスクシュート時間術は日常に並々ならぬ活力を与えてくれる

夢へと向かう推進力を得るべく、理想を具体的にイメージしたり、長期的なプランを練ったりすることが有効であるとはよく説かれますが、実は理想を描くより現実を直視した方が推進力は得られるかもしれません。

ベトナム戦争に従軍して、8年ものあいだ捕虜収容所に収容されて命からがら生き延びたストックデール将軍によれば、捕虜生活に耐えられずに死んでいった兵士の特徴は“楽観主義者“だったそうです。つまり、根拠のない理想にすがっては夢破れ、失望が積み重なっていくうちについには生きる気力を失ってしまうのだそうです。

必要なのは厳しい現実を直視することであり、これは直感に反するかもしれませんが、厳しい現実を真正面から捉えることができれば「やってやろう」って気持ちがグワッと盛り上がってくるのです。

自らの行動を記録してレビューする習慣は、普段目を背けていた厳しい現実を直視することになります。そして、そのこと自体が生活の質を上げる最初の運動となるでしょう。

自分を知ることだけが真の喜びにつながる

そしてもう一つ。行動記録とレビューの習慣がもたらす素晴らしい内発的動機の一つは、自分を知ることによって、それ自体が大きな喜びにつながります。

ニーチェなどに影響を与えた実存主義の先駆者として知られる18世紀ドイツの哲学者ショーペンハウアーはこう言っています。

自分の弱点を思い知らされることは、おそらく最大の精神的苦痛の原因となる屈辱である。おのれの無能をありありと見せつけられるよりも、おのれの不運を見せつけられる方がはるかに我慢しやすいのはこのためである。

(中略)

自分の力量を使って、そして自分の力量を実感するというよりほかに本来喜びがあろうはずもなく、最大の苦痛は、力量を必要とする場面で、力量が不足していることに気がつくことだからである。

「意志と表象としての世界」第四巻 by ショーペンハウアー

自分に対する知識を増やし、それを元に日常の様々な判断を下せるようになることは、幸福度を上げてくれます。人生の方向性を誤ることが減り、自分にあった場所で活動できるので失敗が減り、些細なことで思い悩むことも減るでしょう。

逆に、自分に対する知識が貧しく、様々な判断を誤ったり弱点によって意図せぬ失敗を重ねることは、幸福度の低下に直結してしまいます。

行動記録とレビューによって自分をもっと詳しく知ることは、幸福への特急券なのです。

自分に関する心的イメージを作る

では、自分に対する知識を増やすこと、自分を知ることとは、どういった状態をさすのでしょうか?良い質問です。

アンダース・エリクソン博士は、ある特定の分野で卓越した知識を身につけた状態について「心的イメージ」という概念を使って説明します。ちなみに、これはマルコム・グラッドウェル氏が提唱した、かの「一万時間の法則」の元となった研究でもあります。

心的イメ ージとは、脳が今考えているモノ、概念、一連の情報など具体的あるいは抽象的な対象に対応する心的構造のことである。

(中略)

突き詰めれば心的イメ ージとは事実 、ルール、関係性などの情報がパタ ーンとして長期記憶に保持されたものであり、特定の状況に迅速かつ的確に反応するのに役立つ。

「超一流になるのは才能か努力か?」 by アンダース・エリクソン

▼アンダース・エリクソン博士の「超一流になるのは才能か努力か?」については以下で詳しく論じていますので、こちらも参考にどうぞ。

アンダース・エリクソン教授の超一流になるのは才能か努力か?を読んだ感想とまとめ

今回の記事の主旨に基づくならば、「自分」という概念について持っている事実や関係性の複雑なパターン認識ということになります。この心的イメージを構成する知識の質と量が多ければ多いほど、つまり自分に対する精緻な心的イメージが作り上げられているほど、自分について詳しいということになります。

アンダース・エリクソン博士によれば、卓越した知識を構成する記憶はかなりコンテキスト(文脈)に依存していて、実際的に現れる具体的なパターンに基づいているそうです。行動記録とレビューはまさに「自分」の精緻な心的イメージを構築するための、具体的なコンテキストに基づいたパターン認識になるでしょう。

行動記録とレビューは自分に対する心的イメージを作る訓練になります。一日のコンテキストに基づいて自分がどのような人間であるかを詳しく知る訓練です。これは、この世に数ある強み診断よりもずっと詳しく自分を知ることができるはずです。

自分に対する知識が増えると未来の選択肢も増える

ここまでで行動記録をとってレビューする習慣の2つの内発的動機について語ってきました。第一に自分を奮い立たせること、第二に自分を知る喜びです。少し地味すぎると思いますか?私はそうは思いませんけど。あなたは貪欲なお方だ。

それでは最後に行動記録とレビューによって得られる実際的な報酬についてお話しします。この習慣によって得られる報酬は、柔軟なキャリアプランを構築するための変身資産になるってことです。

リンダ・グラットン氏によれば、人生100年時代を生き抜くために必要なのは柔軟なキャリアプランで、それを実現するために必要不可欠なものが「変身資産」だそうです。

変身資産とは、型にはまった人生から飛び出して新しいキャリアを築くための、つまり“変身“するために必要な無形資産のことです。リンダ・グラットン氏による代表的な著書「LIFE SHIFT」にはこう書かれています。

もう一つ予想されるのは 、勤労期間が細切れ化することだ 。知識の蓄えが底を突き 、健康とモチベ ーションが枯渇し 、友人や家族との結びつきが断ち切れるのを避けるために 、大半の人はキャリアをいくつかの段階に分割することを望むだろう

(中略)

有形の資産と無形の資産のバランスを取るためにマルチステ ージの人生を生きる必要が出てくるとすれば 、私たちは新しいタイプの資産を築かなくてはならなくなる 。それは 「変身資産 」とでも呼ぶべきものだ 。人生の途中で変化と新しいステ ージへの移行を成功させる意思と能力のことである。

「LIFE SHIFT」 第4章 見えない「資産」 by リンダ・グラットン

▼リンダ・グラットン氏の「LIFE SHIFT」については以下で詳しく論じていますので、こちらも参考にどうぞ。

100年ライフを実り豊かにする「変身資産」を増やすには?〜ライフシフトの実践〜

変身資産のうち、重要なピースとなるのが自分に対する知識です。自分に対する知識が豊富であれば、自分に向いた職業や、自分に相応しい労働環境、自分に合った人脈を築くことができます。これは変身を促進する重要な要素です。

現代が情報社会と呼ばれるようになって久しい今、大抵の情報ならGoogleで検索すれば1秒もせずに情報を引き出すことができますが、かの全知全能のGoogleですら答えられないことの筆頭が自分に対する知識でしょう。

情報社会の現代でGoogleですら答えられない情報なら、自分で収集するしかありません。それが行動記録とレビューの習慣って訳です。

自分を知れば“変身“を通してもっと柔軟なキャリアプランを築くことができるようになります。今ほど未来予測が難しい現代において、変身はオプションではなく必須です。

自分に対する精緻な心的イメージを持っていれば、人生の扉を内側から開く鍵になるでしょう。

貴下の従順なる下僕 松崎より

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システム系の専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生のころからの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。